第195話 糸口は突然に
(さすがに昼くらいは、美味しい物を食べたいトコだけど……)
先日振る舞われた夕食と同レベルの味気ない朝食を終えた研一は、センとミリティを連れ、街へと出向いていた。
半ばテロリストに近い立ち位置であり、魔族へ引き渡す予定のミリティを街に連れて行って大丈夫なのかと思うかもしれないが――
「ったく。裏切り者を党首に引き渡しに来たってんなら、最初に言っておいて下さいよ……」
昨日の内にリティアが色々と手を回したようだ。
前にボコボコにした衛兵達が、研一にへりくだるように挨拶に来ている辺り、今回は情報の周知は完璧らしい。
(確か、次に魔族の使者が来るまでの監視役って事になってるんだっけか?)
最初こそミリティ達の説明に誤解していた研一だが、どうもファブリス国に魔族は常駐している訳では、ないらしい。
というか、その話を聞いたからこそ、研一はミリティを連れ立って正面から門を叩く方法を取ったのだ。
――もし魔族軍がファブリス国を占拠していたなら、それこそ、その時点で民間人すら無視して、街が戦場になっていただろう。
そんな事を研一は望まない。
(魔族の方が慎重というか、理知的だよね……)
では、何故、魔族が部隊をファブリス国に常駐させてないのかという話だが。
簡単に言えば、このファブリスという国の人間を、魔族は全く信用していないからである。
というのも、ファブリスの鍛冶魔法による魔武具制作の技術は、人類側の数少ない優位性だ。
それをあっさり手渡して属国として下に就くなんて美味すぎる話を、何かの罠だと魔族は疑っているらしく――
下手に魔族を監視に置いて、各個撃破されては困るし。
かといって、全面降伏している相手を、問答無用で力攻めして落とす訳にもいかない。
その結果、信用の証として、最大戦力である獣人達を差し出して、本当に抵抗の意志がないという事を示せ。
という形に落ち着いているそうだ。
(皮肉な話だな……)
党首も衛兵も、逃げ出すしかなかったミリティだって、ファブリス国は既に魔族の手に落ちていると思っているのに。
当の魔族側が一番警戒して、手を出せていない。
もし罠だなんて微塵も疑わず、魔族が軍勢を連れて獣人達の捕縛にでも乗り出していたなら、研一が来る前に、完全にファブリスは陥落していた筈だ。
「ところで旦那ぁ。ちょっと相談があるんですけどね……」
とはいえ、どうしたものかと考えている研一の耳に、さっきからずっと馴れ馴れしく話し掛けてきていたが、鬱陶しくて無視していた衛兵が内緒話でもするように話し掛けてくる。
「魔族に受け渡すまでの間、旦那が好きにしていい事になってるんでしょう、そこの裏切り者。ちょっと俺達に貸してくれません? 何、礼ならたくさんお支払いしますんで」
「は?」
「どうせ魔族に喰わせちまうんでしょ? それなら、その前に小遣い稼ぎにでも使っておきましょうよ」
「…………」
「なあに、薄汚い獣人がどうなったって誰も何も言いやしませんって。アレならそこの路地裏で使って、すぐにお返しするんで――」
その言葉を最後まで聞いていられず、思わず殴り飛ばしていた。
声もなく吹っ飛んでいった衛兵に目もくれず、研一は怒りを押し殺して、おこぼれに預かろうと群がっていた他の衛兵達を見渡していく。
「おい、テメェ等も同じ用件か?」
「あ、いや、俺達は――」
どうして先程の衛兵が殴られたか解からないのだろう。
だが、下手な返事をすれば自分達も同じ目に遭うと思って、言葉に詰まって黙り込む衛兵達を睨み付けると――
さっきから諦めたような顔をして、力なく笑っているミリティを研一は抱き寄せるようにして、自分の隣に引き寄せた。
「いいか。リティアの命令の意味が解ってないなら、その腐った頭に叩き込んどけ」
「あ、あの、救世主さ――」
いきなりの事に戸惑いつつも、真っ赤になっているミリティの態度にも気付かず。
そのまま怒りに身を任せるようにして、口を開いていく。
「コイツの監視役ってのはなあ、コイツを捕まえ連れてきた俺の物って事なんだよ。髪の毛から足の爪先一本まで、全部な」
「あ、あぅ……」
「すぐそこに獣人達が潜んでいる事を知っていて、自分達じゃ捕まえにも行けず、お零れに預かろうってゴミ屑が薄汚い目向けて、俺の戦利品の価値を下げんな! 消えろ!」
考え事も何もかも、吹き飛ぶくらいに衛兵達の存在が不快だった。
蜘蛛の子を散らすように逃げていく姿を見ても、気分は晴れない。
(ああ、くそ。どの口が言ってるんだろうな……)
だって、気付いてしまったから。
女好きで身勝手な乱暴者。
研一が演じている悪党の姿こそ、正に先程の衛兵達のような人種であり、きっと今まで出会ってきた人達に、同じような不快感を与えてきた筈だ。
だが、研一の気が晴れない理由は、そこではない。
(それでも止める気が起きないどころか、やっぱり効果的だったって思う辺り、本当にどうしようもないな……)
こんな演技を見て、不快に思ってくれる人こそ、助けたい。
だから、これからもこの演技を貫き通していきたいなんて思う辺り、自分の歪みを感じて嫌になったところで――
(何だ!?)
そこで研一は、凄まじいまでの悪意を感じた。
先程、追い払った衛兵達ではない。
衛兵達からも悪意は飛んできているが、そんなちっぽけな悪意なんて可愛くなる程の、殺意と言ってもいい次元の憎悪。
「救世主様も、気付いたでござるか。もう気配がないでござるが――」
ミリティも察したのだろう。
先程まで初々しい乙女のように顔を赤くしていたのが嘘のように、落ち着いた態度で、気配がした方向に、さり気なく目線だけ向けていた。
『研一さん。どうやらミリティさんを物扱いされて怒るような方が、この街には、結構居るみたいです』
一体、今のは何だったのかと思った瞬間だった。
頭の中に、丁度いいタイミングでセンからの声が響いて、研一は思わず笑みを浮かべていた。
(どうやら、次にやるべき事が見えてきたな……)
党首と衛兵だけを見て、ファブリスの国民性を解かった気になっていたが、あまりにも早計だったらしい。
中々どうして、ファブリス国も捨てたモノじゃないなと思いつつ。
その隠れ潜むミリティの味方に、どう接触するかと研一は頭を働かせていくのであった。
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