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24 魔塔からの召喚・中編

「じゃあいっそ、みんなで乗り込んじゃえばいいんじゃないの?」


 ハクは何でもないようにそう言ってにっこりと笑った。気持ちを表すかのようにぴるぴると細かに白い耳が動いている。

 まるで女性にも見える程に美しい姿をしながら、大妖らしくなかなかに物騒である。

 ユニコーンも鼻息荒く同意と頷いた。


『人間なんぞ、我がひと睨みしてやろうぞ!』

 フェンリルがいつもの如く小さな胸を張る。


「……それよりもアンタたちは、素材として採取されないように気をつけなよ」

 おばば様がユニコーンの角にフェンリルの爪と牙、マンドラゴラ全体と順番に眺めながらため息をついた。


 採取が容易なマンドラゴラ以外は、かなり高値がつくであろう。

 そんなマンドラゴラはユニコーンの鼻先に抱きついては、ブルブルと震えている。


『毒植物はまだしも、生きている聖獣や神獣を素材扱いする奴らなのか……?』

 内心、恐ろしい奴らだなとフェンリルはドン引きしている。


「何だか申し訳ありません」


 みんなに心配をかけてしまい非常に心苦しい。エヴィはぺこりと頭を下げた。

 まさか、自分がちょっとお手伝いをしたくらいで、魔塔の偉い人間(?)から呼び出しを受けるとは思ってもみなかった。


 健康に良いクッキーをみんなに手伝ってもらって作成し(尚、殆ど周囲の人間が作ってくれている)、結界に欠けがあるならば補完する方法はないだろうかと思っただけで(回路も魔法陣もハクに手伝ってもらい、回路を刻んだのはおばば様や魔人、そしてフラメルである)自分は殆ど何もしていないのだが……と首を傾げている。


「自分の価値をまったく解っていないようだねぇ」

「まあ、らしいちゃあらしいがな」


 おばば様と魔人の言葉に、ハクも苦笑いをした。


******


 流行病が収まり、人里離れた山小屋を訪問する人間も少なくなった。

 落ち着きを取り戻したと同時に、再び魔族の子ども達が遊びに来るようになる。


 子ども達は窯の中のサラマンダーを見たり、小さなマンドラゴラに興味津々で撫でまわしては、ブルブルと震えさせたりしている。


 ある意味いつも通り、元通りの光景だ。


「魔塔か……」


 こちらもいつも通り子どもの姿をした魔王ルシファーが、難しそうな顔をした。

 懐かしくもあるような、何か苦いものを呑み込んだような顔をしたルシファーを見てエヴィが訊ねた。


「ご存じですか?」

「いや……最近の魔塔は関りがないので解らないが。昔から変わった人間が多い場所だな」


 みんながみんな口を揃えて同じことを言う。いったいどんな変人の巣窟なのだろうか。


「魔王様にいただいたヒントで新しい攻撃治癒魔法を思いついたのです! それで無事に流行病が沈静化しました。協力していただいた素材を使ったお薬のおかげもあるのですが」

「攻撃治癒魔法……?」


 エヴィから発せられた思ってもみない言葉に、ルシファーは赤い瞳を瞬かせた。

 エヴィのおかしな解釈による新魔法は興味深いが、今はエヴィの安全が第一である。


(魔塔の人間は魔法バカが多いため、純粋に思ってもみない解釈をするエヴィの話を聞きたいだけだと思うが……)


 とはいえ、長い時を重ねて人は知恵を深めた。

 そして時に、本能に忠実な魔族も驚くほどの欲に塗れた人間もいるのだ。相手が解らない状態なら、警戒して準備する方が良い筈だ。


 ルシファーは己が渡した石の気配を探り、ワンピースの中に隠れているのを確認すると、トントンと自分の胸元を指差した。


「前に渡した通行証があるだろう? 万が一困ったことがあったらそれを折るといい」

「折れるんですか?」


 堅い天然石のように見えるそれ。 

 赤と黒が複雑に混じり合った小さい棒状の半貴石のようなもので、今は陽の光を受けてキラキラとしている。

 まじまじと確認すれば、エヴィにもよく解らない複雑な魔法陣が幾重にも刻まれており、石の中でうねるように動いている代物だ。


「特殊な魔法をかけてあるので、落としても割れないが持ち主が割れろと意思を持って触れれば簡単に折れる」


 何やらただの通行証と言う訳ではないらしい。


「…………。解りました」


(特殊な魔法って何かしら……?)


 魔王が特別というならば、余程のものなのかもしれない。

 ――どう考えても簡単に折ってはならないような気がするのは何故なのか。

 どうしても困った時にだけ折ることにして、大切にしようと心に刻んだ。


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