第100話 真の敵は――
「何か気になる事でも?」
あまり研一に敬意を払いたくないのか。
どこか不躾にも思える口調で、プロディが問い掛けてくる。
「いや――」
そこで一瞬、確証も何もない言葉を言うべきではないという気持ちが出てしまう研一であったが、即座に思い直す。
ここで迷うのは傲慢で悪党な救世主様らしくないし。
(俺なんかがアレコレ小難しく考えるよりも、こんな色々な発明が出来るマキさんの方が、しっかり考えてくれる筈)
ここで口を噤んで、後から嫌な予感が事実だと解かった方が遥かに危険だ。
杞憂ならそれでいいが、備えられるに越した事はない。
「おかしいと思えない、お前等の頭は大丈夫かって思っちまってな」
「私はともかく、お嬢様にそんな口を――」
「ディー。黙って」
自分だけならともかく、マキまで馬鹿にするような口調にプロディが怒りを見せるが――
それを押し留めてマキが前に出る。
「どういう事ですの?」
「言ってしまえば、こいつ等は国を守る門番みてえなもんなんだろ? それを気付かれる事無く倒せるだけの力があって、倒すだけ倒して中に入って来ねえなんて、おかしいにも程があるだろうよ」
ドリュアス国でゲスタブ達の手で罠が破壊された時の事が解かり易いだろう。
守りを失ったと知るや否や。
好機と見たジーンという魔族は、少数でありながら策を講じてながら攻めてきていた。
「仮に最初はマキーナ国の様子を探ろうとしていた魔族が魔導人形に見付かって、止む無く破壊して、見付かる前に逃げただけかもしれねえ。だが、立て続けに破壊されるなんて、異常以外の何事でもねえだろうが」
「……それは私もおかしいと思っていましたわ。ですから、最初は監視用の機械を飛ばしてみたんですの」
「ほう、それで?」
(気付いているんなら、わざわざ言うまでもなかったのか?)
さすがに一国の党首なのだ。
ただ女神から力を授かった力で敵と戦うくらいしか出来てない自分よりは、遥かに深い考えがあるのだろうと。
自分の心配なんて素人の浅知恵でしかなかったんだなんて、安心して胸を撫で下ろそうとする研一であったが――
「それが隠れて飛ばしていた筈の監視用の機械も、すぐに破壊されて何も解からなかったんですの……」
「……おそらく近い内に魔族が攻めてくるのではないかと思い、サラマンドラ国へと救援を要請した訳です」
「…………」
マキ達の言葉に絶句するしかなかった。
だって、あまりにも駄目過ぎる。
(国の戦力に匹敵する魔導人形を倒した時ですら姿形も確認出来てない上に、バレないように飛ばしている監視用の機械にだって気付いているんだろ?)
明らかに魔導人形を破壊している存在は、自分の正体を隠しながら動いているようにしか思えない。
そうでもないなら、それだけの力があるのだ。
魔導人形を倒した勢いのままに、マキーナ国まで攻めてくればいいし。
隠密性を生かして魔導人形すら無視して、要人を殺すなり主要施設でも破壊した方が、よっぽど効率的だろう。
(仮に魔族にも何かしらの流儀があるにしたって――)
サラマンドラ国を攻めてきた魔族は、特に姿を隠すでもなく正面から叩き潰しに来ていた。
ジーンも少数で緊急だったから囮なんて搦め手の作戦を取っていたが、それでも戦いに何かしらの美学や拘りを持っていたように見える。
だが、それが魔族の戦い方というのならば――
逆に魔導人形だけ、コソコソ破壊して何もしてこない事がおかしい。
「お前等。本当に馬鹿かよ……」
そんな状態で、一番疑わなければならないのは魔族という名の外敵ではない。
内部の人間であり――
(確か元々は傭兵国家だったって話だし、大方、魔導人形に仕事を奪われたとか、その辺の派閥かな……)
ほんの少ししかマキーナ国に滞在していない研一ですら、正解かどうかは置いておくなら。
可能性なんていくつかパッと思い付いてしまう。
――そのくらい、マキが党首として良く思われてない事は伝わっていた。
「魔導人形が壊れて喜ぶのは魔族だけか? ちょっとは物考えろよ」
「ですが、それは――」
呆れたように告げる研一であったが、言われてすぐに思い当たる辺り。
マキ自身だって本心では気付いていたのかもしれない。
「……魔導人形は皆を守る為に居るのですよ? それを自らの手で破壊する程、愚かな人なんて私の国に居る筈がありませんもの」
自分に言い聞かせるように答えるマキであったが――
声は小さくか細い上に、研一と目を合わせる事すら出来ずに目を伏せている。
「はっ。俺は誰とは言ってないぜ」
「…………」
そんなマキに現状を真っ直ぐに見た方がいいという想いから。
悪党演技を兼ねて皮肉交じりに指摘する研一であったが、マキは苦しそうに表情を歪めただけで何も言わない。
(……これは下手に攻めてくる敵と戦うよりも、厄介な場所に来てしまったかもしれないな)
そんなマキの姿に。
さて、どうしたものかと研一は頭を悩ませ。
「お嬢様……」
プロディは心配そうに顔を曇らせたのであった。




