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09 発光

「わたしもお手伝いしたい~!」

「僕も僕も!」


 久々にお遣いに来た魔族の子ども達が庭の石窯を見て大はしゃぎだ。

 ついでに二本足歩行をしているフェンリルとユニコーンを見ては、やんややんやと囃し立てている。


「ユニコーン、大きいねぇ」

「フェンリルも歩くの上手!」

「わんわん!」


 何かを伝えるかのように吠えるフェンリルの隣、己の足元でじゃれつく子ども達にユニコーンがハラハラした表情で鼻息を吐いた。

 怪我をさせないようにと注意しているのだろう。


「ユニコーンたちは仕事をしているのだから、邪魔をするんじゃないぞ」

「はーい!」


 大量発注が落ち着き、昨日まで忙しく動き回っていた面々も今日はひと休みだ。

 庭に魔法でテーブルセットを出すと、各々好きに座ってはお茶やおやつを楽しんでいた。

 ちょっとしたガーデンパーティーのようである。

 

そして合間合間にストック分のクッキーを焼いているのだ。

 完全休業でないところが、言わずとも置かれている状況をありありと示している。


「ハクまで菓子作りに駆り出されていたのか」


 旧知の大妖がクッキー作りをしているのが面白かったのだろう。魔王は堪えるような顔をして唇を震わせていた。


「居るものすべてが手伝う感じだよ。だって大忙しなんだからねぇ。君だってここへ来たら手伝うことになったさ」


 ハクが肩を窄めながらお茶を飲んだ。それを聞いた魔王が右上に視線を動かしながら口を開く。


「そうか。それは残念だったな……菓子作りなどしたことがないので、一度体験してみても良かったかもしれぬ」


 ジャーキーを齧りながら、ボウルを魔法で複数同時にかき混ぜている魔人が鼻で笑った。


「やりたきゃ幾らでも手伝ってくれて構わないぞ?」

「本当!?」

「やりたいやりたい!」


 話を聞いていた子ども達が、わっと魔人の周りに群る。


「わわわっ! あぶねぇから、ちょっと離れろ!」

「……どうせなら子ども達にやらせてやってくれ」


 魔王は苦笑いをしながら慌てている魔人に言った。


「魔王様の助言で無事に美味しいクッキーが出来上がりました。ありがとうございます」


 エヴィが改まって礼を言うと、魔王は首を振った。


「礼を言われるほどのことでもない。そのうちおばばもハクも気づいた筈だ」


 テーブルに盛られているちょっとばかり形の崩れた四角いクッキーをひとつ摘まむと、魔王は口の中に放り込んだ。


 ガリッ、ボリボリボリ。

 口の中で大きな音が聞こえる。


「……これは、かなり堅くないか……?」

 微妙な表情でエヴィを見た。


「保存性を高めるために極限まで堅くしてあるんです。冒険者なら剣首で小さく割って食べたり、体調不良の時などはお湯で戻してパン粥のようにしたりしてもいいかと」

「なかなか面白いが、年寄りがこのまま食べては歯をやられそうだな」


 口の中でいまだにガリガリと音をたてるクッキーに、魔王は見知らぬご老人の心配をした。


「普段用はこちらのソフトタイプですね。ちょっと(?)堅いクッキーです」


 ウサギやリスなどの形をした愛らしいクッキーの皿を差し出した。


「よく噛むのは健康に良いそうですよ。それと、どちらもオオバコの種子の外皮を細かく粉砕したものを混ぜてあるので、お腹の中で膨らむのです」

「うむ……色々と考えられているのだな」


 見れば子ども達が楽しそうに型抜きをしている。ユニコーンはげんなりした顔をしながら、生地が無駄にならないように避けては再び捏ねて薄く伸ばした。


「見て見て、エヴィ! ウサギさん出来たよ」

「わたしはリスだよ」

 今度はエヴィの周りに群がると、次々と抜いた生地を見せている。


「みんな上手に出来ましたね。では、天板に並べてサラマンダーさん達に焼いてもらいましょう」

 よいお返事をした子ども達は順番にクッキーを並べ、慎重に石窯まで運ぶ。


「サラマンダー、よろしくお願いします!」


 子ども達の声に、石窯の中からオレンジ色のサラマンダーがひょっこり顔を出しては、心得たとばかりに頷いて小さな舌を出し入れした。


「ほらほら、ガキ共。火傷するから少し離れて見ろよ」

 口の悪い魔人が子ども達を心配して注意する様子を、全員が生暖かく眺める。


 窯の中で踊るかのように動くサラマンダーを、子ども達はキラキラとした瞳で見つめている。次第に良い香りが漂い始め、子ども達は期待に胸弾ませているのが見て解った。


「天板は熱いから触るなよ! 皿に移してからだからな」


 普段からまめまめしく家事を切り盛りしている魔人が、子ども達の目の前に焼きたてのクッキーを置く。半分は金網に乗せて熱と余分な水分を飛ばし、お土産に持たせるつもりのようだ。

 ……そんな一連の様子を、フェンリルがじっと見ている。


「…………」

「ブヒン?」

 ユニコーンが気遣わし気に首を傾げた。



 袋に詰めてもらったお土産のクッキーを手に、子ども達が帰って行く。

 姿が見えなくなったところで、再び作業に戻ろうかとしたその時だった。


「……フェンリル?」


 後半、珍しく大人しくしていたフェンリルが通常通りの四本足で立ったまま、俯き加減に数回細かく震えると発光しだした。


「!?」

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