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1-5

 シアの家での生活が始まって数日、悠は毎朝目覚めるたびに新しい自分を発見するような感覚を覚えていた。身体の軽さや筋力の向上はもちろん、自身の中に広がる魔力の存在を意識できるようになり、日々の訓練が彼を変えていくのを感じていた。


「さて、今日は魔術の属性について話しましょう。」


シアは朝食後のテーブルに広げた古びた本を手に取り、悠に向き直った。


「属性って、火とか水とかってことか?」


悠はパンをかじりながら尋ねた。


「そう。ただし、この世界の魔術にはそれぞれ上位の属性があるの。」


シアは本の一ページを開き、指を走らせた。


「基本属性は風、炎、水、大地の四つ。そしてそれぞれの上位属性が、空間、光、刻、闇になるわ。」


「上位属性……?」


悠は眉をひそめた。


「それってどう違うんだ?」


「簡単に言えば、基本属性が『物理的』な力なのに対して、上位属性はより抽象的で概念的な力よ。」


シアは指を動かしながら説明を続けた。


「たとえば風の上位属性である空間は、風の流れを操るだけでなく、空間そのものを歪ませたり、移動したりする力があるの。」


「それが炎だと光、水だと刻……なるほど、大地が闇か。」


悠は腕を組みながら理解しようとしていた。


「ちなみに私は、風と空間、そして水と刻が得意属性よ。」

 

「なるほど。前に俺の身体を癒やしてくれた魔法もその属性魔法なのか。でも、俺はどれが得意なんだ?」


「それを調べるのが今日の最初の課題よ。」


シアは微笑みながら、杖を持ち立ち上がった。


「外に出ましょう。」


彼女に促され、悠は家の前に広がる空き地に足を運んだ。周囲を囲む木々のざわめきが心地よく、朝の空気が清々しい。


「まずは目を閉じて。」


シアの指示に従い、悠は瞼を閉じた。


「自分の体の中に流れる魔力を感じて。それがどんな性質を持っているかに耳を傾けなさい。」


悠は息を整え、意識を内側に向けた。体内を巡る熱のようなものが次第に明確になり、それが波のように脈動しているのを感じた。


「どう?何か感じる?」


シアが静かに問いかける。


「なんというか……全部ある気がする。」


悠は困惑した声で答えた。


「風の軽さも、炎の熱も、水の流れも、大地の重さも……全部が混ざってる感じだ。」


「なるほど。」


シアはしばらく考え込むように沈黙した後、少し驚いた顔で呟いた。


「あなた、全属性の特性を持っているみたいね。」


「全属性?」


悠は目を開け、シアを見た。


「そんなの普通なのか?」


「いいえ、普通どころか……ほとんど聞いたことがないわ。」


シアは杖を握り直しながら続けた。


「それだけの多様な魔力を持っているということは、それを制御するのが難しいということでもある。でも、もし使いこなせれば――」


「最強になれるってことか?」


悠が冗談めかして言うと、シアは苦笑した。


「そう簡単な話じゃないわ。」


彼女は杖を地面に突き立てた。


「まずは魔力の制御を覚えること。その基礎ができていなければ、最強どころか自滅するわよ。」


それから悠の本格的な修行が始まった。朝から夕方まで、魔力の制御と体術を組み合わせた戦い方を学び、夜には魔術理論の講義を受けた。最初は魔力を循環させるだけでも一苦労だったが、次第に体内の魔力をスムーズに流せるようになり、シアからの評価も少しずつ上がっていった。


「いいわね、悠。魔力を体術に乗せる感覚を掴んできてる。」


シアが満足そうに言う。


「けど、まだ全然だ。」


悠は汗を拭いながら苦笑する。


「魔力を使うと、すぐに体力が尽きる。」


「それも訓練の一環よ。」


シアは悠の肩に手を置いた。


「あなたの肉体も、魔力の器として成長していくはず。それに、若返った影響もあるんでしょうね。身体能力が以前とは比べものにならないほど高いはずだわ。」


実際、悠は自分の身体が確実に変わっていることを感じていた。腕を振るうたびに力強さを実感し、以前なら数分で息切れしていた運動もこなせるようになっていた。


「シア、本当にありがとう。」


ある夜、訓練の後で悠は思わず口にした。


「俺、ここに来てから本当に変われた気がする。」


「まだまだこれからよ。」


シアは微笑んだ。


「でも、あなたが頑張っているのは私もちゃんと見てるわ。」


こうして、シアと共に過ごす日々が流れ、悠が異世界に来てから半年が過ぎようとしていた。彼の中には以前のような虚しさはなく、強く生きたいという意志が芽生えていた。


「よし、明日も頑張るぞ。」


悠は自室のベッドに倒れ込むと、窓の外に輝く満月を見上げ、静かに呟いた。

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