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21 対決!?・後編

(ひっ!)

 エヴィは思わずきつく目を瞑った。


 同時に大きな爆発音が響き渡り、ビリビリとした振動が身体に伝わってくる。

 身体に痛みがないことを確認して薄目を開ければ、魔人が放たれる火の玉に魔力をぶつけて空中で破壊していた。

 いつも頼りになる人であるのだが、今日はいつにも増して逞しい。


「……つーか、瘴気とめろや!」

 魔人がルシファーに怒鳴る。


「儂はもう放出していない。全てそいつだ」

 魔人の無礼な物言いに離れているルシファーが、何でもないように答えて顎でしゃくった。


 大事な薬草園の薬草と、魔族の子ども達と植えた植物には結界が張ってあり無事であるが、そうでない周囲の草木はみるみる黒く枯れ腐って行く。

 エヴィは胸が締め付けられるような気持ちで毎日を過ごした風景を見遣った。


「この中にちょっとでも浄化魔力がある奴いたっけ?」

 アビゲイルが大魔法使いの面々を見渡した。


「残念ながら全くいませんよ」

 シモンが首を横に振る。


「あれ? おばば様って持ってなかったっけ?」

 アロンが首を傾げる。


「持っているとかいう次元じゃないぞ。エヴィの魔力と同じようなもんだ」

「そりゃあ、微かも微か、ミジンコ過ぎるじゃん……」


 フラメルとアロンのやり取りにおばば様がどやしつける。


「悪かったね! だから初めっから無いって言ってるだろ!」

「けどさぁ、攻撃魔法で打ち合ったらこの辺一帯焼け野原になっちまうよ」

 アビガイルが恐ろしいことを事もなげに言う。


「……亜空間でするか?」

 魔界を亜空間に作り出し、更に結界で固く守るルシファーが提案する。


「何でもいいから早くしろや!」

 ひとり応戦をする魔人が怒鳴り声をあげた。


「ええい! ふざけているのか!」


 小手調べといえ大悪魔の攻撃に怯えるでもなく備えるでもなく、ぺちゃくちゃと何やら話し合っている大魔法使いたちに痺れを切らしたベリアルは大声をあげた。


 怒気を孕んだ声は空気を大きく揺らし、近くの樹々をより一層枯らして行く。


(本来はベリアルさんにも改心してもらう方がいいのだろうけど、これだけのことをしたら多分タマムシ以下にされてしまうだろうし……取り敢えず殿下とベリアルさんを分離させないと……!)


 ものを分離する魔法、もしくは魔術とはどんなだっただろうかと、高速で頭の中を掻きまわす。


「……抽出……?」


 薬を作る際、素材から薬効成分のみを抽出するための分離する魔術があったのを思い出す。


(少量でもあるなら抽出して使える! 抽出して、増幅させて……! 更にこう、広げて!)


 エヴィの頭の中で、瞬時に様々な事象と現象、魔術が、点と点がしっかりと繋がって広がって行く。


「……! ペン! ペン! ペン! ペン!!」


 焦ったエヴィは腰に付けたアイテムボックスを掻きまわしてペンを捜す。


 ……しかし出て来るのはカチンコチンクッキーの欠片や干した薬草、マンドラゴラとトレントのお揃いの服、食べると笑いが止まらないきのこ……など碌なものではない。


「……どうしたのだ?」


 エヴィのおかしな様子に気づいたルシファーが助け舟を出す。この期に及んでおかしな行動に、若干引いているのは気のせいか。


「ずっと考えていた浄化の魔法陣が、完成しそうです!」


 キリッと眉毛を釣り上げて放たれた言葉に、大魔法使い達とルシファーが、何とも言えない表情でエヴィを見た。


「……今? 魔人が頑張ってるけど、結構クライマックスな感じだけど……」

 流石の自由人であるアロンも微妙そうな様子でエヴィに進言(?)する。


「このままだと、殿下も一緒に粉々にされてしまいますよね!?」


 怒り心頭といった様子で火炎放射をするベリアルを大魔法使いたちが見遣る。魔人は何人いるのか解らない速さで高速移動をし、みんなに攻撃が当たらないように防いでくれている。


「そうだね」

「そうですね」

「「そうだな」」

「多分ねぇ」


 おばば様以外が同時に答えた。


「『人殺し、ダメ、絶対!』ですぜ!」


 エヴィは小さく叫んだ。

 どんなにクズで外道で、あんぽんたんでも駄目である。


「あんなに酷い扱いを受けたのに、相変わらずだよ」

 おばば様は人が良過ぎるエヴィにため息をつく。 


(どうにも出来なかったのでって済ませれるのにねぇ)


「……『抽出』って言ったけど、人間を抽出・分離することは出来ないよ?」


 非常に小さいもの……もしくは小さくなるのもを分解・分離して抽出するのだ。人間を分解・分離したらそれこそ粉々のバラバラになって、『人間だったもの』にしかならないであろう。


「そっちじゃないです! 確実な方です!」


 おばば様の返答を聞きながら「そっちもあるのか」と思ったエヴィだが、今は思考を押し止め一点に集中する。


「……解った。時間はかかりそうか?」

「それ程は」


 ルシファーは頷くと全員に告げる。


「魔人と共に時間を稼ぐ。魔法陣ならペンよりも魔力で刻んだ方がより効果的であろう? 手分けして刻め」


 そう言うとルシファーは背中から羽根を出し、大空高く舞い上がった。


「ベリアル! 勝負だ!」

「……今までひとりで散々カバーしてたのに、休みなしかよっ!」


 魔人は嫌そうな顔でぼやくと、にょろろんとしたしっぽを高速回転させてルシファーの後を追った。

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