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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第二章 殴り込め、ファブリス国へ

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第187話 忍者と救世主と妄想少女

「きゅ、救世主様! 昨夜の事が気に障ったなら謝るでござる!」


 酷く動揺したミリティの声。


 それが耳元から響いてくるのを感じながら、研一は無視するように歩を進めていく。


「お願いだからファブリス国に行くのだけは、考え直してほしいでござるよ!」


 ミリティが縋り付いて研一を止めようとしている理由。


 それは段取りも何もかも無視して、突然、研一がファブリス国に行くなんて言い出し、静止も無視して野営地を飛び出したからであった。


「我々獣人に協力しろとは言わないでござるし、見捨ててくれたって構わないでござる。だからファブリス国に力を貸す事だけは――」


 昨日のウルススとの話し合いの時点では、研一はミリティ達の指示に従う事に了承していたし、魔族に力を見せ付けるまでは待機するという提案にも納得していた。


 それが急に心変わりした理由なんて、昨夜の夜伽以外に考えられず。


 自分の失態で獣人族の未来が潰えるという不安から、必死で研一を止めようとするミリティ。


「しつけえな。別にファブリス国に協力するなんて言ってねえだろうが。向こうの党首様が、どんな良い女なのか。お前等と見比べてみたいだけだ」


 縋り付くミリティを半ば引き摺りつつ、研一は真っ直ぐに進んでいく。


 と言っても、ミリティ達を見捨ててファブリス国に取り入ろうという気は一切ない。


(さすがにあんな話聞かされた上に、人類裏切って魔族に寝返るような人に協力する気なんてないけれど――)


 昨夜のミリティの話の印象だけなら、はっきり言ってファブリス国党首の評価は最悪だ。


 もう魔族諸共ぶちのめしてしまっていいんじゃないか、という気持ちしかないくらいだし、今更何を言われたところで、取り返しの付かないくらいの悪印象と言っていいだろう。


(とりあえず一方の話だけ聞いて決めるのも、ね……)


 だが、それはミリティの話が全て真実だったと仮定するならの話だ。


 この手の話は、片側からの話だけ聞いていたんじゃ認識が歪むばかりだろう。


 もしミリティが言っていた通り、当然のように差別や迫害をするような空気が国全体にあるのなら、無理に研一の手で暴く必要すらない。


 勝手に向こうからボロを出してくれる筈だから、すぐに確認は済むと踏んでの行動だ。


 それに――


(もしかしたら魔族を欺く為の何か作戦かもしれない。その辺を確認してから動いても、遅くはない筈だ……)


 研一がスキルの特性から悪党を演じなければならないように。


 ファブリス国の党首であるアヴァリティアだって、何か目的があって悪辣な態度を取っている可能性だってある。


(その辺を何も解からないまま、敵対したくないし――)


 ただ、ファブリス現党首の本心を確認する為だけに、ミリティ達の作戦や段取りを無視しようとしているのかと言えば、それだけが理由ではない。


 もう一つ、研一には動かなければいけない大きな理由があった。


(昨日のあの様子じゃ、俺じゃあミリティ達に恨まれるのは相当難しい……)


 このままではミリティ達の作戦。


 魔族達に大々的に力を見せ付ける事、そのものが難しいからだ。


(事実がどうかは一旦置いといて、ミリティ達が虐げられる事に慣れ切ってしまっているのは、確かみたいだしね……)


 いくら夜伽で不評を買ったと思い込んでいるとはいえ、昨日の今日で完全な掌返し。


 ミリティだって自分が必死で迫ったのに、その対応は酷いなんて多少憎んだり嫌ったりしても別に不思議ではないだろうに――


 全く研一に悪感情を抱いていないのだ。


(しかもウルススさん達も、やはり獣人なんかに迫られても、気持ち悪いだけだよな、みたいな当然の空気だったんだよね……)


 これがミリティだけなら、まだ何とかなったかもしれない。


 だが、少し話しただけではあるが割と常識人っぽい雰囲気だった部隊長のウルススまで、不当とも言える扱いを受け入れてしまっていた。


 となれば、研一としてはあの野営地に留まって、力が更に落ちていくのを無駄に待っている訳には、いかない。


 まだ力が少しでも残っている内に――


 恨みやら何やらを大量に向けてくれそうな人間達が居る、ファブリス国に向かわなければ、という考えに至った訳だ。


 それはそれとして――


(……何だろう。妙に視線が痛い気がする)


 野営地防衛の任務があるからと、野営地に残るしかなかったウルスス。


 それとは別に研一を連れ戻そうと付いてきているミリティが傍に居るのは、何度も話し掛けているから解かると思うのだが――


 もう一人。


 研一が野営地を飛び出したとなれば、必ず付いてきている人物が居る。


「……」


 口答え一つしない奴隷の演技をしている、魔人のセンである。


 従順で大人しく、研一達がどんな話をしても無言を貫き通している姿は、さすがの演技と言えるだろう。


 けれど――


「…………」


 ミリティに見えないように視線を向けても、全く変わらず終始無言で貼り付けたような奴隷の演技の姿をしているセンの姿に、どうもチクチクと刺さる何かを覚えるのだ。


 まるで、無言で責められているかのように。


(き、気のせいだよね?)


 研一の持つスキルは『人間』からの悪意を感じ取り、成長するスキルだ。


 センのように魔人からの悪意を感じ取る力はない以上、この刺さるような感覚は何かの違和感だと切り捨てようとする研一であったが――


 それは多分、気のせいではない。


(研一さんが面倒な事までしてミリティさんを助けようとしているのは、ただ研一さんが優しいから。別にミリティさんが可愛かった訳でも、裸で迫られたからでもないもん……)


 何故なら、センには強く思い描いた事を無意識に読み取ってしまう能力があり。


 昨夜の夜這いを強く後悔しているミリティから、昨夜の出来事が全て映像のように流れ込んで来てしまっている。


 そして――


(でも、テレレさんやロザリーさんと一緒にお風呂に入った時には、あんなに大きくなってなかったのに、ミリティさんの時だけ……)


 昨夜の夜這い事件をミリティ視点で見ている以上、研一の研一が凄く元気になってしまう場面も見てしまっており――


 それに付いて、研一を好きな女として思うところが色々とあるのも当然で。


(もし私が同じように迫ったら、研一さんってどんな反応してくれるんだろう……)


 だが、今は研一と二人きりではない。


 研一とミリティが会話している後ろで、口答えの一つも出来ない奴隷の演技を続けつつ、色々と妄想を捗らせるくらいしか出来る事なんかなくて。


(いや、やっぱ何か背中に違和感あるな!?)


 その溢れ出してしまったセンの妄想に。


 スキルとか関係なく、研一が違和感を覚えたって何の不思議もないのだから。

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