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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第五章 戦いは遠い昔から

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第112話 脅威のコイン

 『魔人だって安全に産めるでしょう』の試運転は、概ね成功だったと言っていいだろう。


 マキの身体には確かに魔力は流れて一時的とはいえ健康になったし、副作用も今のところ、確認されていない。


 科学的な見地で考えれば、間違いなく大成功と言っていい結果ではあったのだが――


 文句なしの完璧な大成功とは言えない理由があった。


(マキさん、大丈夫かな……)


 というのも、だ。


 肌が敏感になった状態で裸を好きな人に見詰められるという初めての感覚に翻弄されてしまったマキの身体に、ちょっとした異変が起きてしまったというか――


 とても恥ずかしい場面を研一の前に晒してしまう事になり。


 その結果、どう顔を合わせていいか解からなくなってしまったらしく、真っ赤になって逃げ出してしまったからだ。


(プロディさんがフォローするって言ってたけど……)


 男である自分が何を言っても逆効果にしかならない事くらい、研一だって想像は出来る。


 だからプロディに全て託す以外に自分に出来る事なんてないとは解っているものの、どうしても心配してしまう気持ちだけは中々消えなかった。


(と、駄目だ。集中集中……)


 だが、研一は自らの顔を両手でパンと音が鳴る程度に一度だけ叩いて、雑念を払う。


 これから起きるであろう事態に備えて。


(にしても、わざわざここを待ち合わせに指定、か……)


 研一が現在居る場所は、魔導人形達のすぐ傍だ。


 試運転が上手くいき、憂いも無くなったという事でプロディがウィアーを呼び出したそうなのだが――


(やっぱり戦う気かな? 出来れば話し合いで済んでくれればいいと思っていたけど――)


 プロディ曰く、ウィアーは短時間ならば、自らが持つ商人魔法を使って魔導人形を操れる可能性があるらしい。


 おまけに、ウィアー自身も相当な実力者という話だった。


(まあ、話し合いで済ませる気があるなら、最初からこんな場所に呼び出したりしないよね!)


 急に異常なほどの悪感情が飛んできて身体が強化されたかと思うや否や。


 視界がスローモーションになっていくと感じた瞬間――


(やっぱりコイツ等使ってくるか!)


 先程まで直立不動で身動ぎ一つしていなかった魔導人形達が、機敏に動き出したかと思うと研一に槍を突き立てようと襲い掛かる。


(意外と連携取れてるんだな……)


 魔導人形達の動きは、研一が思う以上に滑らかで見た目以外は機械と思えない程だった。


 一斉に掛かって来る訳でなく、一体が槍を突き立てて来たかと思うと――


 その槍を避けた研一の動きを追うように、間髪入れずに槍が突き入れられていく。


 想像以上に鋭い槍捌きに空気が切り避ける音が鳴り、巨大な魔導人形から突き落ろされた槍が地面を抉り穿っていくが――


(多分、当たったところで槍の方が折れるだけなんだろうな)


 はっきり言って向けられた悪感情が強過ぎて、強化されまくってしまった今の状態では何の脅威にもならない。


 むしろ避け損なった結果、魔導人形を無駄に破損させてしまうんじゃないかと気を遣ってしまう始末。


(足がもつれてコケないように――)


 とはいえ、いくらゆっくりに見えているとはいえ、六体の魔導人形に避ける先々を狙って攻撃されているのだ。


 下手に触って壊してしまわないように避け続けるのも地味に難しく、足元に気を取られた瞬間だった。


「死ねや!」


 あまりに単純で強い罵声の言葉と共に。


 一枚のコインが、弾丸さながらの速度で研一に向かって飛んできた。


(ヤバイ! 何かコレは当たったらマズい気がする!)


 とはいえ、悪感情で十分に強化されている研一からすれば、飛んできているコインの絵柄や模様さえ確認出来る。


 避ける事なんて、造作もない事だろう。


(くそ、下手に避けたら後ろの魔導人形に当たる!)


 だが、位置取りがあまりに悪かった。


 おまけに下手に考える余裕があったばかりに、反射的に避ける事も出来ず、魔導人形を庇う為に立ち止まってしまった。


「くぁっ!」


 当たったらマズいという研一の直感は当たっていた。


 腕で防御したものの、当たった左腕にこの世界に来た中で一番と確信する程の激痛が走る。


(クソ、どういう原理だよ……)


 左腕にコインがめり込んでいた。


 より正確に言えば――


 皮を削いだコインが肉を貫いて、骨に当たる形で止まっていた。


 もし腕で防がずに頭にでも当たっていたら、強化された研一と言えど死んでいたに違いない。


(ああ、でも思ったよりは耐えられる)


 かつて地球に居た時、肋骨辺りにヒビが入っていた事がある。


 その時は大きく息を吸うだけで、身体に痺れるような痛みが走り、暑くもないのに脂汗が流れ出たモノだが、それを少し強くした程度で――


 研一からしてみれば、十分に痩せ我慢出来る範囲。


 おそらく強化の影響で痛みにも強くなっているのだろう。


「何だよ。文字通り、随分と手痛い挨拶してくれるじゃねえか。ウィアーさんよぉ!」


 それでも十分過ぎる痛みに研一は、顔を歪めつつ。


 魔導人形の影に隠れる事すら忘れて、驚愕した表情で立ち尽くしているコインを飛ばした主。


 ウィアー・マーチャントを睨み付けたのであった。

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