3-4
悠とウルクは遺跡の最奥手前まで進んでいた。悠は立ち止まり、光魔法をかけ直す。淡い金色の光が二人を包み込み、暗がりの中でも周囲をはっきりと映し出す。
「準備はいいか?」
悠がウルクに問いかける。
ウルクは小さく頷き、杖を握りしめた。
「ええ。でも……何かがおかしいわ。瘴気の気配が薄くなっている。」
「確かに。」
悠は周囲を見回した。
「あの壺から出ていた瘴気はもう感じられない。部屋の様子も妙に静かだ。」
慎重に足を進めた二人が最奥の間へと入ると、祭壇の中央に鎮座していた秘宝が目に入った。先ほどまで怪しく輝いていた光は失われ、壺の中も空っぽのように見える。
「これ……どういうこと?」
ウルクが眉をひそめた。
悠は秘宝に視線を固定したまま答えた。
「壺の中の瘴気が全部吸い取られたのか……?」
その時だった。突如、部屋全体に低く響く音が鳴り渡り、天井から不気味な音が聞こえてきた。
「悠、上!」
ウルクが叫ぶ。
二人が慌てて飛びのくと、巨大な影が地面に降り立った。ほこりが舞い上がり、その中から現れたのは、異形の姿をした魔物だった。ライオンの体に蛇の尾、そして翼を持つ――それはキマイラと呼ばれる、複数の魔物が融合した存在だった。
「キマイラ……!」
ウルクが声を震わせる。
悠は拳を握りしめ、光魔法を放ちながら言った。
「まさかこれが、壺の瘴気から生み出されたのか……!」
「悠、この相手は……」
ウルクが警戒を強めながら続ける。
「私たちのランクで戦える相手じゃない!」
「分かってる。でも逃げ場もない。」
悠は冷静に言い放ち、構えを取った。
「ここでやるしかない!」
キマイラは咆哮を上げると同時に、獅子の頭から炎を吐き出した。悠は前に出て、光の障壁を展開することでそれを防ぐ。
「ウルク!支援を頼む!」
悠が叫ぶ。
「分かったわ!」
ウルクは詠唱を始め、氷の槍を生成するとキマイラの頭部を狙って放つ。しかし、槍はキマイラの硬い体毛に弾かれ、致命傷にはならなかった。
「防御が固い……!」
ウルクが歯ぎしりする。
「なら、俺が近づいて仕留める!」
悠は地を蹴り、キマイラの懐に飛び込んだ。光魔法を拳にまとわせ、一撃を放つ。キマイラは致死の傷をおい、その場に倒れた。
「やったか?」
悠は気を抜かずに、横たわるキマイラに目を向ける。
その瞬間、キマイラの傷が回復し、再び立ち上がった。そして咆吼とともに悠に向かってくる。
悠はかろうじて回避するが、その速度と力に驚愕する。
「こいつ……強くなっていやがる!」
キマイラの攻撃は続き、二人をじりじりと追い詰めていく。ウルクは回復魔法を唱えながら悠を支援し続けるが、消耗は避けられなかった。
「悠、もう無理よ!撤退を考えましょう!」
ウルクが叫ぶ。
「逃げ場がないって言っただろ!」
悠は息を切らしながら叫ぶ。
「それに、もしここでこいつを放置したら、外の世界がどうなるか分からない!」
その言葉にウルクは一瞬ためらったが、やがて覚悟を決めた。
「分かった。最後まで支援するわ!」
その時、秘宝が微かに明滅し始めた。二人は視線を向けると、秘宝から放たれる光がキマイラに影響を与えていることに気づいた。
「秘宝が……?」
ウルクが驚く。
悠は直感的に理解した。
「あれだ……!あれがこいつの力の源かもしれない!」
「でも、どうやって壊すの?」
ウルクが問いかける。
悠は拳を握りしめ、秘宝に向かって走り出した。
「俺に任せろ!お前はキマイラを引きつけてくれ!」
「分かったわ!」
ウルクはキマイラの注意を引くため、連続して魔法を放ち始めた。
悠は光魔法を全身に纏わせ、渾身の力で拳を秘宝に叩き込んだ。悠の拳が秘宝に触れるや否や、それは砕け散り、部屋全体が眩い光に満たされた。
「やったの……?」
ウルクが呟く。
光が収まると、キマイラの姿も消え去っていた。二人は荒い息をつきながら、その場に膝をついた。
「終わった……か?」
悠が地面に手をつきながら呟く。
「ええ、たぶん。」
ウルクも疲労の中で微笑んだ。
「でも、あなたの無茶ぶりには本当に驚かされるわ。」
悠は苦笑しながらウルクを見つめ、「無茶でも、俺たちならどうにかなると思ったんだよ。」と答えた。