第196話 反撃の起点は勢い任せに
「拙者に味方でござるか?」
研一から先程の事に付いて心当たりを聞かれたミリティは、驚いたとばかりに目を瞬かせる。
というのも、心を読む術がないミリティからすれば、先程の気配は、魔族の間者か何かの研一を見張る敵対勢力の者だと推測しており。
この状況でいきなり味方の話を振られるなんて、思っていなかったからだ。
「心当たりは、ない事もないでござるが……。それよりも先程の戦利品という話について、もう少し詳細を話して――」
だが、驚いた最大の理由は、別にある。
態度も言葉も酷いモノであったが、衛兵達から庇ってくれたとしか思えない研一の行動に付いて、想いを馳せていたからだろう。
再び熱くなり始めた顔の熱に身を委ねるように、ミリティがその事を訊ねようとするが――
「お、ここか。たーのもー!」
照れのせいで後半は尻すぼみになり、ほとんど声になっておらず。
丁度、目的地に着いたのも重なってしまい、ミリティの乙女な問い掛けは、研一の耳に届く事無く消えていく。
――代わりにセンが、ほっとしたように胸を撫で下ろした。
「ミリティファンクラブの皆さん、はーじめまーして! 君達のアイドル、ミリティちゃんの現飼い主様でーす!」
酒場であり宿屋でもある店の扉を、乱暴に開け放ったかと思うと。
中の反応を確認もせず、おどけた調子で店内に響き渡る声で挨拶とも言えない何かを叫んで入店する。
その途端――
(さすがセンちゃん。本当に助かる)
店中から、悪感情が一気に流れ込んできた。
ミリティを物扱いして怒っていた人達が一か所に集まっている場所が近くにあると言われ、示された店に入ったが当たりらしい。
だが――
(隠しているのか? さっき程、悪感情が流れてこないな……)
一番の目当ての人物は、居ないのか。
それとも何らかの手段で敵意を抑えているのか、想像よりもずっと流れてくる悪感情が薄い。
「おいおい! 今をときめく救世主様が来てやったんだぞ! 案内の一つくらいねえのかよ!」
「あ、あの、救世主様。ここは注文は自分で――」
まるで自分が歓迎されるのが当たり前だと言うように喚き散らす研一を見兼ねてか。
おずおずとミリティが、静止の声を掛けようとするが――
「ああん! 救世主か何だか知らねえが、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「このガキ! 構わねえ、畳んじまえ!」
小さな声なんて吹き飛んでしまう怒声と共に、入り口付近にいた男達が武器を振り被り、一斉に研一へと襲い掛かった。
まるで示し合わせていたかのような連携。
武器同士がぶつかる事もないように肩や足など狙いを分散させつつも、避け難くなるように役割分担された攻撃は、見事と言っていいだろう。
「はっ。遅ぇよ!」
だが、スキルの力で強化された研一の目には、ほとんど止まって見えている。
あっという間に襲撃者達を叩きのめし、床に転がしてしまう。
(衛兵達より、よっぽど強そうだったぞ……)
だが、簡単に倒せたのは研一が強過ぎただけの話。
連携も見事だったが、普通に振られたようにしか見えなかった筈の武器が、途中で形を僅かに変え、研一の身体を切り裂こうとしてきた。
拳一つ分程度の小さな変化ではあったが、本来なら、避けたと思った筈の攻撃に切り裂かれ、何が起きたかも解からず倒されていた筈。
こんな芸当、昨日の衛兵達の中には、誰一人使う者は居なかった。
「いいねえ! こういう少しは戦える奴等を探してたんだよ!」
研一は本心から告げつつ、周囲を見渡す。
仲間があっさり倒された事に怯えや驚きを見せつつ、それでも視線に、後ろに居るミリティを心配する色が残っている事が、嬉しかった。
「おい、てめぇ等。別に俺様は喧嘩しに来た訳じゃねえ。てめぇ等にも得する話を持ってきてやったんだから、聞けよ」
争う気なんて全くない、という意味合いの言葉とは裏腹に。
下手な事をすれば店ごと吹き飛ばしてやるなんて言わんばかりの、威圧的な魔力を漂わせながら、研一は店の奥へと進んでいく。
「おい、マスター。全員に飯と酒だ。代金は俺の名前を言えば、あの糞女党首が払う」
とりあえず、酒場で何かやる時には、酒を奢った方がいい。
そんな漫画やアニメで見ただけの知識に従い、それっぽく振る舞いつつ、研一は本題に入っていく。
「先に言っておくぞ。俺はコイツを魔族なんかに引き渡してやる気なんてねえ」
研一の言葉に周囲が、ざわつく。
期待と疑い、それぞれが入り交じる視線に晒されながら、研一は更に言葉を続けていく。
「見ろよ、この身体。顔だって悪かねえ。こんなの魔族に喰わせてやるなんて勿体ねえにも程がある。そう思わねえか?」
そして、この発言に周囲の視線の意味が一気に変わる。
失望と敵意。
放たれた下卑た言葉に同意する者なんて、この場には一人たりとも居らず、研一は満面の笑みを浮かべるのを止められない。
――傍から見たら、イカレタ提案をして、一人で自己満足に浸る危ない男であった。
「コイツとは、もう話は付いてるんだぜ。魔族は全員ぶちのめしてやる。代わりに全部終わったら、俺の物になれってな」
こんな話をすれば、周囲の人間が本当にミリティを大事に思っているなら、協力なんてしてくれなくなると思うかもしれないが――
(とにかく自分は本気で魔族を倒すつもりだ、って部分を信じさせないとな)
いつ魔族の使者とやらが来るかも、状況が急変するかも解からないのだ。
それならば、『魔族を倒す』という方針だけは固めておかないといけない、と研一は考えている。
「そんな話を聞かされて、俺達が協力するとでも思うのか?」
用意された酒にも手を付けず。
静かに話を聞いていた周りの人間から、怒りの声が上がるが、大袈裟に馬鹿にするように研一は嘲笑って告げた。
「お、じゃあ何か? てめぇ等は指を咥えてコイツが魔族に喰われるのを見過ごすってか?」
「そんな事は言って――」
「コイツ等が国から逃げ出すのを黙って見ている事しか出来なかったヘタレ共がさあ、何言ったって綺麗事にしか聞こえねえんだよ」
反論しようとする男に、研一は問答無用とばかりに、怒りすら滲ませ凄んで黙らせる。
実際、演技で乱暴に着飾りこそしたが、言葉自体は本心から出たモノではあった。
「それじゃあ俺様の力無しに、自分達の手だけでコイツを魔族から守ってやるってか? ああん、どうなんだ? 言ってみろよ?」
「い、いや、それは――」
それが出来れば苦労しない。
けれど、研一に協力を求めるのも嫌だとばかりに反論した男は口籠もる。
「俺はどっちでもいいんだぜ? あの糞生意気な党首だって、態度はアレだが良い女だからなあ。コイツを魔族に売り飛ばして、報酬代わりにあっちを抱いたっていい。だが、どうせなら魔族をぶちのめし、コイツもあの女も並べて抱いた方が面白そうだから、面倒だがそっちの方を取ろうとしてるだけなんでな」
アレも嫌だ、コレも嫌だなんて言いたげな煮え切らない男の態度に決断させるべく。
研一は本当に自分はどっちでもいい。
むしろ面倒臭さの方が勝るなら、いっそミリティなんて魔族に売り飛ばした方が楽だなんて言いたげな態度で、言葉を重ねつつ――
これが最後の機会だとばかりに、言葉を放った。
「おら、選べよ。俺に協力してこの女を生かしたいのか。力もねえ癖に意地だけ張って、この女を見殺しにしてえのか。選ぶのは俺じゃない。てめぇ等だぜ?」
喰われるのは痛いだろうねえ。
なんて止めとばかりに付け加えた研一の言葉に、ミリティがビクリと一度だけ反応してしまった事で。
それで周囲の決意は、固まった。
「解かった。話を聞かせてくれ」
「へへ、利口な奴等は好きだぜ。まあ安心しろって。ちゃんと可愛がってやるし、悪いようにはしねえからよ」
研一は何とか狙い通りに言ってくれた、なんて内心だけで安堵しつつ。
実は完全無計画で、とりあえずは情報収集から始めようと、話を進めていくのであった。
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