第150話 その世界に色なんてなくて
(これは絶対、話し合えって事だよな……)
アクアと話した後。
国に関わる重要な儀式があるから、部外者は城から離れていてほしいとファルスに言われた研一とセンの二人は、城から離れた小島に連れて来られていた。
そこは本当に小さな島で、小屋が一つ建っているのみ。
おまけに小屋の中には数日過ごせる程度の物資と机と椅子。
後は、大きなベッドが部屋の隅に一つあるだけ。
はっきり言って、センと話す以外に出来る事が見当たらない。
(多分、儀式なんて嘘っぱちで、俺達の仲を心配したファルスさん辺りが、急遽用意してくれたってトコだろうね……)
仲直りするまで出られない小屋、と言ったところだろう。
実際、ファルスの水魔法を使って、この小島まで連れて来られている為、誇張とも言い難いだろう。
いくらスキルのお陰で身体能力が上がっているとはいえ、波のある海を泳いで小島から抜け出すのは難しい。
(気まずい、けど……)
センは相変わらず目も合わせてくれず、俯いたまま。
それならば自分の方から折れて話をするべきだろうと研一が口を開いた瞬間だった。
「センちゃ――」
「研一さんが私の事を想って言ってくれたのだって解かってますし、言い分自体は間違ってないとは思うんです……」
研一の声に被さる形で、センが言葉を紡いだ。
相当な緊張と覚悟の果てに発した声だったのだろう。
研一が話そうとした事に気付く事もなく、センはそのまま言葉を続けていく。
「自分らしく私に生きてほしい。その研一さんの気持ちは本当に嬉しいです。それなのに全く耳も貸そうとしなかったのは、本当に申し訳ないって思ってます」
仲直りしたい為の誤魔化しでも何でもなく、これは心の底からのセンの本心だ。
そうして自分の事を気遣ってくれる研一の優しさこそ大好きで、それを真っ向から否定してしまった事自体は、言葉どおり、本当に申し訳ないとは思っている。
「ただそれで私が悪かったって謝って、全てなかった事にして終わりにしたくなんてないんです……」
ただ、その申し訳なさから研一を避けてしまったのかというと、それは違う。
センにだって、どうしても譲れない想いがあった。
「私は研一さんが好きです。多分、研一さんが思っているよりもずっと強く……」
「…………」
「研一さんは言いましたよね。自分の好きな食べ物を研一さんに合わせなくて変えなくてもいいんだって。けど、それは多分無理なんです」
それは感情論でも何でもない。
事実として、センは知っているのだ。
「どれだけ美味しいお菓子や食べ物も、研一さんが隣に居ないだけで凄く味気ないんです。一口目は凄く美味しくて、でも二口目を食べる前に私は隣を見て、研一さん、これ美味しいですねって言って。けど、答えてくれる研一さんが居ない事が寂しくて、もう味なんてどうでもよくなっちゃうんです」
マキーナ国での戦いに置いて行かれて、サラマンドラ国で研一が居ない中で過ごした世界は、センにとって色のないものなのだ。
味覚は言うに及ばず、何を見たって心が動くのは一瞬だけ。
いつだって隣に研一の姿を探してしまう。
「研一さんは恋人さんの為に違う世界に来て、もし神様がやり直させてくれるなら、恋人を助けるんですよね」
「……ああ」
「でもね、私は本当に酷いんですよ。もしお母さんが人間に囚われず、生きていけるように神様にやり直してもらえるって言われても、ずっと二人で過ごしていけるって言われても。それでもお母さんが死なないと研一さんと会えないなら、救える方法があっても私は――」
「センちゃん!」
それ以上は、研一が言わせない。
だって明るく何でもない事のように必死で言おうとしているだけで、それでもセンの目からは涙が零れ始めている。
それは決して、センが研一の気を惹く為に嘘の言葉を並べている訳でも、ましてや簡単に切り捨てられるほど、母親の事が大事でない訳でもない。
母親を見捨ててしまう事を想像すれば、涙が零れる程に辛くて苦しいのに。
それでも研一の事を選ばずに居られないという、紛れもないセンの本心であるからだ。
けれど――
「解かってます。こんな事を言われても困らせてしまうだけだって」
「……ごめん」
それじゃあ恋人よりもセンの事を選ぶなんて出来ないし。
センも恋人も二人同時に愛そうとか言える人間なら、最初から苦労していない。
「ねえ、研一さん。教えてくれませんか? 研一さんと恋人さんの事」
「……ああ。解かった」
想いに応えられないなら。
せめて、この願いくらい聞いてほしいとばかりに、柔らかく告げられたセンの言葉に。
研一はただ、頷く事しか出来なかった。
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