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悠とウルクは、遺跡の最奥に散らばった壺と秘宝の欠片をじっくり観察していた。瘴気も黒い霧も完全に消え去り、あのキマイラとの激闘がまるで嘘だったかのような静けさが祭壇を包んでいた。
「これがすべての原因だった……のかしら。」
ウルクが欠片の一つを拾い上げ、眉をひそめた。
悠は少し考え込んだあと、頷いた。
「たぶんそうだ。だが、これが自然に発生したものだとは思えない。誰かが意図的に仕組んだ可能性が高い。」
「……確かにそうね。だけど、これ以上ここで調べても証拠が見つかるとは思えないわ。」
ウルクは欠片を布で包み、荷物にしまいながら言った。
「とりあえず、これを街へ持ち帰って報告しましょう。」
悠は壺を慎重に袋に詰め込みながら言った。
「だな。壊れているとはいえ、瘴気が残っていたら危険だ。慎重に運ぼう。」
二人は準備を整え、遺跡の入り口に向かって歩き出した。何度も戦闘を繰り返したため、疲労が蓄積している。だが、互いに無事であることが何よりの安心材料だった。
「悠、さっきの戦い……あなた、本当に無茶するわね。」
ウルクは肩越しに彼を見やりながら、少し微笑んだ。
悠は苦笑しながら答えた。
「無茶でもしなきゃ勝てない相手だったろ? それに、お前が支援してくれたおかげで何とか切り抜けられたんだ。」
「ふふ、そうね。でも、次はもう少し考えて動いてほしいわ。」
ウルクの声には安堵の色が含まれていた。
やがて遺跡の入り口にたどり着いた二人は、その周辺を注意深く観察した。周囲の魔物が活性化している様子は見られず、遺跡全体が静まり返っている。
「ひとまずここで休もう。街まで戻るには体力が必要だ。」
悠が提案すると、ウルクも賛同し、二人は近くの安全な場所を見つけて一晩を過ごすことにした。
夜が明ける頃、悠は焚き火の傍で目を覚ました。空は澄み渡り、夜露に濡れた葉が朝日に輝いている。ウルクも既に起きており、荷物を整理していた。
「おはよう、悠。」
ウルクが軽く挨拶する。
「おはよう、よく眠れたか?」
悠は背伸びをしながら尋ねる。
「ええ、おかげさまで。」
ウルクは微笑みを浮かべた。
「遺跡周辺も問題なさそうね。魔物が活性化していないのは何よりだわ。」
「そうだな。このまま街に戻れそうだ。」
悠は装備を整え、焚き火を消した。
「さて、行こうか。」
遺跡を後にした二人は、静かな森の中を進んでいった。道中、悠は壺と秘宝の欠片が収められた袋を改めて確認し、ふと口を開いた。
「これを街のギルドに持ち帰ったら、何が分かるだろうな。」
悠の声には、不安と期待が入り混じっていた。
「少なくとも、この遺跡で何が起きていたのかの手がかりにはなるはずよ。」
ウルクが答える。
「ただ、これが自然の現象ではないなら、私たちだけでは解決できない規模の問題かもしれないわね。」
「確かにな。だが、俺たちができることをやるしかない。」
悠は拳を握りしめた。
森を抜け、街道に出た二人はようやく視界に街の門を捉えた。疲労はあったが、達成感がそれを上回っている。
「ここまで来たらもう少しね。」
ウルクが微笑みながら言った。
「そうだな。戻ったらギルドで報告を済ませて、少し休もう。」
悠もそれに応じた。
だが、心の奥底では、遺跡での出来事が何度も頭をよぎっていた。あの壺や秘宝を用意したのは誰なのか。キマイラは本当に偶然生まれたのか。それとも、何者かの意図的なものだったのか――。