3-6
悠とウルクは遺跡 の試練を終え、街へ戻るとすぐに辺境伯の屋敷を訪れた。
今回の報告を終えることは、単なる義務以上に重要だった。遺跡での出来事の異常さと、辺境伯がこの依頼を二人に課した理由――悠の中には多くの疑問が渦巻いていた。
一方で、ウルクもまた複雑な心境にあった。父である辺境伯ガルフォードとは良好とは言えない関係だが、彼の意図を探る必要性は感じていた。
執事に案内された二人は、広い応接間で辺境伯の到着を待った。
豪奢な家具や壁の装飾は、ウルクにとってなじみ深いものだったが、どこか居心地の悪さを感じさせる。
「悠、今回の依頼……やっぱりおかしいと思う。」
ウルクが声を低くして話しかける。
「俺もそう思う。」
悠は短く答えた。
「あの遺跡で見た瘴気、壺、そしてキマイラ……。ただの偶然とは思えない。」
「父上がそれに関与しているとでも?」
「可能性はある。」
悠は慎重に言葉を選びながら続けた。
「だが、決めつけるのは早い。まずは話を聞いてみよう。」
ウルクは小さく頷き、それ以上は何も言わなかった。
しばらくして、辺境伯ガルフォードが現れた。その堂々たる姿勢と鋭い目つきは、彼が領主としての責務を全うしている証だった。
「無事で戻ったか。」
短い挨拶の後、二人は遺跡での出来事を詳細に報告した。
「壺と秘宝は、確かに遺跡で見つけました。」
悠が話を続ける。
「しかし、それらはすでに壊れており、瘴気は消えていました。ただ、それが何者かによって意図的に設置された可能性が高いと考えています。」
ガルフォードは報告を静かに聞き終えた後、鋭い視線をウルクに向けた。
「ウルク、この依頼を通じてお前が成長した姿を見せてくれることを期待していた。」
「父上、それだけが目的ではないでしょう?」
ウルクが一歩前に出て問い詰めるように言った。
その時だった。突然、扉が乱暴に開け放たれ、執事が息を切らせて駆け込んできた。
「辺境伯様、大変です!街道沿いにキマイラが現れました!」
「キマイラ……だと?」
悠が驚きの声を上げる。
「遺跡でのキマイラが消えたと思ったら……まさか。」
ウルクもその言葉に反応し、すぐに覚悟を決めた表情になった。
「場所はどこだ?」
悠が執事に詰め寄る。
「街から東に伸びる街道沿いです。既に被害が出始めており、住民たちが避難しています!」
ガルフォードは立ち上がり、二人に向かって短く命じた。
「頼む。お前たちなら何とかできるはずだ。」
ウルクは一瞬父親を睨むように見たが、すぐに踵を返して部屋を飛び出した。
街道にたどり着いた二人の目の前には、巨大なキマイラが咆哮を上げ、周囲を荒らし回る光景が広がっていた。
住民たちは避難を終えていたものの、辺りには壊れた荷車や焼け焦げた跡が点在している。
「やっぱり遺跡のものと同じだ。」
悠が眉をひそめる。
「でも、どうしてここに?」
ウルクが杖を構えながら言った。
「今は理由を考えている暇はない。まずは倒すぞ!」
悠は地を蹴ってキマイラに向かって突進した。拳に光魔法を纏わせ、一撃を放つ。しかし、キマイラは悠の動きを読み取るかのように軽やかにかわし、逆に爪を振り下ろしてきた。
「悠、危ない!」
ウルクが素早く魔法の障壁を展開し、悠を守る。
「助かった!」
悠は息を整え、再び構えを取り直した。