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15 同化・中編

「……何だか、良くない兆候だね」

 おばば様が難しい顔をしている。


「この手のことを読み違えたり取り違えるのが続くのは、きちんと物事を捉えられていないってことだよ」


 それは全員が感じていることなのだろう。


「そういう時は、用心するに限る」


 アロンとシモンは顔を見合わせ、ハクと魔人は頷き合う。エヴィは手のひらを合わせ祈るかのように握りしめた。


「……魔王と魔塔に連絡した方がいい。厄介なことになるかもしれねぇ」

 魔人に続き、シモンが口を開いた。


「北の大魔法使いも召喚願いましょう」

 言い終わる前にアロンが通信魔法のツバメを飛ばす。


******


 一方魔界でも、ルシファーが独自に封印されただろう存在を調査をしていた。


 封印されていた可能性が高いのは大悪魔ベリアル。高位魔族である悪魔の中でも大悪魔という称号を持つ悪魔だ。


 かなり古い時代に生きた悪魔ゆえ、同時期に生きている者は既にいないと言ってよい。

 魔族も寿命は様々で、人間と同じくらいの者もいれば、何倍も何十倍も生きる種族もいる。ルシファーは元々天界の住人であった為それよりも更に長寿であるが、蛇足である。


 魔力の強い魔法使いたちが普通の人よりも長い寿命を生きるように、魔族も魔力が多い者が長く生きる傾向にある。かなり長い生を与えられているベリアルは、相当魔力が強いと考えてよいであろう。

 魔王城の書庫で古い記録に当たっていたルシファーであるが、古い時代のことゆえ殆ど記録などないに等しかった。


 大悪魔ということはきっと当時の魔王候補であったであろう。

 当時の魔王との戦いに敗れたのか、魔王のやり方が気に入らなかったのか。ある日ぷっつりと消息を絶ったという記録しか残っていなかった。


(……どういった特色を持っているのかを知りたいのだが、期待は出来なさそうだな)


 小さくため息をついたところで書庫の扉がノックされた。

 かなりの広さであるのと他の者も使う公的な場所なことから、返事を待たずに扉が開く。


「失礼いたします」

 ハゲワシの執事が足音も立てずに近付いてくる。


「どうした」

「大魔法使い・フランソワーズ様より、こちらが届きました」


 ルシファーは紅の瞳を眇めると本を閉じた。

 差し出されたのは通信魔法の手紙だ。


「珍しいな」

「……お調べの一件ではないでしょうか」


 確かにそれ以外ないだろうと思いながら頷くと、手紙を開いて視線を落とした。

 手紙には今まで解ったことと、嫌な予感がすることが記されている。


「人のことは人がというのが鉄則だが、魔族が絡むのならそうも言っていられなさそうだ」


 顔を上げたルシファーに、執事が御意と返す。

 ふたりはそのまま書庫を後にする。


「……誰か連れて参りますか?」

「いや。大魔法使いたちと魔塔の者たちがいるので大丈夫だろう。……留守を任せる」

「畏まりました」


 ルシファーは背中の羽を大きく開くと、高々と空へ舞い上がった。


******

 

 おばば様の家の壁が、キラキラと光を放つ。大きな魔法陣は見慣れた転移魔法だ。

 中から出て来たのは美しい女性。輝くようなブロンドに藤色の瞳。肉感的なボディラインを強調するようなピッタリとしたローブを纏っている。


 魔法使いらしいアイテムを纏っていながらも、物語の蠱惑的なディランのようであった。


「おっひさ~。勢揃いなんて珍しいじゃないか。厄介事の予感だねぇ」


 スリットから伸びる細い脚に、エヴィは同性ながらドキッとした。

 北の大魔法使い、御年二百歳越えである。


「悪いが、予想通り厄介事だよ」


 仏頂面したおばば様が答える。

 うふふ、と笑う北の大魔法使いに、男性陣――シモンとフラメル、魔人は嫌そうな顔をしたばかりか、アロンに関しては「うげぇ」と不満の声を漏らした。


 マーリンは神妙な顔をしており、ユニコーンとフェンリルはやや警戒している素振りを見せた。ハクは通常通りニコニコと周囲の様子を眺めているが、マンドラゴラはブルブルと震えながら小さく叫び声を漏らしていた。


『ウッワ、ケバイ!』


 茶化すようなタマムシをひと睨みすると、魔法使いらしくタクトを出しては滑らかにひと振りしてぐるぐるに縛り上げた。案の定飛べなくなったタマムシは、ぽてっと床の上に落ちる。


「あなたがエヴィね? まぁ、可愛いね♡」


 緑色の瞳をパチパチと瞬かせているエヴィの顎を、艶やかに色づく爪で突つく。


「北の大魔法使い様ですか? エヴィと申します」


 ワンピースを摘まんでカーテシーをするエヴィに、藤色の瞳を細めた。

 胸に手を当て、ローブを摘まんで礼をとる。


「如何にも。私は北の大魔法使い・アビゲイル。以後お見知りおきを」


 そう言って赤い唇が、魅惑的に弧を描いた。

 

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