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04 歓談

 魔王自ら案内されて部屋に入ると、綺麗にセッティングされた部屋とテーブルが目に飛び込んで来た。

 どんなおどろおどろしい内装かと思っていたが、パリッと糊の効いたテーブルクロスにピカピカに磨かれた銀食器と燭台が用意されており、美しい花々が飾られていた。


 ガイコツや魔獣のはく製などは飾られていないんだなと思い、エヴィはホッと息を吐いた。


 先程のハゲワシのようなお爺さんに促され、おずおずとテーブルに着く。

 音もたてずに料理が運ばれてくると、目の前に静かに供された。


 料理も美しく盛り付けられた、ある種普通の料理である。


(目玉が乗っていたり、スープに尖った耳が入っていたり、パイに指が刺さったりはしていないのね……)


 どんな想像なんだと言われそうであるが、魔界と聞けばついつい、そんな妄想が頭をよぎってしまうものである。


「人間が食べても問題がない食材ばかりだ。遠慮なく楽しんでくれ」


 そう言うと魔王は飲み物が入ったグラスを掲げ、乾杯の意を示した。


「お心尽くし、ありがとうございます」


 同じようにグラスを掲げると、他の三人もグラスを掲げた。


「自己紹介がまだだったな。儂は魔界の王、ルシファーだ」

「申し遅れました。エヴィ・シャトレにございます」


 急に転移したせいでなし崩し的に始まった謁見(?)で名乗りそびれ、やっと名乗ることが出来てホッとしたエヴィであったが。


 同じようにやっと名前を名乗った青年は、想像通り魔王であった。


(随分と若い王……いや、確か十万歳なのでしたか?) 


 お爺ちゃんもお爺ちゃんである。


 グラスのワインと同じ赤い瞳が涼し気な美丈夫だ。……『儂』という一人称と見目がだいぶ違和感があるものの、十万歳であるのなら納得であった。


「魔界の食べ物は、人間には合わないのですか?」


 先日、魔王・ルシファーと似た男の子が持って来てくれた実を食べたら、予想外に魔力が上がってしまい謝られたのは記憶に新しい。


 あの実は天界に実る果実であるとのことであったが、『人間が食べても問題がない』といっていたので、問題がある食材があるのだろうかと思っていたのだった。


「うん……魔界には魔素が含まれるものが多いので、魔力が少ない者が口にすると稀に魔力酔いを起こすのだ。身体の中に魔素が馴染むまで気分が悪くなったり、めまいを感じたりする」


 基本的には無害であるそうだが、数日具合が悪いままではあるので毒だと言えなくもない。

 その為、魔素の多い森の中には防犯も兼ねて人を入れないようにしてあるらしい。


「因みに天界の物には魔素と似た『神素』が多く含まれている。魔界には魔族がいるため魔素と呼び、天界には神がいるので神素と呼んでいるが、便宜上のこと。まあ、ほぼ同じものだ」


 悪の象徴と言われる『魔』と、善の象徴と言える『神』がほぼ同じものというのはなかなか信じがたい言葉であったが、エヴィに真偽が判断できる訳ではないため、そういうものだと納得しておくことにする。


「そう言えば天界の実を食べたエヴィが、うっかり魔力が上がってしまった時に焦っていたものね」


 揶揄っているのだろう。ハクが楽しそうにしっぽと耳を揺らす。


「ああ。神素の薄いものを渡したつもりが魔力が上がった程と聞き、酷い魔力酔いをおこしたのではないかとハラハラした」


 眉を顰めた魔王を見て、そう言えばと思う。


(あの男の子と同じ。黒髪に真っ赤な瞳、黒い角だわ)


 それとなく周囲を見渡せば、オークやミノタウロスのように動物の姿を持つ魔族以外に、見た目は人間とよく似た魔族がいるが、黒い角を持つ者は魔王のみであった。


「いつも子ども達と来る坊やは、もしや弟さんか息子さんなのでしょうか?」


 いつもお世話になっていますと頭を下げるエヴィを、全員が見遣った。


「……ああ、今日は普通の姿だからね?」


 ハクが楽しそうに魔王を見た。魔王は変な顔をしている。


「あれは人間界で子ども達に混ざって行動するので違和感がないようにだ。それと、不在時の万一に備え結界を強化しているので魔力を節約しているだけだ」


 ニヤニヤしているおばば様と魔人を見て、仏頂面の魔王と、やはりニコニコ顔のハクを見る。

 エヴィの頭の上には、盛大にハテナが並んでいる状態であった。


「あのクソ生意気な子どもは、そこにいる魔王本人だぞ?」


 一心不乱にお替りをしまくっている魔人が事もなげに言う。


(魔王本人)

 一瞬、何を言われているのかわからなくて、エヴィが過去のあれこれを思い起こしていると。


「エヴィが飴玉を口に突っ込んだり、頭を撫でたりしていた子どもは、今そこで澄まして食事をしている魔王本人さ」


 おばば様が追い打ちをかけるように言う。

 エヴィはひとりだけ時が止まったような様子で固まっては瞳を瞠った。


「えっ、ええぇぇぇぇ!?」


 喉から、確認のような否定のような、変な声が漏れ出たのは言うまでもない。


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