第103話 大事だからこそ引く事なんて出来なくて
「こうなるのが解かってたさかい、メイドさんの居らん内に商談を終わらせたかったんやけどなあ……」
半ば呆れたような様子で独り言のようにウィアーは呟いて。
どうしていいのか解からず、立ち尽くしている研一へと視線を向ける。
「それでおたくは、どこの誰さんや? 見ぃへん顔やけど……」
「俺は――」
咄嗟に答えようとした研一であったが、言葉に詰まる。
別に自己紹介の言葉が想い浮かなかった訳ではない。
(なんだ、この異常な悪感情……)
何気なく話し掛けてきているようにしか見えないウィアーから、驚く程の悪感情が流れてきたからだ。
出会った頃のベッカに匹敵する強さだろう。
――隙を見て殺そうとしてきた人間と同レベルと言えば、その悪感情の大きさの程が窺い知れるだろう。
「そないに警戒せんでもええやないか。ただ誰なのか聞いただけで、無理やり商品売り付けようとした訳でも、あらへんのに……」
「……この国の客人だよ。そういうテメェは何だ?」
「ああ、こら失礼。ウィアー・マーチャント。この世界で最後の商人魔法の使い手やね」
「商人魔法だあ?」
「せや。商品を異空間に収納したり、魔獣との取引さえ可能にしたりする魔法やで」
サーラの炎魔法やテレレの植物魔法のように、地球の物理法則でかろうじて理解出来そうな魔法もあれば――
それ等とは全く違う概念で動く魔法体系が、この世界には存在している。
今まで出てきた中では、遠くの場所に一瞬で移動出来る転送陣辺りが、その最たる例と言えるだろう。
「まあ、警戒されてるみたいやし、ウチの事は次の機会でええわ。何か誤解してるみたいやし、あっちの二人の話でもしたる」
ここで普段の悪党演技をしている研一ならば「警戒しているのは、そっちだろう」なんて不敵に言い返しただろうが――
商人魔法って何だという疑問。
思っていたよりも、マキとプロディの仲がよくないのか。
なんて別の事に気を取られていたせいで、返事をする機会を逃し、ウィアーの話が続いていく。
「アレな、別に仲が悪い訳やないねん。むしろ仲が良過ぎて、擦れ違ってしまってるだけゆーかな……」
「擦れ違って、だあ?」
「せや。メイドさんの方は、魔導人形を強化してお嬢様自身の戦力を強くしてほしいんや。マキーナ国は元々傭兵国家とも言われていた、戦闘民族やさかいな。武力さえ持ってれば民衆は、それなりに付いてきてくれる。それで少しでもお嬢様の支持を上げようとしてるんやな」
「なるほどな」
ウィアーの言葉に研一は、それなら納得出来るとばかりに頷いた。
それがプロディの考えだというのなら、自分の身体を差し出してでも、マキを守ろうとした印象と一致するからだ。
「けど、お嬢様としては戦力は既に十分やと思ってるんや。実際、魔導人形だけで一国が持つ戦力としては上位に君臨しとる。その上で国民も精強な魔法使いが多い。おまけとばかりにそれ等全部を相手にしても戦えるかもしれんメイドさんまで居る。はっきり言って単純な戦力だけで言えば、今の人間の国ではブッチギリちゃうかな?」
「けど、その強い魔導人形とやらが定期的に壊されてるって話らしいじゃねえか」
仮にそれが内部犯であれ。
一国の軍事力に匹敵する兵器が、あっさり倒されているのだ。
マキの戦力を強化したいという意見だって、別にプロディの私情だけでなく、国の事を考えた意見のように感じる研一であったが――
「あんなん、ちょっと魔導人形の構造に詳しい奴が小突いて動けなくしとるだけや。本気でぶっ壊されてたなら、部品の取り換えやのうて、完全に作り直すなりせなあかんやろ」
「ふむ……」
「考えてもみいや。仮に六機ともぶっ壊されたんなら、壊れた六機から使える部品だけ寄せ集めて一機だけ修復したとか、そういう事態になっとる筈。せやけど、六機とも綺麗に揃っとったやろ」
「ああ、言われてみれば――」
ウィアーの言葉に魔導人形の事を思い出してみたが、武装も全部統一されており。
何度も壊されているなんて言われたところで解からないくらい、綺麗なもんだったと研一は思い至る。
「そういう訳で戦力は十分だから、食糧を国内だけで賄えるようにしたり、民の暮らしを少しでも良くしたい言うんが、党首としての考えなんやけど――」
「けど?」
「……それはあくまで、国の事を考えている党首としてっていう建前やな。最大の戦力を持ってる言うたかて、今は戦力なんてどれだけあっても良い時期やさかい。国内の強化に集中するには、ちーと気が早いとも言える」
「ふむ……」
「お嬢様自身の本音は、別にある。もう自分の先が長くない事を知っているさかい、自分の後を継ぐ事になるメイドさんに、人気を集めようとしとるんや」
もうすぐ死んでしまう自分に民衆の支持を集めてしまっては、自分が死んだ後にプロディが困ってしまうかもしれない。
ならば自分は、民衆の意見を無視して嫌われてしまおう。
それこそが国の未来の為にも、プロディの為にも最善であるとマキは判断したのだ。
「……まあ、だから擦れ違い言うんは、本当は違うんかもしれへんな。お互い長い付き合いやさかい。自分達が何を考えているかくらい気付いとるからこそ、意地になってまうんやろ」
「それは――」
(あまりにも悲し過ぎるだろ……)
ウィアーの言葉に今も尚、言い争いを続けているマキ達に視線を向ける。
事前情報を聞かされた上で話を聞けば、研一にも解かってきた。
「戦いならディーの力だけで十分じゃないですの! たとえ今は理解されなくても、未来の事を考えれば日用品の開発に力を入れた方が、絶対に良いに決まってますわ!」
「未来よりも今生きている時間の方が遥かに大事でしょう!? 生きて聞けない賛辞に何の意味があると言うのです!」
ただ傷付けないような表面上だけの仲良しこよしな関係で満足するには、あまりにも互いに近くて大事過ぎて。
半端なところで妥協出来ないからこそ、ぶつかり合うしか出来ないという事に。
「…………」
言葉もなく熱心にマキ達を眺める研一を、ウィアーが目を細めて見詰めている。
未だ変わらない強さで、悪感情を垂れ流したままに。
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