2-9
幾度もの戦闘を乗り越え、悠とウルクはついに遺跡の最奥にたどり着いた。広間の中心には怪しく光る秘宝が鎮座しており、周囲の空間を妖しく歪めている。それを取り囲むようにして四つの壺が配置されており、それぞれから黒い霧のような魔力が秘宝へと吸い込まれているのが見て取れた。
「これは……異常ね。」
ウルクが低く呟きながら秘宝に目を凝らす。
「壺が秘宝に魔力を供給している。これが周囲の魔物を引き寄せている原因だわ。」
「つまり、壺をどうにかすればいいってことか。」
悠が拳を握りしめ、慎重に壺へと一歩踏み出す。
ウルクは杖を構えながら頷いた。
「ええ。でも触れる前に何か仕掛けがあるかもしれない。慎重に――」
その言葉が終わる前に、秘宝が激しく明滅を始めた。壺から流れ込む魔力がさらに増幅され、空間全体が震えるような波動に包まれる。
「なんだ!?」
悠が驚きの声を上げる。
突然、遺跡の壁面から次々と黒い影が現れた。それは魔物だった。牙をむき出しにした獣のようなものから、長い触手を持つ異形のものまで、多種多様な魔物が広間を埋め尽くしていく。
「来るぞ、悠!」
ウルクが杖を振り、炎の魔法を放つ。魔物の群れが一瞬で火に包まれ、数体が倒れる。
「こいつら、物量が尋常じゃない!」
悠は魔力を拳に宿し、次々と魔物を殴り飛ばしていく。
二人は息を合わせ、迫り来る魔物の群れを次々と片付けていった。しかし、倒しても倒しても新たな魔物が次々と湧き出てくる。
「これじゃキリがない!」
ウルクが息を切らしながら叫ぶ。
「壺が原因だ!壺をどうにかするしかない!」
悠が短く叫び、秘宝を囲む壺に向かって走り出した。
壺を破壊しようと拳を振り上げた瞬間、より巨大な魔物が現れ、悠を阻む。悠はその魔物をかわしながら、強烈な一撃を叩き込むが、次々と現れる敵の物量に圧され、身動きが鈍くなっていく。
「悠!」
ウルクが援護しようと魔法を放つが、彼女自身も迫りくる魔物に囲まれてしまう。
「くそっ……間に合え!」
悠はウルクのもとへ駆け寄ろうとするが、その間にも彼女の動きが鈍くなり、ついには力尽きて膝をついた。
「ウルク!」
悠が叫びながら彼女のもとへ走る。
ウルクのもとにたどり着いた瞬間、秘宝が激しい光を放った。目を刺すような閃光が広間全体を包み込み、その光に続くように世界が闇に飲まれていった。
「何だ……?」
悠の意識がぐらつき、周囲の音も遠のいていく。
「悠……ごめん……」
ウルクのか細い声が聞こえたが、悠はそれに応えることができなかった。
次の瞬間、悠の視界は完全に暗転し、全身の感覚が消え去った。
悠は深い闇の中で目を覚ました。いや、それが目覚めであるのかすらわからなかった。ただ、自分の意識がまだ存在していることだけは確かだった。
「ここは……どこだ?」
彼の問いに応える声はない。闇の中、微かに見える光が遠くに漂っている。それはどこか懐かしく、同時に未知なるもののようにも感じられた。
「ウルク……」
悠はその名前を呟く。だが、その声もまた虚空に飲み込まれ、何も返ってこなかった。