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迷宮都市に向かう決意を固めた悠とウルクは、次の春に旅立つ計画を進めていた。それまでの間、依頼をこなしながら準備を整え、町の人々や辺境伯に別れの挨拶を済ませた。二人の成長を見守ってきた人々は、それぞれの言葉で激励し、成功を祈った。
そして春が訪れた。風は暖かく、空は透き通るように青い。悠とウルクは朝早く宿を出発し、広場に停めてあった馬車に荷物を積み込んでいた。荷台には食料や水、旅路に必要な道具、そしてこの街での思い出を詰め込んだ小さな荷物が収まっている。
「全部積み終わったな。」
悠が馬車の様子を確認しながら言った。
「ええ、これで準備万端ね。」
ウルクはその言葉に頷き、最後に自身の杖を荷台に固定した。
町の入り口には、二人を見送るために集まった数人の顔ぶれがあった。辺境伯ガルフォードもその中に立っており、以前とは違う穏やかな表情で二人を見つめていた。彼は一歩前に出ると、悠とウルクに向けて短く、しかし力強く言葉をかけた。
「悠、ウルク。お前たちが選んだ道を応援している。迷宮都市で何が待ち受けているかは分からないが、自分たちを信じて進むんだ。」
「ありがとうございます、父上。」
ウルクが小さく礼をすると、ガルフォードは優しい微笑みを浮かべた。
「お嬢様、どうかお身体にお気をつけて。」
かつての執事バルトンの代わりに新たに就いた執事が、一歩下がった位置から丁寧に頭を下げた。
悠はその光景を横目に見ながら、内心で改めてウルクの強さを感じていた。かつては父との確執や自身の進む道に悩みを抱えていた彼女が、今やそのすべてを乗り越え、新たな世界へと踏み出そうとしているのだから。
「じゃあ、行こうか。」
悠が手綱を握り、馬車の座席に腰を下ろした。
ウルクも隣に座り、最後に街の風景を振り返る。その表情には一抹の寂しさがあったが、それ以上に新たな旅路への期待があふれていた。
「さよなら、私の故郷。そして、ありがとう。」
ウルクは静かに呟き、視線を前へ向けた。
馬車が動き出すと、見送りの人々が手を振り、二人の背中を送り出した。街の門を抜けると、悠は軽く息を吐き、ウルクに目を向ける。
「いよいよだな。」
「ええ、ここからが本当の冒険の始まりね。」
ウルクの声には力強さが宿っていた。
道はまっすぐに続き、遠くには山々がうっすらと見える。その向こうに広がる未知の世界――迷宮都市。そこには新たな試練、新たな仲間、そして新たな自分たちが待っているはずだ。
「俺たちならやれるさ。」
悠が小さく呟いたその言葉は、ウルクにもはっきりと届いていた。
「もちろんよ。」
ウルクは彼に微笑みを返した。
春の柔らかな風が二人の頬を撫でる中、馬車は迷宮都市を目指してゆっくりと進んでいった。その足音は、新たな冒険の幕開けを告げているようだった。
第一部 完