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22 大悪魔ベリアルVS魔王(&魔人)

「お前は何者だ」

「儂は魔王・ルシファーだ」


 そう言って不敵に笑う。

 魔王と聞いたところで、ベリアルは顔を強く歪めた。


「魔王!? 誇り高き魔族でありながら何故人間と慣れ合っておるのだ!」


 ルシファーは聞きなれた台詞に鼻白む。

 力にばかり目が向いて、広く視野を持たない者の言葉。今まで何度ともなく聞いた言葉だ。


「……隣人は慈しむべきだとまでは言わんが、摩擦なく協力し合っていったほうがいいのは明白だが」

「そんな腑抜けたことを言っているから魔族がいなくなるんだ!」


 短い期間でベリアルが解ったことは、人間が魔族の存在を『お伽噺だ』と思うくらいもの長さに渡り、魔族を見なくなっているということである。


 目覚めてから見かけた魔族はごく少数で、人化して隠れるように暮らしているのだ。


 何故強者である筈の魔族が虐げられ、弱者である筈の人間がのうのうと暮らし、繫栄しているというのか。


「いなくなってなどいない。『魔界』を作りそこに暮らしている」

 ルシファーの言葉に考えを巡らす。


「……魔界を作ったと……? 人間如きに世界を追われたというのか!?」

「いや。自ら世界を分けたのだ。当時人間との争いが激化し、お互い譲れない状態になっていた。……あのまま進めば甚大な被害をこうむることは解っていて、双方痛手が大き過ぎる故、魔族は自ら進んで新天地を求めたというだけだ」


 ベリアルはわなわなと震えていた。怒りだ。

 身体的能力が高い魔族が人間界を追われたということが許せないのであろう。


「人間など滅ぼすか、餌にでもしてやればいいだろう! 何故庇う」

「弱いからといって虐げるべきではない。そんな事を繰り返していては別の存在に駆逐されるか、その弱い者たちに結束され足元を掬われるかだ」


 ルシファーの言葉に激高して叫ぶ。

「御託はいい!」


 そう言うといきなり、今までとは比べ物にならない程の魔力の塊を投げつける。


 ルシファーも同じように大きな魔力を放出し、ベリアルの攻撃にぶつけた。

 魔力と魔力がぶつかり合い、バチバチと火花を散らす。


 魔人は下にいる仲間たちに被害が及ばぬよう防護壁を張った。と同時に、凄まじい爆風が辺り一面を吹き荒れる。


「お前など、魔王の座から引きずりおろしてくれるわ!」

「御託はいい。やれるものならやってみろ」


 静かに笑って煽ると、ふたりは攻撃魔法を繰り出し始めた。

 縦横無尽飛び回り、あちこちで爆風やら爆発やらが発生し、魔人の髭と髪を横殴りして行く。


「……マジかよ」


 魔界でやれやと苦言を呈しながら、魔人はしおしおと更なる防護壁を張るのであった。



*****



「ここに、風魔法の魔法陣を描いていただきたいのと。こちらには水魔法の……」


 下界というほどではないものの、ルシファーとベリアルが去った後の山小屋前では大魔法使いと大魔法使い見習いたちが、エヴィの指揮の下、奇々怪々な魔法陣を魔力で描いていた。


「つーか、よくこんな魔法陣を思い浮かぶね!」

「全くだよ」


 アロンとアビゲイルが感心しながら手を動かす。


「これは凄い……」

 ついつい手を止めて魔法陣を観察しようとするシモンに、フラメルが渋い顔をした。


「ちょいと! まったりしてる場合じゃないよ。上でドンパチされてるんだからね!」


 おばば様の仏頂面がオーガのようになっている。

 ハクによると、東の国では般若というらしい。

 はんにゃ。可愛らしい音であるが、なかなかどうして、ちょっと間違うと末恐ろしい存在だということである。


「すみません・・・・・・」

「でも魔王の方が強いだろうから大丈夫でしょう?」

 

 神妙に謝るシモンの脇で余計な口を出したアロンが、怖い顔のおばば様に睨まれた。


「そういう問題じゃないよ」


 ベリアルはどれだけの恨みつらみを吸収したのだろうか。凄まじい瘴気を発していた。

 ……本気で潰し合ったのならルシファーが勝つかもしれないが、一帯は焦土と化し、一面瘴気まみれとなってしまうであろう。


 更に力の加減など出来ないであろうことから、ベリアルも、外皮となっているクリストファーも砂塵か藻屑と化すに違いない。


 とんでもない緻密で膨大な魔法陣が完成に近づいて行く。

 大陸を守護する魔法陣を改良したものである。その為五つの方位と、中央に聖女の位置が記されている。


 さすが大魔法使いたちである。淀みなく難し過ぎる魔法陣を魔力で描いて行く。

 その魔力の色がキラキラと輝きながら魔法陣を彩る。


 東のアロンは風の力が強い緑色、西のシモンは地(土)と実りの黄色、南のフラメルは火を司る赤。そして仄かに紫が混じっている。北のアビゲイルは氷と水の白と青である。


おばば様はいかづちの力が強いのだという。薬師をするくらいなので、てっきり水魔法に秀でているのかと思えば、バリバリの戦闘特化型であるが。


「えげつないな」

 フラメルの言葉にアビゲイルが頷く。


「えげつないねぇ」


 ところで、という。

「……おばば様はどうするんだい?」


 アビゲイルがエヴィを振り返ると、真ん中を指差した。


「聖女様です」

「…………聖女……?」


 東西南北、四方位の大魔法使いたちが瞳を瞬かせながら呟いた。


「仕方ないじゃないか、誰も聖魔力を持っている奴がいないんだから!」


 おばば様が心底嫌そうで恥ずかしそうに怒鳴った。

 聖魔力。浄化と癒し、修復と再生の聖なる力である。


「魔人! アタシの替わりに雷を司りな!」


 遥か上空にいる魔人が、これまたぶっとい眉毛をこれでもかと顰める。


「はぁ? 俺ぁ今、防護壁を張ってお前らを守ってるんだけど!」

「そんなの魔王にやらせなよ! 五方位が揃わないと発動しないよ!」


 空に向かって通信魔法を飛ばすと、ちらりと魔人がルシファーを見た。


 ルシファーも解っているのだろう、ほんの小さく頷いては、隙を作るために最大限に魔力をベリアルに向けて放射し、空高く弾き飛ばした。


「今だ! 行け!」


(大丈夫なのかよ? 今のでバラバラになってないだろうな!)


 叫ぶルシファーに応えながらも、上空に飛んで行ったベリアル……外皮であるクリストファーの身を案じた。


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