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09 トレントとマンドラゴラ

お休みをいただきましてありがとうございました!

『ぅ”ぁぁぁぁぁ~~~~っ!!!!』


 魔界の結界を抜け狭間の森に入ると、外はすっかり暗くなっていた。

 エヴィ達の足元を照らすかのように光るキノコがボンヤリと灯をともしている。


 何やら小さく叫びながら歩くマンドラゴラを、気遣わし気に見下ろしては声をかけた。


「……マンドラゴラさん、大丈夫ですか?」

『ゥアァァァ!』

『♪』


 タマムシ――になった元悪魔であるが、丁度良いとばかりにマンドラゴラの葉に止まっているのだ。気持ち悪いのか怖いのか、マンドラゴラは涙目で頭を振っている。


 可哀想なので何度か取って空に放つものの、すぐにマンドラゴラの葉に戻ってしまうのだ。


「居心地がいいのでしょうか? だぜい?」


 嫌がっているのは可哀想であるが、なんとも可愛らしい様子に苦笑いが洩れてしまうのは仕方がないであろう。


 そんなところにトコトコと小さな子どものような木がやってきた。

 トレントの幼体だ。


 エヴィの前で止まると、ペコリと頭を下げる。

 エヴィも同じように頭を下げた後に膝をつき、出来るだけ視線を近くした。


「こんばんは。お出迎えありがとうございます」

 トレントは何度もペコペコと頭を下げる。


 エヴィが魔界へ行き来するようになる少し前のこと。

 魔王であるルシファーからエヴィが迷うことがないように、くれぐれもと言い含められているのだ。 


 以降狭間の森の面々は、いつだって律儀にエヴィを丁重に見守りもてなしている。

 更に心優しいエヴィのことを気に入っており、最近はルシファーの言いつけがなくても森に近づいた折には積極的に見守っているのだ。


 トレントの幼体は、自分と似たマンドラゴラを不思議そうに見遣る。

 が、髪……のように見える葉に止まっているタマムシを嫌がっていると察すると、近くにあった木切れを拾いタマムシを連打した。


『……イデデデ! イテッ! ヤメテクレヨ~……』


 何度も叩かれて我慢できなかったタマムシは、ホバリングしながらおばば様と魔人を見る。……が、見るからに凶悪そうな顔なので止まるのをやめる。


 次いでハクを見れば、ニコニコしてタマムシの様子を眺めているが……これまた別の意味でヤバそうなのでやめた。


 かつては高位魔族であった元悪魔であるが、現在はしがないタマムシでしかないのである。

 自らが招いたこととは言え、何とも哀しい話だ。


 目の前で真顔でトレントとタマムシの攻防を見ていた青い髪の子ども(フェンリル)の肩にとまれば、むんずと容赦なく掴んではベシャッ! と叩きつけられる。


『ギャッ!?』


(ミンナヒドイ……)


 くすん。ちょっと涙ぐみながらもヨロヨロと飛び立つと、仕方なくユニコーンの背中に止まることにしたのである。


「ブヒヒン!?」


(ふーっ! これで何とか)


 ユニコーンは嫌がるが背中に手が届かず、どうにもできない。

 バタバタと二足歩行で立ち上がって懸命に背中を触ろうと前脚を後ろへ伸ばすが、虚しく蹄が空を彷徨うばかりであった。


「ブヒーーーーンッ!!」


 そんなユニコーンを無視して、マンドラゴラとトレントはお互いペコペコと挨拶をしている。そして手を繋いで歩き出した。

 楽しそうに見えるのは何故だろうか。


「まあ。すっかりお友達ですね」

 可愛いらしさにほっこりする。


 心なしか可愛いもの好きなおばば様がソワソワしているのは気のせいなのか。うずうずと両手を動かすおばば様を、魔人とハクとフェンリルが横目だったりニコニコだったり、凝視だったりで見ていた。


「良かったですね」


 エヴィがトレントとマンドラゴラに言うと、頷き、二体は再び嬉しそうに手を繋ぎスキップしている。


 しばし様子を眺めていると、子ギツネが草むらから顔を出す。

 

「おや。こんな時間にお散歩かい? こっちにおいで」


 ハクに手招きされ、おずおずしながら子ギツネもやって来る。

 勢揃いしている山小屋の面々や手を繋いでいる動く植物、そして何やらバタつくユニコーンを見ては、不思議そうに小首を傾げた。


 ユニコーンは未だ嫌そうに、届かない背中を懸命に掻いていた。

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