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06 魔法陣

 離れた場所から一気に悪魔が襲い掛かる。


「…………!」

 エヴィは息を詰めた。


 万華鏡の美しい模様のようだという意味なのか、それとも模様を成す沢山のガラス片のようだという意味なのか。

 沢山の悪魔が覆いかぶさろうとする瞬間、ルシファーが右手を挙げると、悪魔たちが一斉に吹き飛んだ。


「……っぐ!」


 アリーナに叩きつけられる寸前、多くの悪魔が消えひとりとなり、辛うじて回転しては勢いを殺して床に膝をつける。


 勢いはすぐには止まらず、歯を噛み締め、数メートルほど後ろに滑りながら手を付く。


 一方のルシファーは、そのまま上げた右手のひらを開くと、大きな魔法陣が広がった。

 キラキラと七色に光る魔法陣は、細やかな紋様が高速で回転している。


「体術で相手してやっても構わんが、捻り潰してしまうかもしれないからな」

「…………」


 ルシファーは右手を左右に動かすと、頭上高く浮かぶ魔法陣から雷が飛び出して行く。


矢のように勢いよく飛んで行く雷は、大きな音をたてながら悪魔のすぐ近くに刺さり、飛び避ける悪魔を追いかけるかのようにアリーナの床に穴を開けて行く。


 悪魔は攻撃を避けながら、やはり魔法陣を出現させると頭上に大きく展開させた。

 悪魔の魔法陣は黒く光りながら、黒いもやを纏い高速回転している。


 闘技場は大きな歓声やため息など、その時々に波のように感情と音と声が揺れて。

 エヴィも詰めていた息を細く吐いては、目に入った疑問を口にした。


「……魔法陣の色が違う……?」


 魔塔で見る魔法陣はその魔法の属性に因んだ色合いが多い。

 水魔法なら水色。火魔法なら赤といったような。幾つかの色合いが混じることもあるし、一番割合の多い魔法の色が強く表れることもある。


「あんなに綺麗な虹色の魔法陣は初めて見ました! やはり使う魔法によって違うのですか?」


 それとも。

 悪魔の魔法陣も見たことがないほどに見事な(?)漆黒だ。人間に比べ強大な魔力を持つ存在であることから、もしかしたら自分の属性が強く色として出るのだろうかと首を傾げた。


 こんな状況でもそこに目が行くのだなと、おばば様と魔人は思う。


「彼等は自分の属性の色合いが出るよ。どんな魔法もある程度自らの魔力で起こすことが出来るからね」


 やはり。考えた通りらしい。ハクの説明になるほどと納得する。


「『魔』というから闇属性が強いのかと思ったのですが、魔王様は違うのですね」


 ある意味イメージ通りの色合いである悪魔の魔法陣に比べ、ルシファーの魔法陣は神々しさすら感じるほどの光を放っている。ある意味意外な色であった。


「魔王・ルシファーは元々天界出身だからね」

「え? ……魔王様は天界の方なんですか?」


 ハクは頷く。


「以前に魔族がいろいろやらかしてね。魔族と神族が戦争になると洒落にならないから、調停役に来て、ついでに魔界を治めることになったらしいよ?」


「……そうなんですか?」


(……()()()?)


 いろいろやらかしてが、本当にいろいろやらかしてしまっている気がしてならない。

 更に洒落にならないが本当に洒落にならなそうで、エヴィは聞くのが憚られた。


(それに調停役として来たのに、どうして魔王になって魔界を治めているのかしら……)


 状況が理解できない。

 しかしただの人間でしかない自分には過ぎたことだと、エヴィは掘り下げないことにした。


 目の前では未だ激しい戦いが続いている。


 巻き上がった風と共に舞い上がる礫を避けるような観客席の姿も見えるため、外は風や衝撃が強く渦巻いているのだろう。


 ルシファーが強いのは本当のことだった。

 あっという間にボロボロになった悪魔に比べ、ルシファーは息ひとつ乱れてはいない。簡素な執務服も破れも綻びもないどころか、ほんの土汚れすらない状態であった。


「どうする? 降参し、罪を受け入れるか?」

「降参なんかしないんだから!」


 悪魔は肩で息をしながら息を巻く。


「……そうか、残念だ」


 そろそろ頃合いであろう。そう思いルシファーは魔力を増幅させる。

 ルシファーはサラサラと聞き取れない不思議な言葉で詠唱をすると、頭上の魔法陣が一層光を放った。


 そして、黒かったルシファーの髪が金色に色を変え、血のように赤かった瞳は、深い海のように青色に変化していった。


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