3-7
悠とウルクは街道沿いでキマイラとの激闘を繰り広げていた。獅子の頭から吐き出される炎、蛇の尾の鋭い突き、そして翼による空中からの猛攻――キマイラはまさに全方向から攻撃を仕掛けてくる圧倒的な存在だった。
「悠、致命傷を与えてもすぐに回復してしまうわ!」ウルクが叫ぶ。彼女の顔には焦りが滲んでいた。
「分かってる!だけど、秘宝がないんじゃ遺跡の時と同じ方法も使えない!」悠は拳に魔力を込め、キマイラの足元に一撃を放つ。それでもキマイラはひるむことなく再び立ち上がり、咆哮を上げた。
ウルクは一瞬目を閉じ、意識を集中させた。彼女の手には杖が握られ、魔力の波動を周囲に広げる。
「悠、瘴気の魔力を探知できたわ!」ウルクが目を見開き、叫ぶ。「でも……その方向は……」
「どこだ!」
悠が鋭く問い返す。
「辺境伯領主の家の方角よ!」
ウルクの声は信じられないといった調子だった。
「……やっぱりか。」
悠の眉が険しくなった。
「ウルク、秘宝はお前に任せる。」
「何を言ってるの!あなた一人でキマイラを相手にするなんて無茶よ!」
「時間を稼ぐだけだ。」
悠はウルクをまっすぐ見つめた。
「お前が瘴気の元になっているものを見つけて壊せば、この戦いを終わらせられる。それが一番の近道だ。」
「でも……」
「大丈夫だ、ウルク。俺は死なない。」
悠の声には迷いがなかった。
ウルクは一瞬ためらったが、やがて頷いた。
「分かった。必ず戻るから、持ちこたえて!」
「頼む!」
悠は短く返事をし、再びキマイラに向き直った。
ウルクは風の魔法を使いながら辺境伯の家を目指していた。瘴気の魔力を頼りに辿り着いた家は、異様な空気に包まれていた。玄関に入った瞬間、肌にまとわりつくような不快な魔力の波動を感じる。
「この感じ……絶対にここが元凶ね……!」
ウルクは杖を握りしめ、奥へと進んだ。
やがて辿り着いた部屋では、辺境伯ガルフォードが床に倒れていた。そのそばに立つ執事は、何かを見つめている。その視線の先には、不気味な輝きを放つ秘宝があった。
「バルトン……どういうこと……!?」
ウルクが問い詰めると、執事は振り返り、冷たい笑みを浮かべた。
「お嬢様、これは全て必要なことなのです。この地を発展させるためには、この秘宝の力が不可欠でしてね……。」
「そんなことのために人々を危険にさらしているの?」
ウルクの声には怒りが混じっていた。
「あなたがキマイラを生み出した張本人ね!」
執事は肩をすくめ、秘宝を指差した。
「その通りです。ですが、今さら止められるものではありませんよ。」
「やらせないわ……!」
ウルクは杖を掲げ、呪文を唱え始めた。
一方、悠とキマイラの戦いは続いていた。街道にはキマイラの巨大な爪跡が残り、木々は炎によって燃えさかり始めている。悠は息を切らしながらも、ひるむことなくキマイラと対峙していた。
「何度倒しても立ち上がる……!」
悠は拳に光魔法をまとわせ、キマイラの胸元に渾身の一撃を叩き込む。獣の体が衝撃で揺らぐが、瞬く間にその傷は再生してしまう。
「くそ……ウルク、急いでくれ……!」
悠は心の中で叫び、再び構えを整えた。戦いを続けるためには、一瞬たりとも気を抜けない状況だった。