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24 スノーボールクッキー

「ふぇんりる? 可愛いねぇ」

「もふもふだね~!」

「ちっちゃいね!」

『やめろ! やめるのだ!』


 魔族の子ども達に撫でられまくり、フェンリルは嫌そうにキャンキャンと吠えている。


 小さい子と子犬がじゃれている様子は可愛い以外の何ものでもない。

 エヴィとおばば様はホクホクしながら様子を見守っている。


「……白狐に聞いたんだが、魔力が出現したらしいな」


 久々に他の子ども達と一緒に黒髪に赤い瞳のツンデレな男の子が山小屋へとやって来たのだが、非常に言い出し難そうに切り出した。


「そうなのですよ! 全く無いに等しい魔力が上がったのです!」


 興奮気味に肯定するエヴィに、男の子は引き気味な様子で『そうか……』と言った。


「まさか、ただでさえ塵芥ちりあくたのような人間の魔力が、更にその中でも壊滅的に極小のそなたの魔力が上がってしまうのは想定外だった。申し訳ないことをした」


 男の子は姿勢を正し頭を下げた。

 ……軽くディスられているかのような内容だが、どっこい、大真面目なのである。


「大丈夫ですよ? 元々魔力が増えてほしかったので、私的には嬉しいのです。だぜい?」


 男の子はおばば様を見た。おばば様は相変わらず不機嫌そうな顔をしていのだが、多分、仕方ないくらいに思っている筈である。


「でも本来は気をつけねばならないことだった。不注意や想定外ということでは済まぬのだ」


 男の子が真面目な顔で言うので、エヴィはおばば様に視線を向けた。


 魔力が上がって喜んだのはエヴィだけで、三人と一頭――おばば様と魔人、ハク。そしてユニコーン――は困ったような焦ったような反応であったと思う。


「本来だったらアンタの推測通り上がる筈がなかったんだけどねぇ。この子が尋常じゃない努力をしていたから……まあそれでも問題になるほどは増えていないし。今後もそうは増えないだろうから、取り敢えずは大丈夫さ」


 おばば様も、男の子が魔族たちに親切にしてくれるエヴィに、美味しい果物を食べさせてやろうという優しさからだったのは解っている。人間の心身に関与しないものか注意深く確認して選んだのだろうことも。


 魔界や天界には魔力に満ちた食べ物が多く存在するため、人間が摂取しても大丈夫なものを選ぶのはなかなか難儀だったであろうことも知っていた。


「魔力を無効化するものがないか確認している最中だ」


 本当に大丈夫なのに、律儀だなとエヴィは思う。


 魔族と言えば乱暴でならず者のイメージであるが、そうでもないことは既に理解している。

 男の子は非常に生真面目な性格なのであろう。


 例のオークの件の時も父親であるオークの頭領が迅速に謝罪に来てくれたし、魔王からもお詫びの書状とお見舞い品を貰った。

 却って恐縮したのは言うまでもない。


 更には目の前の男の子を含む、子ども達までもが、『オークがごめんなさい』といって、同胞の不始末を謝っていたくらいである。


 ……魔族も人間も変わらないどころか、魔族の方がきちんとしているかもしれないなと思ったのはエヴィだけではなかった。


 是非ともクリストファー王子にも見習ってほしいものである。


「まあ、非常に小さいものを動かす程度の魔力だから問題ないけどねぇ」


 確かに、今現在エヴィから感じる魔力は信じられないくらい小さいものなので、すぐさま問題にはならないだろう。


 男の子は注意深くおばば様とエヴィを見ては、本心だと感じたのだろう。ホッとしたように小さく息を吐いた。


「それにしても、聖獣に神獣か……えらいものに好かれたな」


 デレデレとエヴィに纏わりつくユニコーンと、子ども達にくちゃくちゃにされて切れ気味のフェンリルを見ては苦笑いをした。


(本人に魔力があってもなくても関係なさそうだ……今すぐにでも優秀な魔術師になれそうだな)


 男の子が心の中で考えていると、おばば様が尖った目で見ている。


「……解っている」


 何がと追及されぬよう『言わぬ』という言葉を吞み込むと、おばば様が頷いた。


「?」


 エヴィは不思議そうに首を傾げた。



「ほら、ガキ共。出来たぞ~」


 微妙な空気を変えるかのように、ピンクのフリフリエプロンをつけた魔人が、お菓子かごに山盛りに入ったスノーボールクッキーを持って山小屋から出て来た。


 おばば様と男の子は、無意識に肩に入った力を抜くようにため息をつく。


「わーい! やった!」

「なになに?」


 子ども達が一斉に魔人の側に駆け寄って行く。


 やっと子ども達に解放されたフェンリルだったが、魔人の配っているお菓子が気になるのだろう。しっぽをこれ以上ないくらいにブンブンと振っており、紺碧色の瞳はクッキーに釘づけになっている。


 フェンリルは魔人の作る料理が既にお気に入りなのだ。

 甘いもの好きのユニコーンも、そわそわとしている。


 魔人を手伝っていたハクが、同じように大きなかごに山盛りになったクッキーを持って扉から出て来た。

 そしてエヴィ達を見る。

 ――ニヤリと笑ったように見えたのは気のせいだろうか。


「おや、君も来てたんだね? スノーボールクッキー、いるかい?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべては、男の子に向かって訊ねた。


「……要らぬ」


 男の子はこの上なく不機嫌そうな顔をすると、吐き捨てるように答えた。


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