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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第三章 双子の党首

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第141話 苦しみは人それぞれ

「ただ、そうやって制裁や粛清の大鎌を振るう者が居ないとなると、他者を虐げる事でしか自分を保てない虚しい奴が、いくらでも湧いてくるのが人間というものでね」


 諦めたように語るファルスの言葉に、研一も呆れたように無言で頷くしかない。


 文字通り、この辺の話は、どこの世界でも変わらない事なのだろう。


「その辺は救世主様の世界でも変わらずか」


「……ああ。悪貨は良貨を駆逐するなんて言葉もあるくらい、真面目な奴が損するばかりで、好き勝手やる悪人ばかりが蔓延ってますよ」


「正しい向上心を持った人間で溢れた世界なんて、どこにも存在しないという事か」


 なんて研一の相槌に、寂しそうに呟いて。


 そこでファルスは意図的に表情を変えると、湿っぽくなる空気を払拭すべく明るい声で語り始めた。


「だが、そんな悪人達から虐げられる者を助ける為に、僕が居るのさ!」


 研一以外、誰も見ている人間なんて居ないというのに。


 ビシッとポーズを決め、今までの真面目な雰囲気なんて全て吹き飛ばして、研一と出会った頃に見せた道化の姿を演じ切る。


「腰の重くて動けない党首様と違い、おちゃらけて好き勝手自由気ままに動き回る、党首様と同等の魔力を持つなんて言われて、誰も無視出来ないロクデナシの放蕩弟がね!」


「……なるほど、ね」


 要するに研一がサラマンドラ国で、セン達のような奴隷を救い出した時と同じ手段だ。


 力だけあるものの志も何もなく、自分の興味を持った事に好き勝手首を突っ込む快楽主義者を演じて、怪しい噂のある場所をアクアに代わって調査し――


 噂通り裏で虐げられている者を見掛ければ、「気に入った、俺のハーレムに加えてやる」とでも言って、無理やり連れだして来たのだろう。


 けれど――


「……辛くないんですか? そうやって誰にも認められず、汚れ役を演じるのって」


 同じような悪役を演じ続けている研一だからこそ、解かる事がある。


 誰にも認められず、罵倒や嘲笑に晒され続ける事の辛さ。


 そして、いつ全てがバレてしまうのかという気の休まらない緊張感。


(もし早い段階でセンちゃんに出会ってなければ、きっと俺は演技に耐えられなくなっていた)


 最初は自分のスキルのせいで騙しているんだから、これくらいの我慢は必要だと気力で正気を保っていられる。


 けれど、誰にも打ち明けられずに削られていく精神の中、最初の意志を保ち続けるのは至難の業だ。


 どうせ誰にも理解されないんだし、最終的にはコイツ等だって助かるんだ。


 こんなに苦労してるんだから、少しくらいは悪い事もしていいんじゃないかなんて、誘惑が心をドンドン蝕んでいく。


 それでも早い段階でセンに会えたからこそ、研一は道を踏み外さずに済んだ。


 そうでなければ演技を続けていく内に、どこかで心の中まで悪に染まっていった可能性を否定出来ない。


「ふふ、それは簡単な話さ。本当なら僕は、もっと前に殺されている立場だったからね」


 そうしてファルスは穏やかに笑って。


 どこの国でも、どこの世界でもよく聞くような有り触れた話を語り始める。


「僕と姉上は生まれた頃から強い魔力を持っていてね。その時から党首候補として期待されていたけれど、双子で同年代の党首候補なんて、将来は国を真っ二つに割り兼ねない。そこでどちらかを処分してしまおうって話になっていたのさ」


 そして、生まれた時こそ、同等の資質を持っていると噂されていた二人だが、年齢を重ねていけば違いというものが見えてくる。


 確かにファルスにも、ウンディーネ国を背負えるだけの力は間違いなくあった。


 だが、アクアの持つ力は、そんなファルスさえ大きく凌いでいたのだ。


「もし姉上と同時に生まれさえしなければ。そんな悲劇の少年として、本来なら僕は十年以上前に殺されていた筈だった。けれど、それを救ってくれたのが姉上だったのさ」


 そうして、当時まだ幼かったアクアが提案したのが、アクアを誰にでも公正な党首らしい党首として国を統治する一方で――


 それでは取り零さざるを得ない立場の者達を、チャランポランな演技をしているファルスに救わせるという形だった。


「国が割れるには、お互いが人気である必要があるから、このキャラが便利でね。ついでに言えば、そんな僕を馬鹿で扱いやすいと思って担ぎ上げようとする反乱分子まで見付かって、良い事尽くめだよ。不満なんて少ししかないさ」


 そこでファルスは、言葉を区切る。


 あえて不満とやらを、しっかりと研一に聞かせる為に。


「僕なんて結局、何の責任もなく好き勝手動けるから楽なもんだよ。本当は姉上の方が何倍も辛い。本当は僕よりも無茶苦茶で破天荒な人な癖して、表でずっと真面目ぶってないといけないんだからね」


「……それはそうなんだろうけれど」


 そんな事は研一だって、言われるまでもなく気付いている。


 だって実際に会って話してみたアクアは、事前に聞いていたお堅くて真面目そうなイメージとは随分と違う――


 人間味のある面白い人であった。


「だからって、それでファルスさんが辛くなくなるって話じゃないでしょうに」


 けれど、アクアの事はアクアと話している時に心配するべき話だ。


 百の苦しみを背負っている人が居るからって、あの人の方が苦しいんだからお前は我慢しろなんて事はない。


 八十の苦しみを持つ人間にだって、同じように悩み労わるのは普通の事だ。

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