第107話 犯人は――
「それじゃあ信用して、協力してくれるって事でいいでしょうか?」
「協力する事自体は吝かではありませんが、一つだけ先に宣言させて頂きます」
「何ですか?」
研一に国を救いに来たという意識は、あまりない。
あくまで自分の願いを叶える為に戦っているという感覚の為、自分に出来る条件ならば、ある程度は呑もうと心構えしながら、続きを待つ。
「私にとって大事なのは、国ではなくお嬢様です。仮に防ぎきれない程の魔族の大軍が突然押し寄せてきたなら、私は国なんて捨てて、お嬢様だけ連れて逃げ出しますので、そのつもりで」
「ああ、それで大丈夫です。そういう事態になったら、俺も協力しますし」
プロディからの言葉は、特に驚くような話ではなかった。
迷う事無く、二つ返事で研一は了解の言葉を返す。
「……貴方は、国を守る為にサラマンドラ国から来たのでは、なかったのですか?」
「一応そういう感じではありますけど、俺の一番の役目は魔族を倒す事ですし、いつ魔族が攻めてくるかも解からない時世で、魔導人形壊したりしてマキさんの手を煩わせるような連中なんて、どうなっても知ったこっちゃないですよ」
逆に戸惑うような声を上げるプロディであったが、研一は別に博愛主義者でも何でもない。
頑張っている奴が報われてほしいと願い――
自分勝手な理由で周囲に迷惑を掛ける連中なんて、死滅すればいいとさえ思っている、意外と過激な人種だ。
残り少ない命でも頑張っているマキを、理解しようとも助けようともしない連中なんて、心底どうでもよかった。
「では、契約成立という事で。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ」
(これで離しても、怒られたりしないよな?)
協力の約束もしていないのに解放するなと言われたから、今の今までプロディを裸のまま組み伏せていた研一だが――
プロディ本人からの突っ込みが来たから捕まえていただけで、恨みも何もない相手を地面に押し倒す状態になっているのは、あまりに心苦しい。
「それじゃあ協力者になったって事で、さっさと服を着てほしい。どこかその辺に、服を置いてるんですよね?」
「……演技をしていない時の貴方は、何と言うか気が抜けるくらいに真面目な方ですね」
「とりあえず、褒められたと思っておくよ」
まさかヘタレだと罵られた訳では、ないだろうと思いつつ。
研一はプロディを解放すると同時に、背を向けて裸を見ないように注意する。
「口約束だけで協力するなんて告げただけの相手を、そんな簡単に信用するのはどうかと思いますが――」
「逆ですよ。ようやく信用出来たからこそ、秘密を話して協力してもらおうと思えたんです」
「ふむ、そういう事にしておきます」
その言葉を最後に、プロディの気配が遠ざかっていくのを感じて。
一区切り着いた、とばかりに息を吐く。
「それにしても、結局、魔導人形を壊してたのって本当に、マキーナ国の人間なのかな?」
そして、誰に言うでもなく疑問を口にする。
そこまで的外れな推理をしたつもりはなかったが、プロディに襲い掛かられた事で、疑念が生まれていた。
「……その件ですが、おそらく魔導人形を破壊していたのは、我が国の者達ではありません」
「うおっ! 速いですねって、何で服着てないんですか」
さっき離れていったと思った筈のプロディの声が、すぐ傍で聞こえて驚いて振り返る研一であったが――
メイド服を手に持ったままで、まだ着替えていなかった。
「気になる呟きが聞こえてきたもので、つい……」
「はあ。それでマキーナ国の人間じゃないって言うのは、どういう――」
「はい。貴方は知らないと思いますが、魔導人形は正確には破壊された訳ではありません。ただ構造的な急所の部品に損害を受け、動けなくされていただけなのですが――」
(ああ、ウィアーさんがそんな事を言ってたな)
視線を逸らして着替えを見ないようにしている研一の耳に、着替えで発生する衣擦れの音を響かせながら――
プロディは、静かに説明を続けていく。
「言いたくありませんが、我が国の戦士にそんな知識を持つ者は多くありません。何と言いますか、その、戦いとは圧倒的な力で捻じ伏せるモノだという意識の方が多くてですね……」
「そうなんですか?」
「はい。お恥ずかしながら、他国からは蛮族扱いされているような、お国柄ですので……」
「えーと、それは、その。何か色々とお疲れ様です」
申し訳なさそうなプロディの呟き。
そして、マキーナ国に来てからの民の行動から推測するに、相当な気苦労があるのだろうと感じて、研一の口から労いのような言葉が飛び出す。
「……そんな面倒臭いスキルを授けられた貴方ほどでは、ありませんよ」
研一の言葉にプロディは僅かに笑ったかと思うと。
ここからが本筋だとばかりに、声を真剣なモノに戻して、プロディの推理を語り始める。
「実はですね。魔導人形が壊されるようになった付近から、国に出入りするようになった者が、一人だけ居るのです」
「滅茶苦茶怪しいじゃないですか」
「はい。ただ、その者が犯人だとして今捕まえてしまうと、少々、困った事になりますので、目を瞑っていたと言いますか……」
「今、捕まえてしまうと?」
という事は、現在国を運営する上で重要な位置に付いている人間なのかと想像する研一であったが――
今のところ、マキとプロディ以外に居なくなって困るような人材なんて、思い浮かばない。
「……実はマキ様の症状を治せるか。それが無理でも、延命出来る装置を作れる可能性があるのですが、その機会の為の部品の仕入れを出来そうなのが、その方くらいしか居ないのです」
「それって――」
けれど、プロディの言葉に研一の中で一人の女の姿が浮かんでいく。
日に焼けた活発そうな印象に加えて、関西弁に聞こえる話し方が特徴的で、何故か研一に恐ろしい程の悪感情を持つ女性。
「魔導人形が壊され始めた頃から現れて、魔導人形の部品を売りに来た流浪の商人、ウィアー・マーチャント様、その人です」
その研一の想像通りの名前が、プロディの口から放たれたのであった。




