第181話 裏切りのファブリス国
「その、結論から伝えさせて頂きますと、鍛冶の国、ファブリスは魔族側に付く方針を示しました」
魔力を放出した研一が相当に恐ろしかったのだろう。
随分としおらしい態度になった女隊長の情勢説明は、そんな言葉から始まった。
あまりにも想定外の言葉に、研一は何を言われたのか理解出来ず、ただ立ち尽くす。
何の反応もしない研一の態度を、不機嫌からくるものだと解釈した女隊長は、必死で弁明するように矢継ぎ早に説明を続けていく。
「もはや人類側に勝機はない。そう判断した現ファブリスの党首であるアヴァリティア様は、鍛冶の国の武具製造技術の全てや現存する武具を望むだけ魔族側に提供する代わりに、魔族陣営にファブリスを攻めない事を提案したのです」
「この提案が他の国から告げられていたなら、きっと魔族側も承諾なんてしなかったと思うでござるが――」
弱々しい声で補足するミリティの言葉は事実だ。
魔族は仲間意識が強く、裏切り者を受け入れる事はないだろう。
「ただ、魔武具の製作はファブリスの魔法と技術無しには不可能でござるから……」
だが、そんな信条を曲げてでも手中に収めたくなる程に、魔武具というのは魅力的なのだ。
普通に加工された武具は魔力が通り難くなり、防具としてならともかく、武器としては使い物にならない。
しかし、その唯一の例外となるのが魔武具と呼ばれる、特殊な技術で加工された武具だ。
魔武具は加工前と変わらず魔力を通すだけでなく、物に拠っては魔力を強化したり、魔力制御を助ける効果を持つ。
この魔武具の技術とドリュアスの薬だけが、魔力でも身体能力でも原則として魔族に劣る人間が、優位に立っている数少ない技術であり――
もし、魔武具の技術を魔族が手に入れてしまえば、ただでさえ劣勢の人類は、壊滅的な打撃を受けるだけでは済まないだろう。
「ですが、党首の意向とは言え、魔族側に寝返るなんて、我々には到底許容出来ませんでした。そこで、最後まで党首の決定に反対したのですが――」
「魔族側は密かに、リティアに同盟条件を付け加えていたでござるよ」
(リティア……。多分、党首のアヴァリティアの事か)
どうもミリティとファブリスの党首は、元は近い関係にあったのかもしれない。
当たり前のように愛称で呼ぶミリティの姿に、僅かに引っ掛かりを覚えつつ、話は聞いていばかりに研一は頷いて、続きを促していく。
「その付け加えられた同盟条件こそ、ファブリスの鍛冶魔法を魔族に提供するという事だったのですが、言い換えれば、鍛冶魔法を使える者を生贄として魔族に食わせろという話でしてですね――」
「それならば党首の意向に従えない我々を、逆賊として捕らえ、魔族に差し出すという話になったでござるよ。それで我々は現ファブリス国と敵対する形になってしまい、必死で逃げてきたという感じでござる……」
女隊長とミリティの二人は、研一の顔色を窺いつつ。
これで話すべき事は全て話し終えたとばかりに、一つ大きく息を吐く。
「ミリティだっけ? てめぇ、確かファブリスって名乗ってたよな? この国の党首じゃねえのかよ?」
とりあえず、話の真偽に付いては一旦置いといて。
説明の中で一番引っ掛かった部分。
ファブリスという国と同じ苗字を持つ人間ではなく、アヴァリティアという者が党首であるという件に付いて、研一は訊ねてみる事にする。
「あ、ああ。そうでござった。救世主様は、異世界の方でござるものね……」
(どうやらこの反応。この世界では割と常識的な話っぽい?)
「国の名前というのは、基本的に魔法の種類を指している事がほとんどでござる」
炎の国であり、炎魔法の事を指すサラマンドラ。
薬の国であり、薬魔法の事を示すドリュアスと示せば解かり易いだろう。
例外として、雷と機械の国なんて呼ばれるマキーナ国があるが、あそこも本来はマキが持つ機械魔法の国であり、機械魔法の事を昔はマキーナと呼んでいた。
「そして、今代において、その系統の魔法を最も極めたとされる者が、その属性魔法の体現者として、名を背負う事になるでござるよ」
「多くの国では最も魔法に優れた者が国を統治しており、魔法名を持つ者と国の党首は同じである事がほとんどです。ですが、その、何と言いますかミリティは……」
「政治の事なんてさっぱり解からないでござるし、獣人が国の党首というのもどうかと思ったでござる。それでも拙者を党首にという声もあったでござるが、拙者より相応しいと思ったリティアに譲ったでござるよ」
「今となっては、ミリティ。無理やりにでもお前を党首にしておくべきだったと、後悔しか浮かばないがな……」
これで説明すべき事は全て話し終えたとばかりに。
女隊長とミリティの二人は、研一から視線を切ると、愚痴のような言葉を二人で交わし合う。
(ふむ……)
この話が事実ならば、むしろ現ファブリス国の党首に味方する事こそ、今までの党首への裏切り行為になるだろう。
事情を何も知らずにファブリス国党首に会うよりも早く、ミリティ達に出会えた幸運に感謝すべきなのかもしれない。
「……サラマンドラ国に、国が魔族に襲われていると報告したのは、お前等の仲間か?」
後は裏付けだ。
ファブリス国党首が魔族と裏で手を組んでいたのなら、魔族に襲われているなんて情報は、是が非でも流さない筈。
裏切りがバレるまで、他国への情報流出は徹底的に避けないと意味がない。
(だからこそ転送陣を閉じて、他の国からの援軍すら拒否していたって考えると辻褄が合う。なら逆に、どうして遠く離れたサラマンドラ国に、ずっと前から魔族に襲われていたなんて情報が急に入ってきたのかってなると――)
ファブリス国側の現状を良く思ってない何者かが、現状を伝えようとした。
そう考えるのが自然だろう。
「情報が他国に届いていたのなら、ようやく我々の仲間の苦労が、実ったという事だと思うでござるよ」
研一の予測を裏付けるように、ミリティは頷いて話を続けていく。
「ずっと他国に現状を伝えようと色々と画策していたでござるが、リティアの情報封鎖に阻まれ、何の成果も出ないまま、何か月も過ぎていたものでして」
そんな中、巨大な魔獣と思しき相手を倒す存在を目の当たりにし。
もしや他国に現状が伝わり、最近噂になっている救世主様とやらを援軍として送ってきてくれたのではないか。
なんて縋るような気持ちで、凄まじい光が発せられた地点から上陸してきそうな場所を探っていた結果、出会ったのが研一だったのだと、ミリティは説明した。
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