25 薬師見習いになりました(正式)・前編
エヴィは気合十分でテーブルの前に陣取った。
フンスフンス! と鼻息も荒いが、それを見ているユニコーンの鼻もブヒンブヒンといっていた。
「きゃんきゃん!」
両者の並々ならぬ昂りを感じて、フェンリルも興奮気味に走り回る。
「おい、チビ助。ホコリが立つから静かにしとけや」
魔人に注意をされふてフェンリルは、むくれながら伏せの体勢をする。
タシタシと、しっぽが不満げに床に叩きつけられているのはご愛敬だ。
今日はエヴィの薬師見習い試験である。
というのも、先日エヴィがおばば様に言ったひと言が発端だった。
「おばば様、薬師見習いに試験はないのでしょうか?」
「見習いにかい?」
おばば様は怪訝そうな顔をする。
見習いになるために、適性があるかどうかを見極めるため課題や試験を課す者はいるかもしれない。また正式な薬師になる時には、相応しい知識と技術を持っているかどうかの確認試験は行う者が多いだろう。
人によっては都度、お師匠さんなる人が目視で確認しており、曖昧な感じで後を引き継いだり独立したり……というパターンもそれなりにある筈だが。
とはいえ、元々国などが行う試験がある訳でもなければ、正式な資格がある訳でもない。薬師と言えど実力はピンキリだ。
かつてエヴィに『代筆屋なんて名乗ったもの勝ちだ』と言ったことがあるが、薬師だって同じなのである。薬師なんて言えないような下手くそな薬師もどきだってごまんといるのだ。
一方、エヴィはエヴィで己の実力がどの程度なのか漠然としており不安に感じていた。
元々定職がないと嘆く彼女に、『それならば薬師見習いと名乗っておけばいい』と言われた。いわば仮の身分である。
一応勉強はするようにはしているし、自分にできる努力はしているつもりではある。……つもりではあるものの、初歩の初歩(刻む・煮込む)で躓いているため、胸を張って見習いですとは言えない気もしているのが本心だ。
せっかく教えていただくのならば、きちんと技術も心構えも、おばば様の名に恥じないよう身につけたいと思っている。そしていつか、可能ならば、おばば様が忙しい時には代理を務められるようになりたいとも思っているのだ。
(それに、時折私が作ったお薬も卸してもいる訳で……ちゃんとしてますって言えないのは、なんだか申し訳ないわ)
勿論毎回おばば様に確認してもらっているので、粗悪品を卸すような真似はしていないが。
そんなことをたどたどしく説明すると、おばば様はため息をついた。
「つくづく損な性分だねぇ」
普通、見習いの不始末は師匠の不始末である。
よってちゃんとしているかどうかなど、本来見習いが気にする必要はないというか。
そもそも矜持を持って薬師を名乗る人間が、たとえ弟子がつくったものであったとして、粗悪品など市場に出す訳がないのだが。
更にはユニコーンの角エキス入りである……どうやったら粗悪品になると言うのか聞きたいくらいだ。品質が良過ぎるという懸念(?)はあっても、悪くなり様がないではないか。
(まあ、そういうことでもないんだろうけどね)
小さい頃から女官や元婚約者にお小言ばかりを受けて来た為か、エヴィは自己評価が低い。
更には、常に課題・確認・試験の三段構え三昧だったせいで、『きちんと』できていないと不安なのであろう。
(散々試験三昧だったんだから、今後は試験なんてしたくないって生きりゃあいいのにねぇ)
見習いなど、雑用と薬草を水で洗うのみの初心者レベルから、独立寸前のベテランレベルまでいるのである。
(知識はベテラン薬師並みって言ってあるのに、だよ)
それならば逆手に取って、適切な範囲内で自信をつけさせるのもいいだろう。
おばば様はひとりで納得する。
「じゃあ、課題を出すことにしようかね。今日から二週間後に試験をするよ」




