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06 商品開発係り結成・中編

 使い古したテーブルの上に書籍やメモ、実際の薬草を隙間なく並べては全員で頭を突き合わせていた。


「食べ易さでいうなら液体だけれど、日持ちしねぇぞ」


 劣化を遅らせるような魔術自体はあるが、一本一本に付与していたのではとんでもない値段になってしまう。なるべく安価で提供し多くの人が利用できるものを、というのがエヴィの考えである。


「安心・安全なものを作るなら大人も子どもも服用しても大丈夫なものじゃないとですね、ですぜ!」


 〇歳未満は服用してはいけないとか、妊婦は避けることといった説明がつく薬草もあるので注意が必要だ。


「取り合わせも気をつけないと……合わせ方によっては毒になり得るものがある。逆もあるけどね」


 薬師ふたりと見習いひとりは、ああでもないこうでもないと確認し合いながら、使用できる素材を絞り込んで行く。


 何だかんだで駆り出された魔人は、さて、どうやって安価かつ摂取しやすく、かつ、日持ちするように作ればいいのかと頭を悩ませている。


 お腹が一杯になったフェンリルは丸くなって、部屋の隅っこで眠っている。

 かき混ぜ係が終わったユニコーンは、フェンリルが散らかしたあれこれを片付けていた。


******


 出来上がったのは、クッキーである。

 薬草を混ぜ込んだためか、何とも言えない茶と深緑色が混ぜこぜになっている代物であった。


 せめて形だけでも可愛らしくとウサギ型やハート形にしてみたのだが……


「…………。何か、そこはかとなく変な臭いがするな」


 実は焼いている時から、いや、生地を混ぜている時から、大変怪しい香りを放ってはいたのである。


「薬草だからねぇ……()()()()は仕方ないがね」


 おばば様は眉間の皺を深くした。

 表情も言葉尻も、間違いなくある程度を超えたものであると言っているようなものだ。


「案外、味はイケるかもしれないよ?」


 ハクが珍しくひきつっている。

 腕が立つ薬師でもある彼は、おおよその味が想像できたのか。何とも微妙な表情をしていた。


 言い出しっぺのエヴィが意を決してウサギ型のクッキーを手に取った。

 臭いを嗅いでは負けなので(?)、息を止めて勢いよく口に放り込む。


「えいっ!」


 サクッと、心地よい歯ざわりがした。ほのかなバターの香りと、コクのある蜂蜜の甘味。

 蜂蜜は抗菌、抗炎症作用に免疫機能の維持、疲労回復、腸内環境の改善、美肌作りの効果もある凄い素材である。……ある。


「「「「…………」」」」

 全員の時が止まった。三人と一頭は息を詰め、エヴィを見守る。


「ぐえぇぇぇ!」

 エヴィは堪えきれず、ガマガエルが潰れたような声を出した。


「やっぱなぁ!」


 急いで水の入ったコップを渡すユニコーンに視線で礼を言い、一気に飲み干す。


「とってもマズいです! 健康になれると言っても、全くもって食べたくないレベルの代物ですっ!」 


 涙目で激マズクッキーを呑み込んだエヴィが、捲し立てるように言った。


「うーん。やっぱりあれがいけないのかなぁ」


 臭いの現況に心当たりがあるハクは、耳を前にぺったりとくっつけている。ふかふかのしっぽも、珍しくくったりと垂れさがっていた。


「きっと、あれもいけないんだろうねぇ」


 味の惨状にも心当たりがあるおばば様が、魔法で遠ざけながら言った。

 あまりのショッキングな味に、エヴィのライフはゼロである。


「……まあ、何事もすぐには解決しないもんだぜ」


 かつてとんでもない手間暇をかけて作ることになった全自動かまどを横目に見遣る。


「『諦めたらそこで試合終了だ』って、どこかの先公が言ってたぜ」


 試合ではなく商品開発であるがと思いながら、いつだったか娯楽本で見た先人の言葉を魔人が言う。

 テーブルに突っ伏しながらエヴィは思う。

(方向性は間違ってはいない筈、ですぜぃ……)


 保存の仕方によってはある程度日持ちする食べ物である。水分を出来る限り飛ばし、スパイスなども入れた上でカチコチにすれば、尚のこと日数が伸びるであろう。


 密閉容器に入れてもらい冷暗所で保存すれば、尚のこと保存日数が増える筈。


(それともシュトーレンみたいな方がいいのかしら……)

 やはり日持ちするパンを連想しては、二杯目の水を流し込んだ。


 好き嫌いが殆どないエヴィにさえクソ不味い物体に、まともな味で提供できる未来が来るのか疑問であったが。


「臭いや味が薄い、他の材料で試してみるしかないね」


 とはいえ、薬師としてなかなか興味深い案件ではある。出来ることなら完成させたい商品と言えるだろう。


 おばば様がのびたままのエヴィを気遣わし気にみやっては、気を取り直すように口を開いた。



 更に。スタッフが美味しく食べられなかったので、寝起きのフェンリルにあげようとしたところ、すさまじい勢いで吠えられたのであった。

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