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18 流行・後編

「大事にしなよ」

「おばば様もな」


 そう言い合って、今度はギルドに足を向けた。

 冒険者や依頼者などで賑やかなギルドの出入り口も、今は静かに閉じられている。

 重厚な扉を開けば、そこは閑散としていた。いつもは椅子にふんぞり返ってくだを巻いている冒険者の姿もない。


 解っていたこととはいえ、おばば様はため息をつきながら奥へと進んで行く。


「……随分静かじゃないか」

「まぁね。流行病の時期は大体こんなもんだよ」


 いつもは受付嬢が座っている場所に、なぜだか買い取り担当が座って頬杖をついていた。


「昔の冒険者は、もっと骨があった気がするけどねぇ」

「ああ。時代じゃねぇのかな。とはいえ碌に依頼も無いからな」


 依頼がないのなら、病気にかからないように休んでいた方がいいとのことであった。


「ギルドでも薬や薬草はいるかい?」

「あるのかい? それは助かるよ」


 買い取り担当がおばば様の荷物をいそいそと確認しては顔つきを変えた。


「……こりゃぁ、いい品質の薬草だね」

「そうだろう?」


 薬草の品質に関しては、間違いなく人間界よりも魔界ギルドの方が品質が良い。

 魔素のせいなのか採る者の力量なのか、それとも両方なのか。


 とはいえ魔族が採取をしたとも言えないので黙っておく。更にいつもなら高く買い取れと付け加えるところだが、少しでも多くの人の手助けとなるように適正価格でのやり取りだ。


 クッキーも必要か確認すれば、勿論と鼻息荒く詰め寄られる。


「もしも買えない人間が来たら、山の麓の薬師を訪ねるよう伝えとくれよ」


 買い取り担当は静かに顔を上げて、おばば様の顔を見た。

 暫くして苦笑いをしながら頷く。


「ああ。伝えるよ」



 その後は個人的に付き合いのある店や人を数軒回る。

 いつもの賑やかな往来は見る影もなく少ない人影と閉まり切った店先が、必要以上に淋しく感じさせた。


 顔見知りの面々は、元気な人間もいれば残念なことに罹患している人と様々であった。

 とはいえ罹患してしまった人たちも、特段重篤な症状の人がいないのは不幸中の幸いである。


「本当に、案外毎日クッキーを摂取するのは効果があるのかもしれないね」


 おばば様はやれやれと呟くと、再び箒に跨って飛び立った。


******


 人里離れた辺境の山小屋に、扉を叩く音が響く。

 薬を求めてやって来る人々がぽつりぽつりとやって来た。薬局やギルドで売り切れてしまい購入できなかった人や、元々買えない人々である。


「すいません……お金が足りなくて」


 体調を崩したからなのかそれ以前からなのか、小さな子どもを抱えたお母さんがやせ細った腕で僅かなお金とともに野菜を差し出した。


「大丈夫だよ。普通の薬よりも効く筈だから……他に家族で病気の人はいないかい?」

 おばば様がお母さんに聞く。


 無料で渡したいところであるが、それではお金を出して購入した人は快く思わないだろう。

 更には噂を聞きつけ買えるにもかかわらず、貰うことを目的とした人が多発するため、申し訳ないと思いながらも代金を受け取ることにしていた。過去の苦い経験からの対応方法だ。


 足りない分は物々交換でも問題ないとしている。物も指定は設けておらず、山菜やキノコなどを山で調達する人もいれば、過去、家族の薬を求めに来た青年は労働力をと言って薪割をして行くこともあった。


 その代わり、受け取った金額よりも高品質な魔法薬を渡したり、内緒ということにしておまけをしたりしていた。

 食事を摂っていなさそうな人には食事を食べさせたり、高価な薬草茶を飲ませたりもしている。


 知らない人にはなんてことないおまけだったりするのだが、調合に詳しい人が見たら呆れるほどのおまけであることが多い。


 現に今やり取りしているお母さんに渡した薬は、受け取った金品の倍を出しても買えない魔法薬だった。


「これは煮込んでパン粥みたいにしても食べれるんだよ。そうすれば小さい子どもでも食べれるし、日持ちするから持っておいき」


 欠けてしまって売り物にならないからと言って、カチンコチンクッキーを無造作に包んで渡す。


「ありがとうございます……!」

「なるべく休んで、早く良くおなりよ」


 おばば様は相変わらずの仏頂面であるが、その口調は優しいものであった。


 何度も頭を下げて帰って行くお母さんを見つめながら、エヴィが呟いた。


「どのくらいこの状態が続くのでしょうか……」

「その街だけの問題でもないからね。周辺の地域も安定しないと落ち着かないんじゃないかね」


 おばば様と魔人が難しい顔をして視線を合わせる。

 マンドラゴラはオロオロしながら全員の顔を順番に見回す。


「ブヒン……」


 いつもは鼻息荒くウザったいくらいに存在感を露わにするユニコーンだが、気遣わし気にエヴィを見ては小さく鼻を鳴らした。


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