04 魔王城再び・前編
『皆様、ご無事にございますか?』
念話が送られてくる。
そして大きな翼のハゲワシが勢いよく魔王城の方向から飛んで来るのが確認できる。
「執事だね――『無事だよ』」
おばば様が呟いた。
「羽根が生えているのですね」
「あれが本来の姿なんだよ」
魔王ルシファーと懇意であるハクが答えた。
よく魔王城に遊びに行っているので、必然的に魔王城の使用人にも詳しいのであろう。
すぐさま一行の前に到着すると、魔王の執事は静かに降り立つと、瞬時にいつもの姿に変化した。
「ああ、ようございました! 城から光柱が見えましたもので心配いたしました」
ホッとしたように息を吐く。
「魔王様も大層心配しておられました。宜しければ城へ転送させていただきますが」
「それよりもアイツを送った方がいいんじゃないのか? ルシファー様♡のファンらしいぜ?」
魔人が気絶したままで放置されている人物を指差す。
ハゲワシの執事は差された人物を見て一瞬眉をひそめるが、頷いた。
「そういたします」
指を鳴らすと、沢山のハゲワシが飛んでくるのが見える。
それを確認すると、縄で悪魔をぐるぐる巻きにしては到着したハゲワシに何やら指示をした。そして縄を鋭い脚で掴むと、あっという間に遠くへと飛び連れ去られていく。
「それでは参りましょう」
「…………」
執事は非常にいい笑顔でそう言う。
全員が連れていかれた悪魔の小さくなった姿と、ハゲワシの執事を見比べた。
******
「無事だったか」
魔王城へ移動すると、大広間ではなく執務室に通された。大人数で執務室にお邪魔することを心配したエヴィであったが、想像よりも大きな部屋であったためにすぐさま安心をした。
一方全員無傷と聞き、無愛想ながらホッとしたような表情でルシファーが頷く。
「光柱が立ったので術が発動したと思ったが」
「ルシファー様♡の信奉者が、エヴィに因縁つけた上に攻撃してきたんだぜ?」
魔人が大変大雑把な説明をする。
おかしな呼ばれ方に内心で首を傾げつつも、謝罪が先と姿勢を正す。
「済まなかった……魔界でのエヴィへの理解から攻撃をするような輩はいないと思ったが甘かったようだな。怖い思いをさせて済まなかった」
ルシファーは凛々しい眉をハの字に下げると、何度も詫びながら、エヴィに向かって頭を下げた。
エヴィはギョッとして、首と両手を勢いよく何度も横に振る。
「いえ! 怖いも何も、一瞬にしてオカマさんがいなくなってしまったので……」
「オカマ……?」
エヴィの説明を聞いて、ルシファーは顔を曇らせる。
「オカマの悪魔だよ。お前さんに横恋慕してる(?)」
「……ああ……」
おばば様の言葉に一層顔を曇らせた。ゲンナリという方がより近いであろう。
「魔族同士の戦いは認められているが、魔力を持たない人間へのむやみな攻撃は禁止している。奴には後ほど処罰を与える。……念のために防御魔術をかけておいて良かった」
ルシファーの言葉を聞き、エヴィを除く全員が微妙な表情をした。
「防御魔術って……ありゃあ過剰防御だろう」
「一体、何と戦うことを想定してんだ?」
「ブヒヒヒン!」
おばば様と魔人の言葉に、ユニコーンが重々しく頷いた。
『可愛さ余ってだぞ。其方も気を付けた方が良いであろう』
「何だかままならないねぇ」
一体幾つなんだと言いたいフェンリルに、同情めいた顔と声で踊り子が続ける。
たまたま一緒にいた踊り子も、一緒に魔王城へ運ばれて来たのであった。
『……ウァァァ、グァ……!』
マンドラゴラがおどおどしながらも何かを訴えている。
「過剰に何重にも守りを固めちゃうくらい、心配だったんだよね?」
悪戯っぽいハクの言葉に、魔王は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「魔王様のおかげで無傷でした。ありがとうございます」
通行証って凄いなぁと素直に考えているエヴィが改めて礼を言う。
魔王ルシファーは困ったような顔をしつつも、変わらないエヴィを見ては、安心したように優しく微笑んだ。




