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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第四章 救世主の弱点

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第204話 魔族との邂逅

(よし。もう少し近付ければ――)


 計画では奇襲で魔族軍の指揮官を仕留め、敵が混乱した所にミリティを逃がして更なる混乱を誘い、削れるところまで削り――


 残った魔族を仕留めていくつもりであった。


 だが――


「そこで止まりなさい!」


 後数メートル。


 それだけ近付ければ、研一の身体能力なら不意打ちで指揮官らしい魔族の男を奇襲出来そうな距離まで近付いた途端、その指揮官らしい男から静止の声が掛かる。


(ここからでも狙えない事は、ないけれど――)


 一般兵らしき魔族が影になっており、直接狙うのは難しい。


 だが、今の研一の力で全力で魔力を放てば、一般兵ごと薙ぎ払って指揮官を討ち取る事すら出来るかもしれないが――


 敵は敵は世界で唯一の魔武具制作の技術を持つ、ファブリス国を獲りに来ているのだ。


 魔族有数の精鋭部隊である可能性が高い。


(ミリティさん曰く、本当に強い魔族相手ならミリティさん一人じゃ手に余るらしいし……)


 かつて研一は炎の国サラマンドラでの戦いで、ジュウザという魔族と戦った事がある。


 その時は国の党首であるサーラ、国最強の騎士であるベッカ。


 そこに力こそ落ちていたが党首級の力はあった研一の、三人掛かりで挑んだものの、三人が連携して何とか互角。


 隙を突かれてサーラを戦闘不能に追い込まれた事を考えれば、実質敗北と言っていい戦闘内容であり――


 もしそこで研一が切り札とも言える自己嫌悪による、大幅な強化に目覚めなければ、研一は死に、サラマンドラ国は滅んでいただろう。


 一国の軍に匹敵する強さを持つのが、人の国の党首なら――


 強い魔族というのは、そんな党首三人分以上の力を持つ超常の化け物なのだ。


(まだ乱戦に持ち込むのは、避けたいな……)


 もしこの魔族部隊に、ジュウザに匹敵するような強敵が数名所属していて、入り乱れた戦いにでもなれば、ミリティを守り切る事は難しい。


 何せ魔族側としては、ミリティを生かして捕らえる必要はないのだ。


 例え死体であっても死んですぐに食べれば魔族は、ミリティの力を取り入れる事が出来るらしく、どさくさ紛れに殺して、その場で食べるなり、攫って行くだけでいいのだから。


(今回は切り札だってあるんだし、いきなり博打に走る必要なんてない、か)


 目の前の魔族軍を一撃で全て、消し飛ばしてしまえる程の力は今の研一にない。


 だが、正面から戦えば全員を相手にしても勝てるくらいの力は持っている。


 それならば安全に確実に削っていこう、と研一は決めた。


「おいおい、なんだその態度。折角てめぇ等の御要望通り、お姫様を苦労して連れて来てやったんだぜ? 魔族ってのは礼儀一つ知らないのかよ?」


 挑発的な態度を取りつつ、それでも研一は魔族の指示に従って足を止める。


 当初の計画とは違うが、あくまで都合よく事が運んでくれた最善の案。


 そこまで上手くいくとは思っておらず、次善の策もミリティとは打ち合わせ済みだ。


「黙れ! このファブリスのウジ虫共にも劣る、鬼畜の外道が!」


 そこで指揮官らしく派手な格好をしている魔族男。


 戦士というよりも綺麗な服でも来て社交界にでもいた方が似合いそうな細身で整った顔立ちをした男が、やはり戦場には似合わない小型で綺麗な短剣を抜いたかと思うと――


 遠くに居る研一に突き付けるように短剣を向け、怒りの声を上げる。


「貴様のような悪漢に払う礼儀なぞない! この私自らの手で裁きの刃をくれてやる!」


「ほう?」


 まるで研一達側が悪で魔族側が正義と言い切るような態度に、研一は思わず耳を傾ける。


 これまで魔族とマトモに会話した事がなかったのもあり、どんな考え方をしているのか、興味が沸いてきたのだ。


「待っていて下さい、ミリティ嬢! このアロガンス! 必ず貴女を悪漢共の手から救い出して見せますぞ!」


 研一が見る限り、アロガンスとかいう魔族の態度に嘘があるようには見えないし。


 それに今まで散々国を守ってくれたミリティを差し出して、自分達だけ助かろうとしたファブリス民がウジ虫と断言するのも解かるし。


 今もミリティに首輪を付けて連れ回している研一を鬼畜の悪漢だと罵るのも、全くその通りで反論のしようもない、なんて頷きたいくらいで。


「救い出して、ねえ。殺して食おうとしている奴等が何言ってんだ? 頭イカれてんのか?」


 だからこそ、どうしても理解出来ない事がある。


 そんな義侠心のようなモノを持っているのなら、どうしてミリティを優しく保護しようとするのではなく、殺そうとしているのか。


 ――もしアロガンス達が、ミリティを手厚く保護して。


 ミリティにこんな仕打ちをしたファブリス国を滅ぼしてやるなんて告げていたのなら、研一は、戦いから手を引いていたかもしれない。


「これだから人間というのは、救い難い……」


 まるで研一の頭がおかしいとばかりに、アロガンスは一つ息を吐いたかと思うと。


 それが当然である事のように、魔族の価値観を声高々に語り始めた。


「人間は、いつもそうだ。死ぬよりはマシ。生かしておいてやっただけ感謝しろ、だなんて身勝手な事を喚き、命以外の全てを奪い取っていく」


「…………」


 アロガンスの言葉に、研一の頭にセンの母親の事が浮かぶ。


 娘を人質に取られ、両手両足を切り落とされ、目さえ潰された果てに、無理やり男の相手をさせられていた魔族の女性。


 確かにそういう残酷な者が人間に居る事は、否定出来ないだろう。


「ただ生かされるだけの生き方に、何の意味がある! それはただ死んでないだけの空虚な時間に過ぎない。そんな物に価値などない!」


「だから苦しみ続けるくらいなら殺してやるのが情けってか? それこそ死んじまえば、そこで全て終わりだろうが」


 アロガンスの言葉がペット扱いされ尊厳も奪われて生きていくミリティを憐れんでの言葉なら、文句を言う筋合いなんて、本当はないのかもしれない。


 だって研一も、センの母親を殺す事しか出来なかったから。


「けどなあ。生きてたらやり直せるかもしれない。復讐する機会だって生まれるかもしれねえだろ! それをテメェ等の勝手な都合で殺すってのか!」


 それでも、アロガンスの言葉を認めたくなかった。


 辛くて苦しくて逃げ場もなくて。


 それならもう死んで苦しみから解放されるしかないという想いがあるのは知っているが、それでも、アロガンスの主張を否定する言葉が止められなかった。

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