表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第六章 神獣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

161/169

第161話 悲しき獣との出会い

(これは死んだかもしれない……)


 身を呈してアクアを助けた研一は、生贄を捧げる穴の中に落ちていく。


 底すら見えない程に深い、永遠にも続くと思う闇。


 物理的な高さ以外にも、捧げられた人間を吸収する為の機能があるだろう事は確実であり、そんな得体の知れない場所に落ちて無事で居られる保証なんて、ある訳もなく――


 そこにアクアを助ける事の出来た喜びや感動なんて、微塵もない。


 心の中を占めるのは、疑問だけ。


(どうして、あそこで飛び出しちゃったんだろうな……)


 自身に問い掛ける研一だが、咄嗟に身体が動いてしまった以外に言葉が出てこなかった。


 特に何かを考えていた訳でもなく、きっと同じような状況に陥ったら、また同じ事をして後悔するのだろうとしか思えない。


 そう、後悔だ。


 疑問に答えが出た研一の頭に残っているのはそれだけであり、アクアを助けられた事への満足感や達成感なんて微塵もない。


(せめて助けるにしても、もっとこう何かやりようがあっただろう……)


 何故なら、残されてしまった人間の辛さを知っている。


 死んだ人間はそこで終われるのかもしれないが、生き残った人間は忘れる事も出来ず、自分の命が終わるその時まで、引き摺り続けるしかないのだ。


 しかも、助けてと言われた訳でもないのに勝手に手だけ出しといて、一人で死ぬなんて、そんなのは助けたなんて言えない。


 下らない自己満足を押し付けてしまっただけ。


(だったら、生き残らないといけないよな)


 それにここで死んでしまえば、アクアだけじゃなくセンまで傷付けてしまうし。


 助けたい人だって、まだ生き返らせる事だって出来ていないんだ。


 それならば、もう駄目だなんて諦めてやる訳には、いかない。


 最後の瞬間まで足掻いてやると研一は心に決めると同時に、全身に力を漲らせていく。


 空中で態勢を変える技術もなければ、真っ暗で地面が見えないから地面に激突する直前に攻撃して、威力を相殺する事だって出来ない以上――


 とにかく衝撃に備えて全身を固めるくらいしか、出来ないからだ。


 身構えて、数秒の後。


 激しい轟音と共に衝撃が研一の身体に走り抜ける。


(……思ったより、痛みとかはないな)


 とはいえ、身構えていたお陰もあって、大したダメージはない。


 孤島からアクアの九州津の為に無理やり飛んできた時の方が、衝撃の度合いとしては大きかったくらいだろう。


「ふむ。ようやく儂にも、お迎えが来たか」


「なっ!?」


 死すら想像していた研一からすれば、あまりに呆気ない結果に拍子抜けしたのも束の間。


 自分以外の誰かの声が響いて、慌てて戦闘態勢を取る。


「その神力は、儂の創造主ではないな。別の神からの使いか?」


 だが、辺りが暗くて姿すら見えない状態だ。


 戦う気があるならば、話し掛けて奇襲する絶好の機会を捨てる必要なんてないだろうし、何よりも敵対意思なんて微塵も感じさせない落ち着いた声が、研一を冷静にさせる。


「神の使い、ではあるんですかね。魔の神から魔王を倒して人間を救ってほしいみたいな事は、言われているので。こちらの立場をお伝えしたんですし、そちらの状況とかも教えてくれると嬉しいんですけれど……」


 それならば、下手に刺激するのは悪手だろうと研一は考えた。


 この場所に居る事から、声の正体に付いて代々の想像こそ出来ているものの、戦う事になるにしろ、話し合いで終わるにしろ、情報が多いに越した事はない。


「ああ、スマンスマン。誰かと会話するのは久しぶりでな。神獣などと呼ばれ、この国の大地の代わりを担わせてもらっている者じゃよ」


 はたして。


 研一の想像通りの答えが、声の主から語られたのであった。




   ○   ○




「やっぱりそうですよね……」


 研一は僅かな戸惑いと共に、声の主の正体を受け入れる。


 完璧に想像通りの答えであったが、それでも違和感を覚えずには居られない。


(何と言うか優しそうなお爺さんって印象なんだけど、本当に生贄なんて求めているのか?)


 暗くて姿は一切見えない。


 だから声の調子と雰囲気からしか判断余りにも出来ないが、それでも想像していた印象からは、あまりにも程遠い。


(生贄求めているし、神獣って言っても大きい亀らしいから、もっとこう理性も何もない血に飢えたケダモノみたいなのを想像していたんだけど――)


 はっきり言って、これなら過去にドリュアス国で出会ったゲスタブという男の方が、よっぽど話も何も通じなかった。


 これならば無理に戦わなくても、話し合いで何とかなるんじゃないかという思いすらある。


(お迎えが来たのか、なんて真っ先に言ってたし、もしかして今の状況は、この神獣の意志じゃないのか?)


 そんな期待を増長させるのが、出会い頭の言葉。


 もし神獣自身が死を望んでくれているのなら、全て丸く収まってくれるだろう。


「どうしたんじゃ? 儂に何か用があったからこそ、こんな所まで来たんじゃあないのか?」


 とはいえ、死にたいんですかと切り出す訳にもいかず。


 どうすればいいのかと迷っていた研一に、神獣の方から声が掛けられる。


「あー、そのですね。どうして生贄なんて要求するんです?」


「生贄を要求、じゃあ? むしろこっちが聞きたいわい。儂の方から生贄なんて要求した事などない。どうしてウンディーネ国の人間は、そこまでして儂を生かそうとするんじゃ」


「えっと、どういう事です? 実はこの国に来たばかりで、イマイチ事情を解かっていなくて、よければ説明してもらえないでしょうか?」


 軽い前振り程度に生贄の話をしてみたが、どうやら研一が知らない事が、まだまだあるらしい。


 それならば、聞ける事だけ聞いてから本題に入るべきだ。


「どの辺まで知っておるんじゃ?」


「とりあえず、そちらが知っている事を最初から全て話していって頂けませんか? 歴史とかって、気付いたら伝える側の都合の良い形に歪められている事って多いので」


 本当はアクア達の心の負担を少しでも減らす為に、急いだ方がいいのかもしれない。


 だが、人を殺してあんなにも苦しみ続けてしまうアクアが、それでも殺さずには居られなかった人間達が語り繋いできた歴史なんて、欠片も信用出来る訳がない。


 それならば、まだ初対面で全てを知っているであろう神獣の話を聞いた方が信憑性はあると研一は考えた。


「それでは儂が、創造主から使命を与えられ、この国に遣わされた時の事から、話していこうかのう……」


 水の民は水上でしか本領を発揮する事が出来ず、陸地に自分達の領土を獲る事が出来ず、船の上で生活していた事。


 それを哀れに思った水の神が、神獣を遣わせた事。


 だが、神獣という絶大な力を得て好き勝手やり始めた事に怒りと嘆きを覚えた水の神は、ウンディーネ国への加護を停止し、創造主からの力の供給を絶たれた神獣は、そのまま消えていく筈だった。


 ここまでは、概ね研一も知っている歴史と同じであったが――


 その先は、研一も初めて聞く事ばかりであった。


「じゃが、突然住んでいた場所が消えたら困るじゃろう? じゃから、儂は最後の力を振り絞って、当時のウンディーネ国の者達に儂の寿命が近い事を念話で伝えたんじゃが――」


 そこでウンディーネ国の人間達は、恐るべき行動に出る。


 まずは蛮行の責任を取らせるという名目の元、当時のウンディーネ国の党首を捕らえる。


 ここまでは、そこまで突飛な事とは言えないだろう。


 問題は、この次だ。


「魔力さえ補給出来ればいいと思ったんじゃろうな。水魔法を使って儂の身体を調べ上げ、魔力補給場所である胃に真っ直ぐ繋がるよう、儂の背中に大穴を空けよってな」


 このまま神獣が消えていくのを良しとせず、悪足掻きに走ったのだ。


 神獣の背中に生贄用の穴を空け、そこに当時のウンディーネ国の党首を投げ入れたのである。


「それはつまり、貴方は神からの力の供給とやらが途絶えた時点で、死んでしまってもよかった、という事でしょうか?」


「そりゃそうじゃろう。儂の役目は、苦労していた水の民達の力になってやる事。力に溺れた連中を助けてやる義理なぞないわ」


 それを勝手に生かした挙句、まるでこっちが生贄を求めているみたいに言い寄って。

 いい迷惑じゃと、神獣は吐き捨てるように付け加えた。

投稿時、ネトコンに応募中です。

是非ブックマークや高評価して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ