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20 情報のすり合わせ

数日後、山の麓のおばば様の家で会議が開かれた。


 参加者はいつもの面々に加えて、魔塔からはフラメルとマーリン。そしてどうしてだか魔王ルシファーが席についていた。


「……魔王……様が本当にいらっしゃるとは……」


 マーリンが驚きながらも恐々と礼をとる。相手は魔界の王だ。

 見た目は青年、下手をすれば少年ともいえる姿である。闇夜のような漆黒の黒髪に黒曜石で出来ているかのような角。鮮血を連想させる紅の瞳……書庫に眠っている過去の書にある記載通りの姿であった。


(……フラメル様だけでも大変だというのに、エヴィ嬢たちと関わると信じられないようなことが矢継ぎ早にやって来るな……)


 マーリンは目をショボショボさせながらため息を呑み込んだ。


 魔塔の記録に、確かに過去魔族との関りや戦いのことや、その後の断絶について記載はある。しかしこの数百年魔王に会うどころか、大っぴらに魔族に遭遇することもないのだ。


 極々普通の人間としての生を営んでいるマーリンにとっては、寝耳に水、それでもって青天の霹靂である。


「九尾の狐や魔人だけでも充分おかしいのに、魔王とかありえないだろ」


 フラメルが眉を顰めながらルシファーを見遣る。

 ついでにいつもの通りにこにこ・ニヤニヤしているハクも睨んでおく。


 因みに今日のフラメルは安定のお爺さんの姿だ。


(……おばば様の周囲は、本当におかしいだろう!)


 人間と同じくらい魔物や聖獣・神獣の類がいるってどういうことなのかと思う。


「協力するために来たのだ。人間に危害を加えるつもりはないので安心しろ」

「当たり前だよ!」


 フラメルが食い気味に文句を言った。


「話が進まないよ! 順番に知っていることを報告しな!」


 おばば様が嫌そうに顔を歪めて声を荒げる。

 まずはマーリンが薬品について説明を始めた。


「まず瘦身茶ですが、ごく普通に販売されている普通のお茶でした。それに緩下剤かんげざいを混ぜたもの、利尿効果や代謝を高めるもの、糖分や資質の吸収を緩やかにする効果がある薬草などを状況に応じて処方していたようです」


 老廃物を出せば一時的に痩せはする。

 特殊な病気でない限り、代謝を高め太る原因物質を減らしてやれば痩せる筈だが、それ以上に食べてしまえば痩せないであろう。


「次いで育毛剤ですが、珍しい薬草が使われているようで、育毛・発毛効果が認められますが、一定量を超えると今度は抜けてしまうというものでした」


「多分幾つかの薬草を組み合わせ、更に魔法で干渉した魔法薬なのだろう」


 毛むくじゃらな魔族が脱毛するために使う薬に、似たようなものがあるのだという。


「毛むくじゃらな所に塗って脱毛して、毛が必要な時はツルツルになった所に塗って生やすというわけですね!」

「そうだ」


 凄い! とエヴィが感心する。……が、ルシファーをはじめ全員が微妙な顔である。


「じゃあ、魔族が関わっている可能性が高いと?」

「多分」


 マーリンにルシファーが頷いた。


「基本的に魔族は魔界で暮らしているが、極一部人間に迷惑をかけないという誓いのもと、人間界で暮らしている魔族もいる。……後は、行方不明になったと見せかけて脱走した魔族がいるやもしれぬ」


 厳しい顔のルシファーに、おばば様が目配せをするように小さく頷いた。

 続いてフラメルが口を開く。


「護符については近隣国でも過去に同じような被害があったよ。占いで色々言い当てて信用させ、全く効かない護符を高額で売りつけていた。数種類みつかったんだけど、そのうちのひとつと合致したよ」


 そう言って今回手に入れた護符と、よく似た別の護符をテーブルの上に置く。


「常習犯ってわけか」


 魔人が呟くように言うと、フラメルが続けた。


「過去、大陸の西側方面で同じような事件が起こっていたらしい」

「それで西の奴が聞いたことがあるって言ってたんだねぇ」


 おばば様が納得したように頷く。


 ここでマンドラゴラの葉っぱから飛び立ったタマムシがゆっくりと旋回してからテーブルの上に立った。


『…………ぁぁぁ!』


 やっと退いたタマムシに、大人しく話を聞いていたマンドラゴラが頭を振りながら、小さく安堵の声をあげる。


『先日ユニコーントフェンリルニ協力シテ貰イ、潜伏シタトコロ、近々東ヘ移動スル予定トノコトダッタワ』


 魔力の少なくなった悪魔をユニコーンが変身させ、フェンリルが虫の姿ではどれ程時間がかかるか解らないため、背に載せ走ったのである。

 神獣であるフェンリルは魔力を辿ることが出来るそうで、護符や育毛剤に残る微かな魔力を辿って大体の場所が特定できそうだと運搬役を買って出たのだ。本当の姿でフルパワーで走れば、青い風と見紛うばかりなのだ。


 より魔力のはっきりした薬師の方を先に見つけ、小さな羽虫の姿で近付いてはアジトまでくっついて話を聞いて来たのである。


「占い師は人で、魔力があるばかりに家庭が壊れて現在に至るみたいだね。薬師はワーラットみたいだよ。こっちは魔力が弱くてあぶれていたみたいだね」

「前に行方不明となったワーラットか」


 ハクの言葉にすぐに思い当たったのか、ルシファーが苦い顔をした。

 かつて探したが見つからなかったと報告があったワーラットの子どもだ。


 ……獣に襲われたような跡があったということで、捕食されてしまったのではないかということだったが、多分他の動物が襲われたものだったか偽装したものだったのであろう。


「魔塔の奴らが聞き込みにまわっていたから、自分達を嗅ぎまわっていることに気づいたんだろう。なるべく早く捕まえないとだな」


 フラメルがそう言いながら全員の顔を見回す。


「捕まえるのはまあ、どうにでもなるけど……落としどころをどうするかだね」


 おばば様の言葉にマーリンが口をキュッと窄めた。


「……穏便に、いや、大人しくお願いしますよ……関係ない民まで巻き込まないでください……?」

「解っているよ。……何だい、疑わしい目をして」


 エヴィはふたりのやり取りを聞きながらも、何かを考えるようにして一点を見つめていた。

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