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1-3

 森を歩くこと約30分。シアに案内されながら、悠は疲れた足を引きずって進んでいた。鬱蒼とした木々の間を抜けると、小さく開けた空間に出た。そこには、木材と石で作られたロッジハウスが建っていた。見た目は質素だが、どこか温かみを感じさせる佇まいだ。


「ここが私の住処よ。まずは中で休みましょう。」


シアが振り返り、穏やかに微笑む。


「助かるよ……。」


悠は息を整えながらその場に立ち尽くした。異世界に来てからというもの、驚きと不安の連続だったが、この瞬間だけは少し安堵を覚えた。


 扉を開けて中に入ると、木の香りが漂い、質素ながら整えられた空間が広がっていた。中央には大きな暖炉があり、その周囲に木製のテーブルや椅子が配置されている。シアは手際よく暖炉に火を灯し、蝋燭にも火をつけた。部屋全体が柔らかな光に包まれる。


「座って。」


シアが椅子を指し示すと、悠はその指示に従い、ゆっくりと腰を下ろした。体の疲れが一気に押し寄せる。


「お茶でも出したいところだけど……あいにく、今は準備がないの。」


シアは軽く肩をすくめた。


「でも、話すことはたくさんあるわ。」


彼女は椅子に腰掛けると、真剣な眼差しで悠を見つめた。


「悠、この世界で生き延びたいと思うなら、覚悟が必要よ。」


彼女の声には厳しさが混じっていた。


「あなたは異世界から迷い込んできた。言い方は悪いけれど、この世界での常識は何一つ持っていないわ。」


「それは……わかってる。でも、どうすればいいかもわからない。」


悠は少し俯きながら答えた。


「俺、こっちに来たばかりで、何も……。」


「だからこそ、教えるわ。」


シアは指を軽く振り、悠の言葉を遮った。


「この世界の基本を。そして、生き延びるための術を。」


「術……?」


悠は眉をひそめた。


「魔力を扱う方法、敵と戦う技術、そして自然の中で生き抜く知識。すべて、あなたに必要なものよ。」


シアは真っ直ぐな目で悠を見つめた。


「ただし、覚悟して。これは簡単なことではないわ。」


悠は拳を握りしめた。ブラック企業での過酷な日々を思い返す。疲弊しきった生活の果てに、彼は新しい人生を求めてこの世界に来たのだ。このまま無力なままでは、過去の自分と何も変わらない。


「教えてくれ。」


悠は力強く言葉を発した。


「俺、この世界で変わりたい。もうあんな無力な自分には戻りたくないんだ。」


シアは頷き、少しだけ微笑んだ。


「いいわ。明日から修行を始めましょう。まずはあなたの魔力の特性を見極めるところからね。」


悠はその言葉に安堵しつつも、新しい緊張感が胸を満たすのを感じた。ここから始まるのは、これまで経験したことのない厳しい日々だ。それでも、彼は逃げるつもりはなかった。


「今夜は休みなさい。そこにソファーがあるから。」


シアは部屋の隅を指差した。


「あなたにはまず、体力を回復させる必要があるわ。」


悠は頷き、ソファーに向かった。少し硬いが横になると、驚くほどの疲労感が全身を襲った。目を閉じると、森の冷たい空気とは対照的に部屋の温もりが心地よく感じられた。


「……ここが俺の新しいスタートか。」


静かに呟くと、意識は深い眠りへと沈んでいった。

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