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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第五章 大事なモノは――

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第155話 ヒーロー登場

「……ああ。僕は僕の役目を果たさないと――」


 自分に言い聞かせるようなファルスの声が、口から漏れては誰にも聞かれる事無く消える。


 ここは聖域と呼ばれる洞穴の入口付近。


 アクアに気絶させられたファルスは、目覚めると同時に次代の党首として国を纏めるべく動き出そうとしていた。


「初めて、姉さんから託されたものな……」


 自惚れでなく、ファルスは自身が優秀な人間な自覚はあった。


 小さい頃には既に武術も魔法も大人には負けなかったし、物覚えだって悪くない。


 それでも双子の姉であるアクアの前には全てが霞み、アクアさえ居なければなんて思った事は一度や二度の事ではない。


 だって、党首になれるのは一人。


 選ばれなかった者は神獣の生贄として捧げられると知らされていたからこそ、死にたくないという想いに突き動かされ修練を怠らず、自分の代わりにアクアに犠牲になってほしいなんて子ども心に思っていたのだから。


(昔から僕は小さい男だったな……)


 それでもファルスの苦労も努力も置き去りに、ドンドン前へ進んでいくアクアの凄さに絶望して。


 死にたくないと思いながら。


 けれど、こんなに差があるんじゃ仕方ないなんて諦め、死を受け入れようとした時。


『この男にはまだ使い道がある。これだけの力があるのに、今ここで生贄に捧げてしまうのは、勿体ない』


 まだ十五にも満たない少女が、周囲の大人さえ圧倒する堂々たる態度で、そんな提案をしたかと思うと――


 ファルスを生かす事で起きる利益を言葉巧みに説明し、あっという間に大人達を丸め込んでしまったのだ。


(どうしてこんな事をするんだって思ったし、心のままに叫んで聞いてしまったよ)


 だって僕達は、生贄の座を押し付け合う敵同士でしかない筈。


 少なくともファルスにとってアクアは、そういう相手でしかなく、目の上のたんこぶ以外の何者でもなかった。


 けれど――


『大事な大事な弟なんだ。こんな下らない慣習なんかで奪われさせは、しないよ』


 そうやって満足そうに笑うアクアの姿に、ファルスは全て悟った。


 ファルスが自分が生き残る為だけに、死から逃れる為だけに必死で修練に励んでいる中、アクアはファルスを救う為に努力と思考を重ねてきたのだと。


(その時、心から解かったんだ。ああ、一生、僕はこの人には敵わないなって……)


 悔しいとは思わなかった。


 むしろ、ストンと何かがファルスの中に落ちて、その日からファルスはアクアを憎む事も、追い越そうという気持ちも失い――


 弟として、姉を支えて生きていこうと思えるようになって。


「これを作ってくれとか、アレを食べてみたいとか、そんな我儘めいた言葉じゃない。初めて姉さんが、頼むって僕に託してくれたんだ……」


 アクア一人で何でも出来てしまうせいで、軽い手伝いしか出来てなかったファルスに託した、最初で最後の願い。


 アクアに代わって国を守り、発展させていく。


 それに自分の全てを捧げていかないとならないと、心では解っている筈なのに――


(駄目だよ、姉さん……)


 ボロボロと涙が次から次に溢れ出して、景色が微塵で何も見えない。


 これ以上、前に進めそうにない。


 それでもファルスは必死で涙を拭い、歩き出そうとした瞬間――


「何だ、この気配――」


 遥か遠くから凄まじい速さで、何かが飛んでくる。


 魔力は感じない。


 けれど、どこか神獣に似た気配を持つ強大な力を持つ物体であり、ファルスはその気配の持ち主に心当たりがあった。


「まさか……」


 だが、こんな早く、この場所に来れる筈がない。


 水魔法を使えず海を渡れないからって、飛び越えるには距離があり過ぎるし。


 仮に飛び越えられるくらいの力があっても、そんな莫大な力を出すには、溜めの時間が必要な筈。


 そんな不審な行動をすれば、センだって見張りに付けた警備の者達だって見逃す筈がない。


 だから、これは勘違い。


 きっとアクアを生贄にする為の神獣の遣いか何かが、洞窟に向かってきているだけ。


 今からでもアクアに助かってほしいなんていう未練が見せている、幻か何かだなんて頭に浮かんでいる答えを、ファルスが無理やり振り払おうとした瞬間だった。


 轟音が響き渡る。


 高速で飛来してきた何かが地面に衝突し、土煙を当たりに撒き散らし――


「ここまで来ると、ちょっと怖いな。この速度で地面に激突しても、痛みも感じないくらい俺の身体って強化されてるんだ……」


 もはや事件にしか思えないようなクレーターを自分で作っておきながら。


 まるで他人事のような軽い調子で、とぼけた声が響いた。


「研一君……」


 小島に隔離した筈の研一が佇んでいた。


 アクアやファルスの策略なんて物ともしないとばかりに、気負う事もない極自然な様子で、研一がアクアを助け出す為に現れたのだった。

面白かった、続きが見たい。

書籍化して絵が付いているところが見たい。

何かしら感じてくれた方は、是非とも高評価してくれると嬉しいです。


また気楽にリアクションなどして頂ければ嬉しいです。



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