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2-1

 シアの家を後にし、悠は南西の森を抜けて3日間歩き続けた。森の中では夜になると魔物の気配を感じることもあり、気を抜くことは許されなかった。しかし、悠はこれまでの訓練を生かし、順調に道を進んでいった。


やがて森を抜け、目の前に広がった街道に足を踏み入れると、悠は思わず立ち止まった。遠くに見える小さな街の輪郭。石造りの壁に囲まれたその街は、シアから聞かされていた「ラスティア」という名の街に違いなかった。


「ようやく着いたか。」

 

悠は額の汗を拭いながら、再び歩き始めた。街道沿いを西に向かうと、次第にラスティアの門が近づいてくる。街に入るためには税を支払わなければならないことを思い出し、シアから渡された路銀を手に取った。


門の前には数人の衛兵が立ち、入城を求める人々を一人ずつ確認している。悠が列に並ぶと、次の瞬間、衛兵の一人が声をかけてきた。


「おい、そこの兄ちゃん。ここに何の用だ?」


その声には、警戒心とわずかな好奇心が混じっている。


「旅の途中で立ち寄っただけだ。街で冒険者登録をしたい。」


悠は落ち着いた声で答えながら、手持ちから銅貨5枚を差し出した。


衛兵はそれを確認すると、


「ならば問題ない。中へ入れ。」


と言い、門を開けた。悠は礼を言って街の中へ足を踏み入れた。


 ラスティアの街は、辺境とはいえ活気があった。行き交う人々の中には冒険者と思われる武装した者も多く、悠は自分が異世界にいることを改めて実感した。


「まずは宿だな。」

 

歩きながらあたりを見渡し、比較的大きな看板を掲げた宿屋を見つけた。中に入ると、女将らしき中年の女性が出迎えてくれた。


「一泊かい?」


女将が声をかける。


「ああ、そうだ。部屋を頼む。」


悠は再び路銀を取り出し、宿代を支払った。


案内された部屋は簡素ながら清潔で、旅の疲れを癒すには十分だった。リュックを置き、まずは汗を流すために浴場へ向かう。温かい水が全身を包むと、体の隅々まで緊張がほぐれるのを感じた。


「ふう……これでひとまず落ち着ける。」


悠は浴場を後にし、部屋でしばらく休息を取った。だが、街に来た目的を思い出すと、じっとしているわけにはいかなかった。


「冒険者になるには、どこに行けばいいんだ?」


悠は宿の受付で女将に尋ねた。


「それならギルドへ行くといい。街の中央広場の近くにある建物だよ。」


女将は笑顔で答えた。


「登録が済めば、仕事もすぐに見つかるだろうね。」


悠は礼を伝え、さっそくギルドへ向かうことにした。街の中心部に近づくと、冒険者たちが頻繁に行き交う広場が見えてきた。その中でひときわ目立つ石造りの大きな建物――それが冒険者ギルドだった。


重厚な木製の扉を押し開けると、中には賑やかな声が響いていた。装備を整えた冒険者たちがテーブルを囲み、酒を飲みながら話し込んでいる。一方で、カウンターには登録を求める新米冒険者らしき者たちが列を作っていた。


悠もその列に加わり、自分の順番を待った。


「次の方。」


カウンターの奥から、受付嬢の明るい声が聞こえた。悠は前に進み、彼女に挨拶をした。


「冒険者として登録したい。」


悠は短く伝えた。


受付嬢は微笑みながら、必要な書類を取り出した。


「では、こちらにお名前と簡単な経歴を書いてください。それから、登録料として銀貨1枚が必要です。」


悠は指示に従い、名前を書き込んだ。経歴の欄には特に詳しいことを書く必要はなく、「森で訓練を受けていた」とだけ記した。登録料を支払い、手続きが完了すると、彼の名前が冒険者名簿に刻まれた。


「これであなたも正式な冒険者です。」


冒険者としての登録が終わり、悠は受付の女性から小さな金属製のプレートを手渡された。

それは自分が正式に冒険者となった証だった。表面には「ランク1」と刻まれており、彼の胸にほんの少しの期待と不安を芽生えさせた。


「これが冒険者のランクプレートです。これを持っていれば、どのギルドでもあなたの身分を確認できます。」


女性は笑顔を浮かべながら説明を続けた。


「ランクは1から始まり、最高は10。現在、世界でランク10に達している冒険者は5人しかいないわ。」


「5人だけ?」


悠は驚いた表情を見せた。


「そんなに少ないのか。」


「それだけランク10は特別なの。」


女性は頷いた。


「達成には膨大な時間と実力が必要だし、命を懸ける覚悟もいるわね。だけど、ランクが上がるごとに受けられる依頼の幅も広がるし、報酬も増えるわ。まずは焦らず、ランクを上げることを目指して。」


悠はプレートを手の中で回しながら考えた。異世界の冒険者として新たな一歩を踏み出したばかりの自分にとって、ランク10の話は果てしなく遠いように思えた。


「この街には多くの冒険者が集まるのは、辺境の森が理由なのよ。」


女性がさらに説明を続けた。


「元々この街、ラスティアは辺境の森を監視するために作られたの。森には多くの魔獣や魔物がいて、定期的に討伐や探索の依頼が発生するわ。」


「なるほど……それで冒険者が多いのか。」


悠は頷いた。確かに、先ほど目にしたギルド内の活気はその説明に合致している。


「ええ。だから、あなたのような新人冒険者にも比較的取り組みやすい依頼がたくさんあるわ。」


女性は掲示板を指差しながら言った。


「あそこに張り出されている依頼から好きなものを選んでいいの。ただ、自身のランクの一つ上までしか受注できないから気をつけて。」


受付嬢の言葉に頷いた悠は、掲示板の前で立ち止まりしばらく眺めていたが、今日はこれ以上動くのはやめようと決めた。旅の疲れもまだ抜けきらないし、冒険者としての第一歩を踏み出す前に万全の状態にしておきたいと思ったからだ。


「まずは休もう。」

 

自分に言い聞かせるように呟き、ギルドを後にした。

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