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03 不思議な悪魔

大変お待たせをいたしまして申し訳ございませんでした!


「ちょっと。エヴィってアンタなの?」


 そんなこんなでまったりと再会を喜び合ってた一行であるが、後ろから野太い声が投げかけられる。

 ……声の雰囲気からは友好的な様子は感じられず、エヴィ以外の全員が剣呑な表情で声の主に視線をくれた。


 悪魔だ。

 魔族の中でも高位種族である悪魔は見た目が整っているものが多い。


 目の前の悪魔もそれなりに整っており……

 いやにはだけた胸元からは立派に鍛え上げられた大胸筋が覗いている。

 そこまでは普通(?)なのだが、はだけた胸元にある洋服がやけに女性的なシロモノであった。


「…………?」


 そしてサラッサラのロングヘアを風にたなびかせている。

 長い髪の男はいるが、煌びやかなヘッドドレスをつけている輩は見たことがない。尖った耳には派手なイヤリングが飾られており、腕には幾重にもはめられたバングルが、しゃなりしゃなりと音をたてていて。


 バッチリ塗られ描かれた化粧は随分派手な印象を与える。

 真っ赤な唇を皮肉気に曲げては、少し離れた場所で腕を組みエヴィをねめつけていた。


「アンタがルシファー様♡を誑かした女ね」

(『ルシファー様♡』……)


 そう言って指をさされるが、綺麗に飾りつけられた長い爪を見て、それぞれが好き勝手に感想を述べる。


「うわ~! 凄いですね」


 元の立場上爪の先まで整えられた人を見たことはあるエヴィだが、こんなに長く整えられた爪を見るのは初めてだ。いったいどうやって整えられているのか興味津々である。


「リンゴ喰う時に便利そうだな」

「花だけでなく小さい人形までついているよ!」

『……ぅぁぁぁ……!?』

「ブヒヒン!」


 自分の蹄と悪魔の爪を見比べるユニコーンに、心配したフェンリルが苦言を呈す。


『ユニコーンよ、あまり近くによると目を刺されるぞ」

「何だか生活し辛そうだねぇ」

「悪魔は性別がなかったのだっけ?」


 ハクの問いかけに魔人が太い眉を寄せた。肩越しに、親指でもって悪魔を指差す。


「いや、あんだろ? こいつがオカマなだけだろ?」

「オカマって言うんじゃないわよぉ!!」


 女装した悪魔がエヴィに投げつけるべく、魔力を練ったのだろう大きな球体を手で増幅させながら振りかぶった。


「言ったのはエヴィじゃなくて俺だろうが!」


 一瞬全員がエヴィを庇おうとしたが、『通行証』の存在を思い出しては周囲への防護壁を張ることに切り替える。


 露店の店員たちや様子を見ていた魔族たちが、巻き添えは堪らんとばかりに急いで離れて行く。

 一瞬にしてわちゃわちゃとカオス状態ではあるが、それそこは力比べや○○争いなど、普段から喧嘩や戦闘などが突如始まるのはよくあること。

 魔族たちはそそくさと安全を確保できる場所へと足早に退避していた。


(魔王がどの程度の守りを込めてるのか、ここらで確認しておくのもありだね)


 おばば様はエヴィの胸元に揺れる、魔王曰くの『通行証』を見た。

 人間であるエヴィが安全に魔界で過ごせるように、多種多様な魔法がかけられているそれ。もちろん防御魔法も守護魔法も、これでもかというレベルでかけられている。


 他の者も同じなのだろう。サラサラとした詠唱を各々唱えながら、自分の周囲にバリヤーを作り出した。


「壁よこいこい、餡! ポン! 端!」


 おばば様が早口で詠唱すると、一般(?)の魔族の周りに防護壁が張られる。

 ほぼ同時に踊り子が腕をクロスさせ、指をパチンと鳴らした。


「因縁・怨念・サイでんねん!」


 おばば様とは反対側に、やはり防護壁を張る。


「人間の分際でルシファー様♡に言い寄るなんて、ふざけるんじゃないわよーーーーっ!!」

 

 悪魔はそう怒鳴ると同時に、両手で抱えられない程に成長した魔力の塊を投げ飛ばした。


「いつ言い寄った!?」


 完全な貰い事故である。

 魔王に(多分)惚れているオカマの魔族が因縁をつけて来るわけだが、当事者(?)の筈のエヴィには状況が吞み込めず、なぜだか怒れる悪魔を見ては首を捻った。


 耳をつんざくような轟音。そして眩しい光。


 それらは一瞬で終わり、熱くも寒くもなく、エヴィは無風状態である。

 勿論痛くも痒くもない。

 地響きがして瞳を開けば、もうもうと煙る土埃の中、目の前に大きな穴が出来上がっていた。


(……反射魔法だろうか。それも倍返し?)


 全員が遠い目をする。


「……オカマさん? はどちらに行ったのでしょう、だぜい?」


 おばば様と踊り子は肩をすくめた。

 悪魔はもちろんクレーターの中だ。


「……何なんだ、コイツ? いきなりやって来て、いきなり攻撃魔法を叩きつけてきたぞ」

「魔王を好んでいるんだろうねぇ。恋愛的な方向で」


 全員が何とも言えない表情をしながら、クレーターの真ん中でのびている悪魔を見遣る。

 見た目は煤けてボロボロであるが、肉体自体は無傷のようである。流石(?)悪魔だ。丈夫である。


「ったく。勝手に惚れていたらいいだろうけど、周りを巻き込むんじゃないよ」


 それにしても。全員が『通行証』の効果にゾッとする。

 反面呆れもする。いったい何を想定して、こんなにモリモリになったのか――もうこれは通行証ではなく防御の魔道具であろう。


「ガキンチョはどんだけ魔法をかけたんだ……」

「ちょっと妬けるね?」


 冗談ともつかないようなことを言うと、ハクは穏やかにそう言って小首を傾げた。


 ある種戦闘などで急激なあれこれに慣れて(?)いる魔族たちは、気絶してのびた悪魔を穴から運び出し、傷ついた場所と道端の大きな穴の修復を始めるのであった。




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