2-7
ガルフォードとの会話を終え、二人が応接間を後にすると、廊下で執事が二人を待っていた。背筋を伸ばしながらも柔らかい表情で、一歩前に出るとウルクに向かって声をかけた。
「お嬢様、お疲れさまでございます。」
「バルトン……」ウルクはその名を口にすると、どこかほっとしたような表情を浮かべた。
執事のバルトンは、ウルクを幼い頃から見守ってきた人物だ。彼の落ち着いた声は、今も昔も変わらず、彼女の心を支えてくれるものだった。
「今のご様子を拝見する限り、お嬢様は立派に冒険者として成長されておりますね。お父上も心の中では誇らしく思われていることでしょう。」
「そう思えればいいけど……あの人はどうしても、表情に出さないから。」
ウルクは少し肩をすくめて答えた。その横で悠は静かに会話を聞いていたが、彼女の姿に一瞬疑問を抱いた。
「……バルトン、あなたは昔からそうだった。私がどれだけ父と意見が合わなくても、私の側についてくれていた。」
「お嬢様、それは当然のことです。私はお嬢様の信念を尊重し、お嬢様が進みたい道を応援することが、私の務めであると考えておりましたから。」
「……ありがとう。」
ウルクの声は小さく、それでも確かな感謝が込められていた。悠がその場に割り込むようにして口を開いた。
「ウルク、バルトンって人、かなりお前のこと理解してるみたいだな。」
「そうよ。父は私が家を出るとき、ほとんど何も言わなかったけど、バルトンだけは……」
ウルクは過去を思い出すように、少し目を伏せた。そして、静かに語り始めた。
「私が小さい頃、家の都合でやらなきゃいけないことばかり押し付けられてた。父上が厳しかったのは分かるけど、私はそれに反発してばかりだったの。」
「そんな時、執事のバルトンだけが私のやりたいことを応援してくれた。家を出ると決めたときも、最後まで背中を押してくれたのはこの人だったのよ。」
「なるほどな……」
悠は感慨深げに頷いた。
「お嬢様がどの道を選ぼうとも、それが正しいと信じる限り、私はいつでもお嬢様の味方でございます。」バルトンの言葉には、誠実さと深い愛情が込められていた。
ウルクは彼に向かって静かに微笑み、「あなたがいてくれて、本当によかった」と感謝の意を伝えた。
その後、二人は再び屋敷を後にし、ギルドに向かって歩き出した。途中、ウルクはぽつりと呟いた。
「バルトンみたいな人がもっとたくさんいれば、私もあの家に留まることを考えたかもしれない……」
「でも、お前はあの家を出たから今の自分があるんだろ?」
悠が軽く肩を叩きながら言った。その言葉にウルクは一瞬驚いたが、やがて笑みを浮かべた。
「そうね。だから、今の私があるんだもの。」
ウルクは悠の言葉に少し安心したようだった。
「本当にありがとう、悠。一緒にいてくれて。」
「気にするな。俺たちはパーティなんだから当然だ。」
悠は優しく笑い、続けた。
「今回の依頼、絶対に成功させよう。」
ウルクは深く頷き、力強い笑みを浮かべた。
「もちろんよ。」
二人は、冒険者ギルドへ向かい指名依頼を受注する旨を伝えた。