第200話 センちゃん、ドン引き
(さすがは党首候補。やっぱ上に立つ者だし、素直で純情そうに見えたって、このくらいの演技は、お手の物だよね)
けれど、研一はミリティの心の内に全く気付かない。
本気で怯えるミリティの表情に悪党の演技を引き立てられ、更に激しく陰湿に責め立てる。
「これはアレだなあ。躾け直すのも面倒だし、もっと躾けられた扱いやすいペットを、新しく用意し・よ・う・か、なぁ?」
「よ、用意でござるか?」
そこで研一は、一つの懸念事項の解決へと動き出す。
もしすべてが終わってミリティが党首になるのなら、この茶番が致命的な印象悪化に繋がる可能性は否定出来ない。
それに――
「うわ、見ろよ。やっぱ恥知らずの獣人だな。俺ならあんな扱い受けるくらいなら死んだ方がマシだぜ……」
「アナタ、そんな事言ったら可哀そうよ。人の言葉話せるだけの獣に、私達みたいなプライドを期待する方が無駄でしょ?」
(ミリティさんが何の為に、こんな事してると思ってるんだ……)
巻き込まれたくないから自分達は関係ないとばかりに、目を逸らして何もしない連中に関しては、ギリギリ目を瞑ってもいい。
だが、あえてミリティに聞こえるように辱めるような言葉を垂れ流す者達の事だけは、どうしても放っておけなかった。
「丁度いい。躾け甲斐のありそうなのが目の前に居るじゃねえかよ!」
「ぬ、主様? 何を――」
恥ずかしがってペットらしく振る舞えないミリティから、急に興味を無くしたとばかりに研一は視線を外すと――
先程、これ見よがしにミリティを嘲笑っていた夫婦か恋人であろう、男女二人へと目を向ける。
「てめぇを捕まえた報酬に、この国にある物だったら何でも好きにしていいって、あの女党首には言われてるからなあ! 偶には趣向を変えて、番い一式揃えてみるのも面白えか!」
「ひっ!」
今まで自分達は関係ないとばかりに嘲笑っていた二人の顔が、恐怖に歪む。
かと思えば、次の行動には研一は心底、呆れる事しか出来ない。
「お、俺みたいな男なんて飼っても楽しくないですよ! これで妻は性格こそアレですが、ツラはいいんで――」
「は? ふざけんじゃないわよ! 私よりコイツの方が頑丈で、色々楽しめますよ!」
結局、安全圏に居ると思ってたから好き放題に喚いていた人間なんて、この程度。
いざ自分が危険に晒されたら誇りやらプライドなんて、どこへやら。
さっきまで笑い合ってた恋人を差し出してでも、自分が生き残る事しか考えられないらしい。
「ああ、そういや、こんな目に遭うくらいなら死んだ方がマシだったか。いやあ、嬉しいね。そうやって意地を張ってるヤツが、泣き叫ぶ姿を見るのも楽しくていいんだよ」
そこで研一が魔力を解放し、まるで軍隊に囲まれているような圧力が周囲に撒き散らされる。
もはや夫婦は逃げ出すどころか声を上げる事さえ出来ず、腰を抜かして倒れ込んでしまう。
「さすが誇り高い、ご夫妻だ! 逃げずに殺されるのを待つなんて! よーし、じゃあ期待に応えて、丁寧にじっくり殺して――」
心底楽しそうな様子で近付いてくる研一に、夫婦は揃って白目を剥いて気絶する。
更に失禁さえしていたが、研一は全く気にも留めてないような、ウキウキとした様子で歩を進めていき――
「ま、待つでござる! 拙者以外には手を出さない約束の筈でござるよ!?」
あまりの惨状に放心して動けずに居たミリティが、やり過ぎだとばかりに必死で研一の足に縋り付く。
もうミリティには、研一も自身も演技しているのか、本気なのか解からず。
ただ目の前で殺されようとしている自国の民を守る以外、何も考えられなくなっていた。
「ああん? だったら相応の態度ってヤツがあるだろ? この雌猫が、人様の言葉で口答えしてんじゃねえぞ」
「にゃん! にゃんにゃん! にゃあん!」
あえて怒鳴り付けるでもなく、吐き捨てるように放たれた研一の声に。
ミリティが必死で猫の声真似をしつつ、捨てないでとばかりに甘えるように足元に縋り付く。
羞恥も何もかも忘れて懸命に振る舞うミリティの姿は、もはや四つん這いになっている獣人でなく、完全に大きい猫を思わせる見事な演技であった。
「ははは! これがファブリス国最強の魔法使いの姿かよ! 情けないにも程があるぜ!」
もはや最強の暗殺者なんて言葉が、皮肉にしか見えない悲惨な光景に。
けれど、この姿を見たかったとばかりに、研一は満足そうに高笑いして、まるで悪役が高級なペルシャ猫でも撫でるように、ミリティの身体を撫でる。
(これで少しはミリティさんの全力の演技に、応えられたかな?)
どこからどう見ても、悪党そのものでしかない堂々たる姿を見せながら。
内心では、割といつもの研一らしい心の声を漏らしたところで――
(……研一さんのこういうトコ、本気で凄いと思う)
そんな研一の心の声を拾ってしまったセンは、讃えるような感想とは裏腹に、付いていけないとばかりに冷めた視線を送ったのであった。
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