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4-2

 宿の狭い部屋に戻った悠は、重い扉を静かに閉じ、簡素な木の椅子に腰を下ろした。薄暗いランプの明かりが揺れる中、彼は深く息を吐き出し、心を整理しようと目を閉じた。キマイラとの戦い――その記憶がまだ脳裏に鮮明に焼き付いている。


「ヴェル……竜の試練のときの圧倒的な力と比べれば、キマイラはそこまでの強敵ではなかったはずだ。」


悠は小さく呟き、椅子にもたれながら拳を見つめた。しかし、キマイラの再生能力の厄介さは、それ自体が強さの別の形だった。悠とウルクの連携が幾度も崩され、息を合わせるどころか互いに足を引っ張りかねない状況に追い込まれた。竜の試練で得た経験を活かしたはずだったが、完璧な対応には程遠かった。


「俺たちは、まだまだだな……。」


その呟きは、反省の念と共に、確かな手応えへの期待も含んでいた。戦いを通じて少しずつ強くなっている感覚はあった。それでも、一人でできることには限界がある。今回の戦闘で改めて感じたのは、連携の重要性――そして、それをもっと深めるための時間と場が必要だということだった。


思考は自然と、今回の戦いの引き金となった秘宝に移った。

キマイラを生み出した秘宝――あれがどこで発見され、なぜ辺境伯領に持ち込まれたのか。その経緯が分からない以上、同じような危機が再び訪れる可能性は否定できない。もしこれが偶然ではなく、何者かの意図によるものだったとしたら?その疑念が胸を重くさせた。


「俺たちだけでどこまで調べられる……?」


街で得られる情報には限りがある。それを考えると、次の選択肢は自然と導き出された。


「迷宮都市か……。」


悠は椅子から立ち上がり、窓の外を見つめた。

迷宮都市――冒険者たちが集まり、未知の知識が眠ると言われる場所。情報が集まるだけでなく、そこで新たな仲間と出会い、さらなる成長の場を見つけられるかもしれない。迷宮都市に行く理由は十分すぎるほどある。しかし、そこには一つ、重要な問題があった。


「ウルク……お前はどうする?」


悠は自分に問いかけるように呟いた。

この街は彼女にとって故郷であり、家族との絆も再び芽生え始めている。特に父親であるガルフォードとの関係は、今回の一件で新たな変化があった。ウルクにとって、それを残してまで迷宮都市に向かう理由があるのかどうか――それが分からない。


「もし彼女がここに残りたいと言うのなら、それもいいさ。」


悠はそう考える一方で、どこかで彼女が一緒に来てくれることを期待している自分にも気づいていた。迷宮都市での冒険は、二人だからこそ乗り越えられるものがある――そんな予感がしていた。


「明日、ちゃんと話してみよう。」


悠はベッドに腰を下ろし、薄暗い天井を見上げた。

今までの人生が、自分の意志だけで動かせるものではなかった過去を思い出す。ブラック企業での日々、シアとの出会いと別れ……それでも、この異世界での生活が第二の人生として少しずつ形を成しているのを感じていた。


「ここで止まるわけにはいかない。もっと強くなって、もっと多くを知って……俺自身がこの世界で何かを成し遂げるために。」


悠は目を閉じ、胸の奥に沸き上がる熱を感じながら次第に眠りへと落ちていった。

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