第193話 今は亡き強硬派
「言ったよな? 俺は国家転覆を目論むようなテロリスト集団には、協力しないって?」
風呂から上がった研一は、城に用意されたミリティの部屋を訪ねると、リティアから聞いた話を、包み隠さず全てミリティに伝える事にした。
直接尋ねたりしては、いくらでも誤魔化せると思うかもしれないが、こちらには心を読み取る力を持つセンが居る。
おまけに研一に頼ってもらえたなんて、センは小躍りでもしそうなくらい大張り切りだった。
ミリティが下手な誤魔化しをしたところで、全て読み取ってしまうだろう。
「言っておくが俺は魔族に加担する気もテロリストに加担する気もねえからな。もしてめぇがテロリストの親玉だって言うなら、あの糞生意気な女党首もてめぇもぶち殺して、こんな国、俺の女にでもくれてやるからな?」
だが、心を読めるセンという交渉事に置いて反則的な力を持つ、センの事を明かしてやる必要なんてない。
研一は短絡的な乱暴者として振る舞い、むしろミリティが嘘を吐きやすい環境を整えてやる。
――ここで侮って本当に出鱈目を告げるようなら、アクアなりプロディなりを国に呼んで、統治してもらおうと本気で考えていた。
「……拙者がリティアから逃げてしまったのは、事実でござる」
だが、ミリティは研一に魔力剥き出しで威圧されているのに、否定も誤魔化しもしない。
非難されて当然の事をした、とばかりに後ろめたそうに目を伏せる。
「ほう、じゃあつまりてめぇら獣人族は、あの糞生意気な女党首が言うように、国家転覆を狙っていたって認めるって訳だな?」
ミリティが認めたのは、リティアを裏切ってしまった部分だけ。
国家転覆を目論んでいたなんて言ってないし、研一もそこは理解しているというか、そんな大それた事をするようには見えず。
ただ、短慮な乱暴者として振る舞い、決め付けるように言えば、話の流れからミリティも否定し易いだろうと思っての事であった。
「……そうでござる。我々、獣人族はファブリス国の乗っ取りを企てていたでござる」
「あん?」
だが、研一の予想に反して。
まるでリティアの言い分が全て正しくて、獣人族が恐れられるのも当然だと言いたげに話を続けていく。
「確かに我々獣人族は国を乗っ取ろうとしていた。そう言ったでござるよ」
あまりに予想外の話の流れに戸惑う研一に。
聞き間違いでも何でもないとばかりに、ミリティは念押しするように告げて、話を続けていく。
「誤解しないでほしいでござる。確かに上の世代に、そう考えていた者が多く、追従する者も少なくなかったという話で、今の我等に、そんな大層な願いは微塵もないでござるよ」
獣人は子どもが出来難い種族で、数が少ない。
戦いという役目がある内はともかく、魔族との戦いが落ち着いて来たら、人間の数の前には、どうにもならない。
下剋上の機会が来たからといって、国の中心になるべきではない、とミリティは付け加えつつ、話を続けていく。
「だから拙者は権力を持つ立場に就く訳には、いかなかったでござる。党首は言うに及ばず。魔族との戦いが激しくなっている現状で、戦士長という実質的には国の頂点に立ってしまえば、抑えが効かなくなっていたでござるから……」
「……じゃあ部隊長だったウルススはどうだ? あの女もお前を、次の機会があれば党首にするなんて、ほざいてやがったが?」
衝撃的な内容であったが、それに驚いて呆けている訳には、いかない。
この機会に事情は全て把握しておかないと、どんな問題が起きるか解からないから。
「その、彼女は何も知らないでござるよ。上の世代が何を企んでいたかも。拙者の手がどれだけ、薄汚れているのかさえ――」
『……どうやら国の乗っ取りを企てていた強硬派、上の世代の方達を殺して国の内部分裂を防いだのが、ミリティさんらしいです。どれだけ説得しても駄目で、始末した方の中には、先代の戦士長である、ミリティさんの実の親も居たらしくて』
ミリティが言い難そうに、口籠もった時だった。
研一の頭の中に、センの声が響いてくる。
「はっ、何だ。口で言って解からねえ馬鹿共は、ちゃんと始末してるってか。いいねえ!」
事情を全て理解した研一は、ミリティの葛藤や罪悪感なんて気付いてない振りをして、子どもを手放しで褒める親のように笑いつつ。
豪快に音を立てて手を叩く。
「多くの人を、そして実の親さえ殺した拙者のどこが立派と言うでござるか!」
だが、そのデリカシーの欠片もない態度が、ミリティを激昂させる。
初めて聞く怒鳴り声に。
けれど、研一は予想通りとばかりに驚く事もせず、ただ静かに受け止めて告げた。
「いいや。本心から立派だと思うぜ。放っておきゃあ、それこそ獣人って種族は、この国どころか、人間全部から恨まれていただろうさ。出来もしない話し合いなんかを続けて、取り返しが付かなくなる前に手を打ったのは、英断だったろうよ」
「だからって、それで拙者の罪が許される訳――」
「人間と獣人達で内輪揉めしている所に、魔族が攻め込んできてたら、それこそこんな国、滅んでたぜ。それを防いだ事に比べりゃ、お前の罪なんて、耳糞程度の小せえもんでしかねえさ」
これは気休めの慰めとは言えない。
何せ、今まさに魔族から懐柔工作なんて仕掛けられているのだ。
工作を仕掛けるまでもなく内部分裂してボロボロだったのなら、冗談抜きで攻め込まれていた可能性は高い。
「……救世主様は、噂程の悪人ではないのでござるね」
だが、それが状況分析した言葉であると同時に。
励ましの言葉である事くらい、ミリティにだって伝わる。
「国が滅んで女まで皆殺しにされてたら、何の為にこんな国まで来たか解かんねえからな。防いでくれた奴に感謝するのは、当たり前のこった」
「……そういう事にしておくでござる」
今更悪人ぶったところで、時既に遅しという所だろう。
穏やかに笑うミリティの姿に、もう少し悪党して振る舞うべきだったな、と研一は心の中だけで反省しつつ――
「ちっ、ムカ付く態度しやがって。おい、セン。部屋に行くぞ。ストレス解消に使わせろ」
「ま、待つでござ――」
「その解ったような態度を、明日までに反省でもしておくんだな」
センの手を見た目だけ乱暴に引き、ミリティ個人に宛がわれた部屋を出る。
そのまま、自分達二人に用意された部屋へと移動した。
(さて、どうしたもんかな……)
とりあえず事情は解かってきたとはいえ、想像していたより面倒な事が解かっただけ。
魔族は倒すにしても――
それで終わりにしただけでは、また魔族に突け狙われるか。
内部分裂するのは、目に見えている。
(それをどうこうするのは、俺の役目って訳じゃないんだけど……)
魔族さえ倒しておけば、救世主としては問題ないとはいえ、知ってしまった以上、放っておけないのが研一という人間であった。
今後の方針をどうすべきか、と考えようとしたところで――
早急に解決しなければならない問題が発生している事に、気付かされる。
「研一さん。その、使ってくれるんですよね?」
センが部屋に一つしかないベッドの上に座り、期待に満ちた目で見ていた。
かと思うと、目を瞑り、唇を差し出すかのように顔を少し上向きに傾ける。
(さて、どうしたもんか……)
先程ミリティに向けた、センを使うなんて言葉が、ただの悪印象を持たせる為の演技だなんて解かり切っているだろうに。
それでも隙あらば、誘惑してくるセンの姿に。
本気で可愛いと感じてしまうだけに、どうあしらったらいいものかと、頭を悩ませるのであった。
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