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17 調査

 話は正式に魔塔の面々にも伝えられた。


「それは許せませんな!」

「実に不届き千万!」

「ギルティですぞっ!」


 憤慨気味に話す魔法使いたちの頭上は見るまでもなく、マーリンはフラメルが持ち込んだ育毛剤と不完全な魔法陣を交互に見た。


 魔塔もまた世俗から隔絶されているといえるが、一体どこから情報を掴んで来たのか。


 一応大陸の南の方に住居を構えてはいるが、他の大魔法使いとは違い、殆ど魔塔内で寝泊まりしているといっても過言ではないのに。……魔塔に持ち込まれた問い合わせと言っているようだが、勿論マーリンの耳には届いていない。


(街で小耳に挟んだのか、知人の魔法使いにでも聞いたのか……)


 やれやれと思えばいいのか、勝手に乗り込まないことを良かったと思うべきなのか。はたまた無事でよかったというべきところなのか、非常に迷うところだ。


「フラメル様、いきなりひとりで聞き込みをされるなど……」


 心配そうに大魔法使いの顔を見る。

 フラメルは困った顔のマーリンを見て片眉を上げる。


「……年寄りの冷や水だって?」

「そうは申しませんが。過信せず万が一に備えたほうがよろしいですよ」


 老化が遅れるということは、体力もそれに比例しているということだ。本来は若者の身体を持つフラメルは、実年齢は年下である中年のマーリンよりも本来ずっと若いのだ。


「万が一の時には魔法でぶっ飛ばすよ」

「いや、それが心配なんですよ……?」


 規格外が過ぎるおばば様と比べると大人し目なだけであって、一般的な魔法使いの中にあったらフラメルも充分規格外である。


(街中で魔術を際限なく使われたら大変なのだが……) 


 一般人に怪我があってはならないのである。使う術によってはパニックかつ大惨事である。

 解っていないなどとは思いたくはないが、その可能性も捨てきれないので充分注意しておくべきだろう。


「とにかく、既に被害者が出ている。詳しい内容を調査する必要があるよ」


 それに否はない。魔法・魔術に関した事件や事故を調査・解決し、新たな被害が起こらないようにするのも魔塔の使命の一つである。


「占い師と薬師、そして薬とお茶の分析を手分けして致しましょう」


 マーリンはそう言って指示を出し始めた。


******


「こっちではそんな話は聞かないねぇ」


 北の大魔法使いが鏡の中で首を傾げた。


「他の奴らはどうなの?」

「西の奴が風の噂で聞いたことがあるくらいだね」


 西と東の大魔法使い見習いにも確認したが、かんばしい答えは返ってこなかった。


「やっぱり、魔法使い崩れ・薬師崩れ?」


 知識があることをよいことに、それを悪用して騙す人々もいるのだという。


「まあ、一端ならば悪事を働かずとも生きて行けるだろうからねぇ」

「しかし、奴らは何で禿げてるって解ったんだろう」


 北の大魔法使いがおばば様に訊ねる。


「瘦身茶が必要な人間はともかく、ハゲは見て解る人間ばかりじゃないだろう? カツラや帽子で隠したりさ……」

『ニオイダワヨ』


 話を聞いていたタマムシがおばば様の周りをブンブン飛びながら言う。


『ハゲ薬ニハ独特ノニオイガスルモノガアル。鼻ガイイ奴ニハスグワカル』

「確かにねぇ……って、何だいそれ」


 鏡の向こう側で飛んで話すおかしなタマムシを、北の大魔法使いが目で追う。


 遂にユニコーンやフェンリルだけでなく虫まで飼い始めたのかと呆れていると、空気を察したおばば様が否定をした。


「元悪魔だよ。やらかして魔王に姿を変えられてるけどね」

『テヘッ♡』

「誰も褒めちゃいないよ?」


 おばば様が嫌そうに言う。言いながらなるほどと思う。


(匂いか……ついつい薬草に塗れて暮らしているから見落としていたが、そうだね……)


 ある意味基本中の基本。おばば様も診察の時は匂いを頼りに患者の状況を把握することがある。

 飲み合わせない方がいい薬草も当然ある訳で、自分のところの常連客なら把握できているので問題ないが、飛び込みの患者であれば知る筈などないからだ。

 聞いても何に効く薬かしか解らない者も多く、診察中に注意深く確認する項目の一つだ。


「悪事は悪党に聞くと、アタシ達では解らないことも解るかもね」

「確かにね」


 おばば様は得意気に胸を張っているタマムシを横目で見た。


「潜伏場所なんかも解るかい」

『ウーン? 大体ノ出没場所トカ、チョット潜伏シ易イ場所ガ解ル地図ガアレバ多分?』


 右前脚を頬(?)につけ、近所のおばさんさながらの話し方をするタマムシな悪魔を、北の大魔法使いとおばば様が何とも言えない表情で見ていた。

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