第179話 野営地への案内
「ミリティ、帰ってきたか!」
野営地にでも案内されると思っていた研一だが、辿り着いたのは想像していたよりも随分と過ごし易そうな場所であった。
入口らしき場所を武装した女性が複数で守っており。
ミリティに話し掛けてきた大柄で筋肉質な女性は、忍者を思わせる身軽そうな恰好をしているミリティとは対照的に、背中に背負った巨大な斧が印象的であった。
――ちなみにミリティと違い、猫耳とは違う、丸っこい耳が生えていた。
(ここが仮拠点っぽいけど、これはまた意外と――)
石や鉄で作られた民家のような建物が並んでおり、とても最近、国を魔族に奪われた者達の住処とは思えないが――
ここでずっと過ごしていたと考えるには、大きな違和感があった、
(多分、魔法を使って、急遽建てたんだろうな……)
というのも、ここは森であり、木々が生い茂る中に、無理やり民家が入り込んでいるような状態なのだ。
一部の木は切り開かれたというよりは、突然生えてきた家に薙ぎ倒されたような形で折れてたり――
片付ける暇もないのか倒れたまま放置された木も少なくない。
「それでどうだった? あの巨大な魔獣と戦っていた御仁は見付かったのか?」
「遅くなって済まないでござる。だが、収穫はあったでござるよ。この方があの巨大魔獣を倒した救世主様でござるよ」
周囲の様子を窺っていた研一を、ミリティの声が引き戻す。
どうやら二人の会話から察するに、元々救世主の事を探していたらしい。
「お、なんだ。俺も有名になったもんだな」
とりあえず自己紹介した方がいい流れだろうと考え、促されるよりも早く研一は自ら前に歩み出る。
少しでも第一印象が悪くなるよう、あえて尊大な態度で。
「先に言っておくが魔族から国を取り戻すとか面倒臭そうなんでな。作戦とかは、そっちで全部考えてくれ。なに、敵ならいくらでも消し飛ばしてやるよ」
だが、今の言葉は全て演技という訳ではなく大体は本音であった。
ただの民間人でしかなかった研一に、国を奪還する為の作戦なんて考えられない。
この敵を倒せだとか、こういう風に動いてほしいと言われれば、その通りに動く事くらいは出来るだろうが、意見を求められては困るし。
(しかもミリティの態度から考えるに、俺の意見が通っちゃいそうだからね……)
ミリティとの戦いで、漫画やアニメで解かったつもりになっていた鍛冶魔法の予想外の使い方に驚かされた。
下手に地球の常識で素人の浅知恵なんか出して採用された結果、多くの戦死者を出してしまえば目も当てられない。
ここはお互いの為にも、自分は超強いだけの一兵士でしかない、という立場を示しておくべきだと思ったのだ。
「この御仁が救世主様?」
そんな研一の自己紹介に、見張りの女性は怪訝そうに表情を歪める。
詐欺師か何かと思われているのは、明白であった。
「すまない、客人。ここで待っててほしい。ミリティ、ちょっとこっちに来てくれ」
そこで見張りの女性の隊長格と思われる女性が、ミリティを連れて少し離れた場所に移動する。
どうやら研一には、聞かれたくない話をするらしい。
「……ミリティ、本当に間違いないのか? 魔力は大して感じないし、態度の割りには隙だらけで、とても強そうには見えんぞ?」
「一見隙だらけでござるが腕は確かでござる。拙者の奇襲を完全に交わした上に、拙者を簡単に組み伏したでござる。しかも魔法を打ち破るでもなく、一方的に無力化されたでござる。あんな力は見た事も聞いた事もないでござるよ」
少し離れた場所で、小さな声で会話を始めるミリティと女隊長。
常人の聴覚であれば、話の内容を聞き取るどころか、声を出しているかすら解からない程の小さな声量であったが――
(身体能力の強化って耳も良くなるんだな)
今まで使う機会がなかったから研一自身、初めて知る事になったが、どうやら戦闘で使う以外の力も強化されるらしい。
何を話しているのかと気になって耳を澄ませば、まるでその場所の音だけ切り取るように、はっきりと音が聞こえてきた。
「……お前を一方的に打ちのめした、か」
「おそらくそれでも、本気ではなかったでござる。殺す気も傷付ける気も、なかったようでござるから」
「奇襲という事は、一方的にこちらから殺そうとしたんだろう? お前が理由もなく襲うとは思えんが、一方的に殺そうとしたのは事実。それでお前を殺すでもなく、取り押さえようとしたってのは、随分と怪しいが――」
「その、救世主様の後ろに居る奴隷の子を野外で無理やり襲おうとしていたので不届き者と思って成敗しようとしたでござる。それで返り討ちに遭い、協力を仰いだところ、我々の身体を要求されたでござるよ」
「……なるほどな。強さも素行も噂通り、という訳か」
ミリティの説明を受け、ようやく女隊長も研一を救世主と認める気になったらしい。
だが、それに文句を言う気なんて研一には起きる訳がない。
(確かに隊長さんからすれば、何か態度のデカイ怪しい男でしかないからね)
むしろ態度のデカイ怪しい男なんて警戒して当然としか思わないし。
ミリティとの出会いの際に、センと猿芝居染みた演技をしていてよかったなんて、ほっと胸を撫で下ろしたくらいだ。
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