10 トランスフォーム?
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「ど、どうしたのでしょう、だぜい!?」
凄い光だ。
全員が腕で光を遮ると、フェンリルの姿を確認しようと瞳を細めた。
どんどん光が強くなっていく様子に、エヴィは焦って三人を見る。
「何だろう……?」
ハクが心当たりはあるかとおばば様と魔人に目配せをしたが、ふたりは横に首を振った。
「フェンリルなんて、昔チラッと見た程度だからねぇ」
そうこうしているうちに、段々と光が弱まって黒いシルエットが浮かび上がって来る。
「大丈夫かっ!」
同時に、道の向こうから魔王が走って戻って来た。
何か大きな力の揺らぎを感じ、エヴィ達の無事を確認するために急いで戻って来たのだった。
「急にフェンリルが光り出したのさ」
どんどん収縮して行く光に、小さな人影のようなものがゆらりと動いた。
「変化だな」
「変化?」
魔王の言葉に、心配そうな表情のエヴィが繰り返す。
「元々神獣と言われるだけあって、彼等は皆高い能力を持っているのだ同種族ではないため解らないことも多いが、中には姿かたちを変える事も出来ると聞く」
確かに、つい最近二足歩行を始めたフェンリル(と、ユニコーン)であるが。
「……子ども達は大丈夫なのか?」
ひとりで現れた魔王に、魔人が早口で問いかける。魔王は頷く。
「大丈夫だ。目隠しと防御の魔法を張って隠している」
そもそもこんな辺鄙なところに人なんぞ来ないだろうという言葉は呑み込む。万一獣に遭遇しても、魔族を襲う動物などそうそういないであろう。
光が収まると、蒼銀色の髪の小さな男の子が鎮座していた。
三歳くらいだろうか。キョトンとしていたが、小さな手をワキワキと動かしながら丸い目をぱちぱちさせて首を傾げている。
「!!」
ユニコーンは驚愕し、魔王とハクは興味深そうにフェンリルを見た。
『わわっ! 我も人の形になったぞっ!』
興奮気味に言うと、トコトコとエヴィのもとへ走り寄り、足元にぎゅっと抱き着いた。
『エヴィと話も出来るのだ! 撫でられるのも嫌いじゃないが、ずっとこうしたかったのだ』
「まあ……!」
驚いたままのエヴィはひと言発したのみで、小さな男の子になったフェンリルを見つめている。
「……悋気か。子ども達がエヴィに甘えるのを見て、ヤキモチを焼いたのであろう」
「元々エヴィに助けられて、使い魔というか、主従契約をしたくて居座っていたくらいだからねえ」
今現在、身元引受人になっているハクが苦笑いで言った。
「人化することで人間の言葉が話せるようになったのだな。今は神力も安定しているようだ。問題ないだろう」
成長し能力が安定するとフェンリルの姿でも意思の疎通が出来るのだが、まだ幼いため魔力の少ないエヴィには聞こえずにいた。フェンリルとしては意思の疎通が上手く行かずもどかしくもあったのだろう。
「安定して変化出来るようになるまでは時間がいるであろう。暫くは注意深く見てやるといい」
「わざわざ心配して戻って来てくれて悪かったね」
「構わぬ。子ども達のもとに戻る」
そう言った時。今度はユニコーンが発光をし始めた。
「ブ……、フヒーンッ!!」
俺もやってやる、とでも言っているのだろうか。
力強く嘶くと共に、またもや強烈な光が辺り一面を照らす。――流石成体のためか変身は一瞬で終わったが、見れば上半身人間、下半身が馬のケンタウロスに変化していた。
「おい、種族が違っちまってるじゃねぇか!」
「ブヒヒン♡」
魔人にどやされ、きまり悪そうに頭を掻く。
「……うむ。言葉は今までのままなのだな……」
魔王が何とも言えない表情でユニコーンを見た。
「ブフーーーーーーンッッ!!」
鼻を大きく膨らませて勢いよく鼻息を噴き出すと、再び発光する。
今度はやたら首の長い人間の身体に、人の頭程の大きさに縮んだ小さな馬面が鎮座している。
「ブ、ブヒヒーーーーーーンッッ!?」
自分の姿に焦りつつも、またもや人の言葉が話せないことに絶望し、地面に両手をついて項垂れた。
「……何だか気持ち悪いねぇ」
おばば様が嫌そうに言う。
「つーか、何か穿けや」
魔人も嫌そうに、落ち込んでは蹄でのの字を書いているユニコーンの背中に、至極真っ当な言葉を投げつけた。
「私は、優美なユニコーンの姿が一番素敵だと思うよ?」
笑いをかみ殺しているハクが、肩を震わせながら言う。
恨みがましそうな表情のユニコーンが、振り返ってハクを睨んだ。
『ユニコーン、変』
エヴィの足元に抱き着いたままのフェンリルが言う。
「ブッヒーーーーーッ!!」
挑発されたユニコーンは、鼻息荒く立ち上がった。
フェンリルに向き合った為、ユニコーンの色々な意味であられもない姿が目に入り、エヴィは遠い目をして固まっていた。
「そんな恰好で喧嘩してないで、家に入って何か着な! ユニコーンは気持ち悪いから元の姿にお戻り!」
二頭はおばば様に叱られて、シュンと頭を垂れる。
「……まあ。問題なさそうだな」
ため息をついた魔王はそう言うと、子ども達のもと戻ることにした。
何事かと石窯の中のサラマンダー達が顔を出しては、外の様子を覗き込んでいた。




