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3-2

 ウルクが目を覚ましたとき、そこは深い闇に包まれた空間だった。周囲には何の形もなく、ただ一面の暗黒だけが広がっている。上下の感覚すら曖昧で、身体がふわりと浮いているような感覚が彼女を包んでいた。


「ここは……どこ?」


呟いた声が空間に響き、やがて霧のように消えていく。


彼女は身を起こし、手探りで何か手がかりを探した。しかし、どこにも何もない。ただ暗闇が果てしなく続いているだけだった。


「悠……あなたはどこ?」


そう呟きながら、自分の体を確認する。疲労感はなく、傷も癒えているようだったが、心の不安は拭えなかった。


その時、不意に闇の中から声が響いた。


「探しているのか?」


ウルクは咄嗟に身構え、杖を構えた。


「誰?」


しかし、その問いに応える者はいない。ただ、声だけが空間を漂う。


「答えを知りたいか?」


声はどこか甘く響きながらも、心の奥底を抉るような冷たさを帯びていた。


「何を言っているの?」


ウルクは声を追うように暗闇の中を見渡した。しかし、何も見えない。


「お前の居場所はどこにある?お前の道はどこへ続く?お前はただ流されているだけではないのか?」


その言葉に、ウルクの胸の奥に眠っていた記憶が不意に引き出される。貴族の家に生まれ、常に「女性らしく」あることを求められた幼少期。自分の意思を押し殺し、家の都合のために生きることを強要された日々。家族の期待に反発し、すべてを投げ捨てて家を出た瞬間――。


「やめて……!」


ウルクは頭を抱え、声を遮ろうとする。だが、その声はさらに追い打ちをかける。


「結局、お前は逃げたのだ。父の支配から逃げ、家を飛び出した。しかし、本当に変わったのか?」


暗闇の中から、再び霧が渦を巻くように動き出した。それはやがて一つの形を成し、鋭い金色の目を持つ黒い豹となって現れた。


「……あなたが声の主?」


ウルクは震える声で問いかけた。


豹はゆっくりと歩み寄りながら、答えることなく彼女を見つめた。その視線には、まるで彼女の心の奥底を見透かしているような冷酷な意図が感じられた。


「お前は誰も守れない。自分すら守れない。父の意志から逃げ、冒険者という気ままな生活に身を投じただけの甘えた存在だ。」


「違う……!私は……!」


ウルクは杖を振り上げるが、手が震えて力が入らない。豹の言葉が心に突き刺さり、反論する言葉が見つからない。


その時、不意に暗闇の中に新たな声が響いた。


「ウルク!」


それは悠の声だった。はっきりとした力強い声が、暗闇の中に響き渡る。


「悠……?」


ウルクは声の方向を探すが、視界には何も映らない。それでも、その声を聞いた瞬間、彼女の心の中に微かな光が灯る。


豹は低く唸り声をあげた。


「あの男がどうしたというのだ?お前は自分の力で立たねばならない。」


「……違う。私は、あの人がいてくれたからここまで来られた。」


ウルクは震える手を抑え、再び杖を握り直す。


「そして、私自身の力で未来を切り開くと決めたの。」


豹の瞳が鋭く光る。


「では証明してみせろ!」


豹が襲いかかってきた瞬間、ウルクの中で何かが弾けた。杖を強く握り、彼女は力強く呪文を唱える。


「私は、もう逃げない!」


彼女の声と共に、杖の先から放たれた光が豹を貫いた。その光は暗闇全体を照らし出し、豹の姿を霧散させた。


「悠……ありがとう……」


ウルクは呟きながら、胸の奥に温かな感覚を覚えた。


暗闇が消え、周囲に光が広がり始めた。ウルクが目を開けると、そこには悠が立っていた。


「ウルク!無事だったか!」悠が駆け寄り、彼女を抱き起こす。


「……ええ、大丈夫。」ウルクは弱々しく微笑んだ。


「あなたが呼んでくれたおかげで、戻って来られたわ。」


悠は安心したように頷き、「よかった」と小さく呟いた。


二人はお互いに顔を見合わせ、静かに微笑みを交わした。その表情には、これまでの苦難を乗り越えた絆が刻まれていた。


「さあ、ここから抜け出そう。俺たちの力で。」


悠が手を差し伸べる。


「ええ、一緒にね。」


ウルクもその手を握り返し、力強く頷いた。

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