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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第二章 殴り込め、ファブリス国へ

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第192話 裏切りに歪む親愛

「てめぇはアレか? 獣人というか、ミリティ個人に恨みでもあんのか?」


 この世界の事情。


 というよりも、ファブリス国の認識をまだイマイチ理解出来てないから何とも言えないが、どうにもリティアの獣人嫌いは、ミリティ個人に対する想いから来ているように、研一には思えてならなかった。


「恨み、恨みね。確かに恨みって事になるのかしらね……」


 どうやら研一の予想は当たっていたらしい。


 リティアは僅かに考えると、研一の言葉が事実であるというように一つ頷き、ミリティとの事を語り始める。


「アイツとは生まれた頃からの腐れ縁でね。私は先代ファブリス国の党首の娘。アイツは先代の戦士長の娘。将来は協力し合って国を守れって、口酸っぱく言われてたわ」


「何だ。昔から個人的に仲悪かったって話か」


 だとすれば下らない。


 そんな事で国を預かる者が、獣人全体を悪く扱うなんて馬鹿としか言いようがないとばかりに、吐き捨てる研一であったが――


「まさか。確かに必要以上におどおどしている所は、昔から少し気に喰わなくはあったわ。でも、その程度。私の後ろをちょこちょこ付いてくる所も、面倒臭い事にも一生懸命な所も嫌いじゃなかった。いえ、気に入ってさえいたわよ」


 どうやら、リティアの口ぶりから考えるに、昔は決して仲は悪くなかったらしい。


 事実、それはリティアの勘違いでも何でもない。


 かつて党首の娘として自信に満ち溢れていたリティアは、気弱で虐められがちなミリティからすれば、自分を引っ張ってくれる良い姉御分であったし――


 リティアも、自分を慕ってくれるミリティの事はを気に入っており、嫌がらせをする人間を見掛ける度に、虐めっ子達をそれ以上に酷い目に遭わせて、泣かせまくっていたくらいだ。


「けどね。それも本当に小さかった頃だけ。アンタ、知ってる? 獣人って魔力無しなら下手すれば魔族達より強いの」


 だが、大人に近付くに従い、その力関係は変わっていく。


 気弱とはいえ獣人であり、当時名実共に最強だった戦士長の娘。


 更に将来を考えて、親から直々に厳しい訓練を付けられていたのだ。


 メキメキと力を身に着け、誰も彼もが同年代ではミリティが頭一つ以上抜けていると認めざるを得ない程になっていく。


「でも、どれだけ力が強くなっても気の弱いところは変わらずでね。妬まれて陰湿な嫌がらせを受ける度に、泣いてばかりいたわ。その度にアンタは戦士長の後を継いで、私と国を守っていくんだから、しっかりしろって言い続けたっけね」


 懐かしむように過去を語るリティアの声に、恨みの色はない。


 むしろ戻れるのならば、昔に戻りたいと願っているかのような、まるで遠い故郷を思うような郷愁や、ミリティへの優しささえ滲んでいた。


「今思えば、笑える話ね。私なんかがアイツに何をいい気になって言ってたんだか……」


(一体、何が――)


「私もミリティと共に国を背負っていくんだって、勉強も訓練も頑張った。けどね、そんなのは何の意味もなかったわ。私がどれだけ頑張っても、アイツは、あの女は、おどおどして自分なんて大した事ないなんて言いながら、私の上をあっさり超えていく……」


 本来、獣人というのは魔族を超える身体能力を兼ね備えている代わりに、魔法への適性は低い傾向が強い。


 だが、極稀に獣人特有の身体能力を兼ね備えながら、魔法にも強い適性を持った者が生まれる事がある。


 それがミリティであった。


「あんな凄まじい力を持っているアンタには、絶対に解からないでしょうね。頑張っても頑張っても、すぐ傍に居る相手と比べられて、認められる事のない者の辛さなんて」


 いつか党首になるんだからと、必死で当時の党首に学び、追い付こうとリティアが足掻きながら少しずつ進んでいく中――


 ミリティは実の親である戦士長さえ降し、最強の鍛冶魔法使いとして、ファブリスの姓を引き継ぐ事になる。


 次代を担う世代の代表として、否が応でもリティアはミリティと比べられる事が増えていく。


「それで自分は頑張ってるのに認めてもらえない、なんてミリティに当たるってか? 随分と器の小せえ話だな」


 同情するべき部分や共感出来る部分が、ないとは言わない。


 だが、それがミリティを不当に扱っていい理由になるかと言えば、それを認める事なんて決して出来る訳がない。


「言ったでしょう。アンタに解かるとは思わないって。器の小ささなんて、私が誰よりも知ってるわよ」


「…………」


 自覚した上で開き直っている人間に、何を言っても無駄だろう。


 それでも不満を抑えられず、研一の顔が機嫌を損ねているとばかりに歪む。


「それにね、これは私だけの話でもなかった。ファブリスに住む、人間全体の話なのよ」


「何だと?」


 ただの嫉みや妬みが、どうして国全体の話に繋がるのか。


 研一には全く見当も付かず、続きを促すように疑問の声が飛び出す。


「魔族との戦いが激しくなっていくにつれ、戦闘力の高い者の評価や価値が加速度的に上がっていったわ。元々、うちの鍛冶魔法なんてのは戦闘に向いてない。自ずと獣人達が力を付けていく流れが出来ていった……」


 鍛冶魔法とは、その名の通り、本来は武具などを作る事に、一番力を発揮する魔法だ。


 結局は身体能力に優れた獣人達に正面切っての戦いで敵う筈もなく、人間族の肩身は急速に狭くなっていく。


 どうしたって獣人の力を借りなければ、魔族との戦いに太刀打ち出来ないのだから。


「私達が必死で頑張って努力して工夫を凝らしても、獣人の普通とか当たり前に敵わない。解からないでしょうね、この虚しさ……」


 例えばリティアやファブリス兵が着込んでいた全身鎧。


 アレは魔法を通し難い加工された金属で防御力を高めつつ、鍛冶魔法で操作出来る鉱物と組み合わせる事で、攻撃にも扱えるようにしたリティア考案の最新の鎧だ。


 多くの予算を費やし、研究者と共に試行錯誤を繰り返して完成させた上に量産化まで成功させた強力な装備なのだが――


 その鎧で身を固めても尚、獣人兵の平均的な戦闘力には及ばないし。


 結局は装備を強化したところで、じゃあ、その装備を獣人が付けた方が、もっと強いで終わるだけ。


「でもね、それでも良かったのよ。上なら上で構わなかった。本当にね」


 だが、良くも悪くもリティアは夢見る子どもでは、なくなっていた。


 頑張れば獣人にだって勝てるようになるなんて、諦め悪く挑み続けられる程の気概も余裕もなければ――


 獣人達よりも人間の方が上だ、なんて現実から目を背けて認めないなんて事も出来ない。


 諦め受け入れる事が出来るくらいには、大人であった。


「けど、アイツは。アイツ等獣人は。力がある癖に、私達がどれだけ望んだって手に入らない力を生まれた頃から持ってた癖に、その責任から逃げ出したのよ……」


「責任、だあ?」


「そうよ。悔しいけどアイツの方が、ミリティの方が身体能力も魔法の腕だって上だった。こんな捻くれた私なんかより、周りの信頼だってアイツの方が厚かったでしょうよ」


(捻くれている自覚は、あるのか……)


 意外だと思いつつ。


 ここは突っ込むところではないだろうと、黙って話を聞く。


「なのに、アイツは周りから党首に相応しいと言われてたのに私に全部押し付けて逃げ出したのよ! それだけじゃない! 戦士長の地位さえ継がず、他の獣人達を連れて新しい派閥まで作った!」


 本当にリティアは、自分が党首じゃなくても良かったのに。


 ミリティの下に就いて、それでも共に国を守っていく形でだって構わなかった。


 だが、ミリティは何も告げずに袂を分かち、あまつさえ国の主要勢力となっていた獣人達を纏め上げて、独立したような形になった。


 これをリティアは裏切られたと感じたし、獣人でないファブリスの民は怯えるしかなかった。


 獣人達はファブリスを乗っ取ろうとしている、と。


「解かる? アイツ等獣人は、結局、過去の迫害されてた時代の屈辱を忘れてなんてなかった。協力し合うなんて建前で、静かに報復の時を待ってたのよ」


「…………」


 リティアの言葉に、研一は何も言えなかった。


 確かにリティア側の視点から見れば、そういう風に見えても仕方のない流れでは、ある気がするし。


 印象こそ違うが、党首をリティアに託したというミリティの話とも矛盾していない。


「何が私なんか大した事ない、よ。きっと腹の内では、ずっと私達人間の事、嘲笑ってたんでしょうね。力も何もない癖に、人数が多いだけでデカイ顔してって」


 そうして、ぶつぶつと恨み言をならべるリティアの表情が、どこか自暴自棄になっているような気がすると同時に。


 どこか寂しそうに研一の目に映るのは、ただの人の良さから来る甘さか。


 それとも真実なのか。


 判断出来る者は、どこにも居なかった。

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