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01 招待状

本日から第二章が始まります。

どうぞよろしくお願いいたします(^^)

「エヴィ、薬師見習いになったんだってね」

「おめでとう!」


 噂を聞きつけた魔族の子ども達が口々に祝ってくれた。

 今日も辺境の、人里離れた山の麓は何だかんだで賑やかである。


「あれ? じゃあ今までは薬師見習いじゃなかったの?」


 ハーピーの男の子が不思議そうに首を傾げた。


「今までも薬師見習いだったのですが、正式に薬師見習いになったのです!」

「…………?」


 正式な薬師見習いとは何なのだろうか。


 輝くような笑顔で言われ、子ども達はよく解らないままに頷くことにした。

 ――本人が嬉しそうなら、まあいいや、である。


「そういえば、招待状を預かって来たよ」


 ニワトリの頭を持つ鳥人間の兄弟が、魔界で摘んだという猿(?)が歯をむき出している顔のような模様が浮かんだ花と一緒に、黒い封筒を差し出した。


「まあ……とても珍しいお花ですね? 初めて見ました! お遣いも、どちらもありがとうございます」


 エヴィが微笑むと、兄弟はコココ、と言いながら笑った。


 仲睦まじい様子につられて、再びエヴィも笑う。

 そっと頭を撫でたら、赤いトサカの部分が想像以上にプルプルしていて、思わず握りしめたい衝動に駆られるが。


(ダメ、駄目ですわ……っ!)


 いきなり大人に自分の髪(?)を握りしめられたらトラウマである。

 大人の配慮で好奇心を抑え込みながら、赤い蝋封で閉じられた封筒を見た。


 語学にはそこそこ通じている筈の彼女も見たことのない文字が記されており、エヴィは碧色の瞳を瞬かせた。

 

******


「魔王城からの招待状だね」

「麻黄嬢……?」


 おばば様が発した聞きなれない名前にエヴィは首を捻る。


 ハクから貰った図録にあった大きな麻黄が、お茶を飲んでいる姿を思い浮かべる。

 ……植物系の魔物もいるらしいので、あながちおかしくはないのかと自己完結する。


「ギャンギャン!」


 遊びに来ていたフェンリルが、使い込んだテーブルに飾られている猿顔の花に向かって吠えていた。


「魔界にある魔王の城だよ」


 おばば様と魔人が生暖かいジト目でエヴィを見つめた。考えていることはお見通しなのであろう。


(マオウって、魔王!?)


「……どうして麻黄様が」

「試験に合格したお祝いだって書いてあるね」


 地獄耳だねぇとおばば様。


「麻黄じゃなくて、魔王な」


 魔人の訂正に、そうだったとエヴィも頷く。


「魔王城でも舞踏会など開かれるのですか?」


 ガイコツの紳士、オークの令嬢などが踊る大広間を想像する。

 黒い蝋燭が揺れる中、デュラハンやアンデッド達がグラスを傾けるのだろうか。


「……何処から(血の)ワインを飲むのでしょう……?」

「知らねぇよ。つーか、奴ら舞踏会とかしねぇだろ」


 呆れた魔人にため息をつかれた。

 エヴィは武闘会の方かと聞こうとして、余計に呆れられそうなのでやめておいたのはナイショだ。


 取り敢えず、読めない招待状をおばば様に訳してもらうと、長らく人間と魔族の交流は殆どなかったが、偏見のないエヴィによって僅かながらも温かな交流が生まれつつあることを嬉しく思う。王が礼を言うと共に、薬師見習い合格を祝して是非食事に招待したい……ということらしい。


「そんな大げさな、ですぜ?」

「確かに一見大げさだけど、それくらい種族間の断絶が強かったとも言えるからねぇ」

「種族間とは言っても、一市民同士の交流ですよ?」


 子ども達と患者である魔族、そしてエヴィという狭い間での交流である。

 ここは辺境の人里離れた山の麓で、他の人間と頻繁に交流があるという訳でもない。


 人間と広く交流を復活させようと考えてのことかもしれないが、エヴィでは期待に副うことは出来ないだろう。


(もしかしなくても、隣国の有力貴族の出だとご存じなのかもしれないわね)


 数百年の断絶関係にピリオドを打つべく、好意的なエヴィを足掛かりにと考えたのかもしれないが、今やただの平民(?)である。


 魔界と人間界の懸け橋的な立場を望まれても、全くもって尽力できないのだがと眉をハの字にする。


「ルーカス様にご紹介するくらいしか方法がないかもしれません」


 何も関係のないルーカスに投げるのは非常に申し訳ないが、彼なら使者として尽力してくれるかもしれない。

 過去に浮きまくっていたエヴィへの心遣いを思い起こしても、魔族にも偏見なく対応してくれるのではないかと考えた。


「ルーカス? なんで奴の名前が出て来るんだ」


 魔人が怪訝そうな顔をした。


「それに、ドレスもないですし」


 以前に見たオークの青年もパリッとしたジュストコールを着こなしていた。

 王からの呼び出しとあらば、正装が必要であろう。


 エヴィは現在平民として生活しているうえにファッションにそう興味もないため、町娘が着るような簡素なワンピースが数着あるのみである。


「別に、普段着で大丈夫だよ」


 おばば様が封筒に手紙を戻しながら言った。 


「腰みのみてぇなのを履いてる奴らもいるくらいだからな」


 そう言って肩をすくめる魔人も下半身にズボンのようなものを穿き――足先がにょろろんとしており、更ににょろろんとズボンが一体化して窄まっているので、本当にズボンなのかは不明である――上半身裸な上にベストのようなものを羽織っただけであるのだが。


「まぁ、気乗りしないなら断ればいいだけだけどねぇ」


 おばば様はそう言って甘いミルクティーを口に運んだ。


 自分が断って、種族間の問題にひびが入ったりしないのだろうかと思い、頷く事も出来ずに眉を下げた。

 これ以上エヴィの眉が下がると真っすぐ縦になってしまいそうである。


「ブヒ、ブヒヒ♪ ブンブンブヒヒン♪」

 ユニコーンは鼻歌混じりに角で薬をかき混ぜている。


「きゃんきゃんっ! ぎゃわんわんっっ!」

 フェンリルは相変わらず猿みたいな花に向かって吠えていた。


「うるせぇ奴だな……キツネ野郎は何処に行ったんだ?」


 魔人はげんなりした顔をしながら、何処からか減塩ビーフジャーキーを取り出して、フェンリルの前に差し出した。

お読みいただきましてありがとうございます。

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