21 対決!?・前編
どんどん近づいて来る黒い影に、エヴィ以外の全員が構えるのが見えた。
(……っていうか、私ってばどうしてここにいるのかしら!? ですぜぇ!?)
全くもって何の役にも立たない……というか、どちらかと言えば足手纏いになる筈である。
(こ、ここは勇気を出して『山小屋の中に隠れています』と申告すべきなのかしら????)
集中しているだろうところに声掛けするのも憚られるが。
ひとり心の中でアワアワとしていると、ルシファーの何とも言えない怪訝そうな声が降って来た。
「……どうした、百面相などして」
こんな状況で何とも緊張感がない娘だなと感心する。――エヴィにしてみれば緊張感がないどころか生命の危機すら感じており、何なら軽いパニック状態であるともいえるのだが。
「やっぱり王太子妃になりそうだった人だと、どんな状況でもスン! と(?)してるんだね!」
「普通のお嬢さんだったら卒倒しそうな状況ですが。流石落ち着いていらっしゃいますね」
アロンとシモンが全然、全く、百パーセント間違った方向で認識している。
確かにどんな状況でも冷静であれと教えられるが、今現在全くスン! とはしていないし、落ち着いてもいない。
アビゲイルは苦笑いし、フラメルは微妙な表情をしていた。
状況を察しているおばば様と魔人は、呆れたように胸元を指す。
「通行証があるから、余程のことがない限りは大丈夫だぞ?」
「こんなことは滅多にないから、まあ見学でもしておいでよ」
ふたりに言われて改めて自分の胸元に目をやる。確かに服の下にはルシファーから貰った通行証という名をした防御特化の魔道具を身につけている。
(……そうだった……!)
一気に脱力して笑いが起こりそうになった。
魔人の言う余程というのがどの程度のことを指すのか解らないが、取り敢えずは大丈夫そうだとわかり安心した。
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一方、ベリアルは自分に向かって飛んできた攻撃魔法を魔力で払いのけた。
岩で出来た槍は土魔法の使い手が作ったものだろう。
同時に氷の魔力と風の魔力が増強されていた。ひとりで異なる属性を持つ者は多いが、波動のようなものが別々のものであった。よって複数の魔法使いがいるのであろう。更には今真下にいる魔法使い達とは段違いの魔力だ。
面白い。そう思った時に、強い瘴気が感じられる。
(魔族もいるのか?)
俄然興味が引かれたベリアルは、町への攻撃をやめ、山小屋の方向へと向かうことにした。
「……おばば様たちだね」
踊り子がベリアルの後姿を見送りながら呟く。
マーリンも心の中で同意しながら再び声を張り上げた。
「取り敢えず危機は脱しましたが、まだ油断なりません! 今の内に立て直しましょう。魔術師の皆さんは怪我人にポーションを。魔法使いの皆さんはこのまま防護壁を張って、万が一のことに備えますよ!」
如何せん、山小屋にいる人間たちが軒並み攻撃魔法に特化した者たちなのだ。
(……敵からも味方からも、何が飛んでくるか解りませんからね)
マーリンは自分に言い聞かせるかのように心の中で呟くと、魔力回復の薬を呷るように飲んだ。




