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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
終章

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第174話 そして蘇りしは――

「推測でよければ、僕の見解を伝えようか?」


「ええ、お願いします。正直、俺には見当も付かないので……」


 そして、表情を切り替えて放たれたアクアからの考察の提案に研一は、即座に頷く。


 完治しているそうだが、何か変化や後遺症がないとは限らない。


 少しでいいから情報がほしかった。


「それでは別室で話そう。もしこの話を起きたセン君が聞いてしまい、それなら何度でも使えるなんて考えて、また同じような無茶でもしたら大変だからね」


「解かりました」


「プリムス。セン君の容態に少しでも変化があれば伝えてくれ。頼んだよ」


 説明の前に部屋を移そうと――


 自分達が居なくなった後の事まで考えて、素早くアクアは指示を飛ばす。


「はわわわわ……」


 だが、どうやら先程の口付けの刺激が強過ぎたらしい。


 プリムスは頭から煙でも噴き出しそうなくらいに顔を真っ赤にし、返答すら出来ないようであった。


「プリムス! しっかりするんだ! 命が掛かってるんだよ?」


「は、はい! 解かりました! 警備隊長プリムス、何かあれば速やかにお呼びします!」


「頼んだよ」


 しっかりとプリムスが反応したのを確認すると、アクアが部屋を移る為に歩き出し。


 研一も後に続き、アクアに促されて二つほど離れた部屋に先に入る。


 ――こちらも寝室らしく、大きなベッドがあった。


「おそらくだが、これはセン君の夢魔としての性質と、君が持つ膨大な魔力が重なった事で起きた奇跡なのだろう」


「センちゃんの性質と俺の魔力、ですか?」


 部屋に入るなり、アクアは後ろ手で扉を閉めると、前置きもせず説明を始めていく。


 その言葉にオウム返しで返答して、研一は続きを促す。


「ああ、そうだ。夢魔は魔族の中でも特異な性質を持っている。本来、魔に連なる者は何かを食べる事で魔力を補給し、対象が人間であれば全身を食べ尽くす事が多いが、夢魔は対象の体液から魔力を摂取するらしい」


(その辺は俺がゲームで知っているサキュバスと、あんまり変わらないような感じかな?)


 研一が知っている夢魔の印象と言えば、淫らな事をして男から精液を搾り取り――


 そのまま堕落させたり、あるいは命さえ奪う存在だが、どうやらこの世界での夢魔は、そこまで凶悪ではないらしい。


「ここで今回、魔力補給に使われたのは君の唾液だ。だが、普通ならばあの状態から、多少の魔力を補給したくらいじゃあ、どうにもならない。けど、気付いているかい? 今、君の魔力は、ほとんどなくなってしまっている事に」


「え?」


 言われてみて、初めて研一は気付く。


 神獣を倒した時に大幅に消耗したものの、それでも未だウンディーネ国の民は、研一へ嫌悪感を今も消えず残っており、魔力は絶えず供給され続けている状況だ。


 それなのに現在の研一の魔力は、魚型の魔獣の群れに襲われたら、苦戦しそうなくらいに消耗し切っていた。


「あの神獣すら消し飛ばしてしまう程の魔力だ。それ等全てを吸い尽くした結果、セン君は回復したというよりも、別次元の存在へと昇華したのだろうね」


 穴の開いたバケツに必死で水を注いでいるだけでは、水を注ぐ手が止まった時点で水は枯れ果てて朽ちていく。


 だが、洪水のような水が一気に流れ込めばどうだ?


 もはやバケツという器さえ無視して、そこに沼や湖が出来てしまう。


 この水を魔力に置きかえたような現象が起きたのだろう、とアクアは推測する。


 ――と言っても前例がないので、状況から判断しただけの確証なんて何一つない話なのだが。


「なるほど……」


(それなら俺の魔力がない事も、センちゃんの身体に治す部分がないって事にも説明が付くか)


 全てが全てという訳ではないが、何となくなら研一にも理解出来た。


 今後の経過には気を付けていかないとならないとは思うものの、一先ずは安心してよさそうだと胸を撫で下ろす。


「……本当に奇跡という他ないよ。夢魔の魔力変換は対象との関係性こそが何よりも重要だと伝え聞く。嫌いな者との不本意な接触では魔力を吸収するどころか、拒絶反応を起こして衰弱していき、惹かれ合う者同士でも性交渉でもしなければ、効率の良い魔力の受け渡しは出来ないそうなのだが――」


 センの夢魔という性質。


 どこまでも研一を想い続けた気持ち。


 そして、研一が心の底からセンを大事だと思う心。


 どれか一つでも欠けていれば、きっとセンが助かる事はなかっただろう。


「ええっと、ファルスさん?」


 そこで説明の途中だというのに、急に俯いて黙り込んでしまったアクアに研一は不思議そうに問い掛ける。


 その呼び掛け方こそが、我慢し続けてきたアクアの壁を壊す地雷だと、最後の最後まで気付かないままに。


「……ファルスファルスって。そんなに服を着た僕は、女らしくないのか!」


 言うべき事は全て伝え終わったし、もはや耐える必要もないとばかりにアクアは叫び出したかと思うと――


 驚くべき早業で、服と下着を一瞬で脱ぎ捨ててしまう。


「あ、アクアさん!?」 


 そこまでされれば、いくら鈍い研一だって嫌でも理解するしかない。


 だって男なら付いているだろう物体が、下半身に付いてないのだから。


「ああ、そうさ、アクアだよ! あんなに密着してても女だと気付いてももらえない、服装を変えただけで双子の弟と何の区別も付かない、柔らかさの欠片もない魚の骨みたいな女さ!」


 驚き戸惑って固まっている研一に、アクアは素早く襲い掛かり――


 豪快かつ繊細にベッドに投げ飛ばし、起き上がる暇も与えず素早く研一の両手を押さえ付けて覆い被る。


 ――魔力を消耗し切っている上に、突然の事で研一は何の抵抗も出来なかった。


「あ、あのアクアさん。何か目が据わってるというか、怖いんですけど――」


「初めて本気で好きになったばかりの男が、別の女と音が出るほど激しくキスをして、夢中になっている姿を見せられた女の気持ちが君に解かるか!」


「ええっと、その……」


 告白に対しての返事をするべきなのか。


 それとも、ごめんなさいと謝るべきなのか。


 どちらも違うような気がして、何も言えずに口籠もるしかない研一であったが、別に何を言ったところで結末は変わらなかっただろう。


「覚悟しろよ、研一君。行き遅れの女を本気にさせた責任、身体で払ってもらうからね」


 とっくの昔に手遅れだ。


 アクアという女の心は研一への恋心に焼き尽くされ、もう止まる事なんて出来ないくらいに燃え上がってしまっているのだから。


「今は待って下さい、アクアさ――」


「おや? おやおやおや? 何だ、僕の身体も案外捨てたものじゃ――」


 そこである事に気付いたアクアが、とても嬉しそうな声を上げた瞬間だった。


 研一の身体から魔力が溢れ出す。


 センに吸い尽くされており、暫くは回復しないと予想していたからこそ、強硬手段に出たアクアが驚きに目を見開く中――


 研一がアクアに手をかざすと同時に、膨大な魔力が手に集約していき、まるで竜巻のように周囲に風を撒き散らしていく。


「あ、こら! 照れ隠しで、それは卑怯――」


「ごめんなさい!」


 かつて、プロディをドリュアス国に飛ばした転移魔法だ。


 今回はドリュアスでなく、サラマンドラ国に座標を指定し、問答無用とばかりにアクアを弾き飛ばした。


 ――一度使った事もあり、今回は前回より遥かに速く発動出来た。


「ああ、もうっ。何で今になって……」


 そして、研一はアクアには付いてなくて、ファルスには付いている物体に目を向ける。


 ここに居るぞとばかりに、大きく自己主張していた。


 恋人が死んでしまった日から、一切、反応しなくなっていた筈なのに。


「センちゃんとさっきあんな事したばっかりだってのに……」


 これじゃあ、センにもアクアにも申し訳ない。


 いくら二人とも魅力的だからって、こんな時に治らなくてもいいだろうにと、酷い自己嫌悪を覚え、研一は泣きたい気持ちで蹲る。


 けれど、研一は知らない。


 ただ魅力的な女性に迫られたくらいで治るようなら、サーラやプロディに迫られた時にでも、治っていただろう。


 今まで身体が反応しなかった理由。


 それが恋人を自殺に追いやったような男が、誰かに愛される資格なんてないと思い込んで、無意識に誰も受け入れないようにしていたからであり――


 そんな心の壁が、一人の少女の想いに砕かれ、癒されつつある事を。


 そして――


 全裸でサラマンドラ国に飛ばされてサーラから研一の状況を訊ねられたアクアが。

 研一は自分の身体には反応しただなんて報告して、サーラやプロディと一悶着を起こしている事さえも。


 研一は、まだ知らない。

 これにて第四部終了です。

 次回の更新から五部が始まるので、引き続き楽しんで頂けると嬉しいです。

 そしてここまで読んで下さった方。

 是非ともブックマークや高評価で応援してくれたり、Xなどで宣伝して頂けると、とても嬉しいです。

 ただ楽しんで読んで下さっていれば、それが何よりですので無理などはなさらずに。

 けれど、そろそろ本格的に書籍化を目指したいので、ここまで読んでくれている方は、ブックマークだけでも押して行ってくれると助かります。

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