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ある日、いつものように二人が冒険者ギルドで依頼を物色しようとしていたところ、ギルド受付嬢から声をかけられた。ランク3にも関わらず、悠とウルクのパーティに指名が入っているという。
「父上からの指名依頼?」ウルクは、怪訝そうな顔で言葉を発した。
「そうか、辺境伯領主ということはウルクの父親か。」
「ええ。」
「ウルク、どうする?この依頼は無理に受ける必要はないが。」
悠はウルクの表情を見ながら静かに言葉を続けた。ギルドの喧騒の中、彼女の沈黙はひときわ重く感じられる。
「……考えさせて。」
ウルクは視線を落とし、小さくため息をついた。
ギルド受付嬢が言葉を挟む。
「辺境伯領主様からの依頼内容は南の遺跡調査です。ただ、危険な魔力反応が確認されているそうなので、慎重に考えてください。」
「危険な魔力反応……。」ウルクが繰り返すように呟く。
悠は腕を組みながら言った。
「お前が決めろ、ウルク。俺はどちらでも構わない。無理する必要はないからな。」
ウルクはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げた。
「父上が何を考えているのか、確認してみたいわ。とりあえず話を聞いてみましょう。」
悠とウルクは、辺境伯からの指名依頼を受け、案内された邸宅に足を踏み入れた。豪奢な装飾が施された大広間に通されると、椅子に腰掛けた壮年の男性が二人を待ち構えていた。冷静で威厳ある佇まいのその人物――ウルクの父、辺境伯ガルフォードだった。
「久しぶりだな、ウルク。」
ガルフォードが静かに言葉を発する。
「お久しぶりです、父上。」
ウルクは一歩前に出て、礼儀正しく頭を下げた。しかし、その表情には微かに緊張が見える。
悠はそのやり取りを見守りながら、ウルクの家庭の事情を初めて垣間見たような気がした。
「さて、本題に入ろう。」
ガルフォードは直立した姿勢で話を続けた。
「今回、君たちに遺跡の調査を依頼したのは、特異な魔力反応がその周辺で観測されているからだ。南にあるセリアの遺跡、覚えているか?」
「セリアの遺跡……はい、確か魔術の研究施設だった場所ですね。」
ウルクが記憶を辿るように答える。
「その通りだ。しかし最近になって、遺跡から魔力が漏れ出している。それだけならまだしも、周辺の村で魔物の出没が相次ぎ、住民が不安を抱えている。調査し、必要であれば原因を排除してほしい。」
悠は真剣な表情で尋ねた。
「それほどの問題なら、もっと高ランクの冒険者に依頼するべきでは?」
ガルフォードは悠を見据えながら、わずかに微笑んだ。
「それも考えた。だが、君たちがゴブリンの巣を殲滅した報告を読んだ時、これは試してみる価値があると感じたのだ。二人の実績と連携能力なら、この遺跡の調査も十分にこなせるだろう。」
「つまり、私たちが信用されていると?」
ウルクが確認するように言う。
「そうだ。特にお前には、自分の力を示す機会になるだろう。」
ガルフォードの視線には、厳しさの中にどこか親心のようなものが宿っていた。
ガルフォードの言葉に応じて、ウルクは静かに頷いた。しかし、その表情には複雑な感情が浮かんでいた。